飛行機に搭乗したときのお楽しみと言えば「機内食」。これをネット通販で取り寄せられるサービスを航空会社の全日空(ANA)が始め、短時間で完売となるほどの人気を集めている。
購入できるのは、ANAの公式ショッピングサイト「A-style」と楽天市場のANA公式ギフトショップ。2020年12月に機内食のセット販売を始めたところ、既に約2万2000セット、金額にして約1億9800万円以上を売り上げているという。(数字は2021年3月10日時点)
種類豊富な機内食を自宅で味わえる
どんな機内食が味わえるのか。通販サイトを見ると3月現在では、国際線エコノミークラスのメインディッシュとして提供している料理を、5つのパターンでセット販売している。

各セットは3種類のメニュー×4個の計12食で、価格はいずれも9000円(税込)。商品は冷凍状態で届き、レンジで加熱調理する仕組みだ。気になる各セットのメニューは次の通り。
・洋食な一日をセット(ビーフハンバーグステーキデミグラスソース、赤ワインで煮込んだハッシュドビーフ、イングリッシュマフィンとオムレツラタトゥイユ添え)

・よくばり丼ぶりセット(牛丼、天丼、チキンザンギ丼)
・和食3種詰め合わせ第2弾(牛すき焼き丼、鶏唐揚げと彩り野菜弁当、白身魚照焼き)

・和食3種詰め合わせ第3弾(茨城県ほしいもカレー、白身魚照り焼き、紅鮭の彩ご飯)
・まんぷく3種詰め合わせ(鶏もも唐揚げ油淋鶏ソース、シーフードドリア、ビーフハンバーグステーキ)

なお、メニューは時期や状況によって変更の可能性があるとのことだ。
通販サイトではこのほか、ANAのラウンジで提供している「オリジナルチキンカレー」(ルーのみ)も取り扱っている。こちらは3キロの大容量で、価格は4500円(税込)となっている。

ANAによると、機内食などの通販は予想以上に人気を集めていて、在庫が確保でき次第、再発売しているが、早いものであれば1時間を立たずに売り切れてしまうという。

確かにおいしそうではあるが、牛丼や白身魚の照り焼きなどであれば、同じ味ではないにしろ、飲食店で食べられるメニューもある。なぜ、機内食の通販がここまで人々を引き付けるのだろう。
ANAの機内食を製造・販売している「ANAケータリングサービス」の担当者に聞いてみた。
コロナ禍で機内食の需要は9割減に
ーー機内食の通販を始めた経緯は?
お客さまの声がきっかけです。コロナ禍で飛行機が利用しにくい時期が続いていますが、会社側には「機内食を食べたい」「機内サービスを受けたい」などの声もいただいております。SNSでもそうした意見が見られたので、機内食が提供できれば旅のワクワク・ドキドキを感じていただけるのではと、販売を始めました。
ーー機内食は通常、飛行機でどう提供される?
機内食は空港近くにある製造工場で作られ、それを「フードローダー」という、荷台部分を上下できる専用車両で運び、飛行機に搬入します。搬入は出発時間の1時間30分~2時間までには終えていて、冷蔵状態で保存をしております。
その後は安全な飛行に入った段階で、加熱が必要なものはオーブンで、必要でないものはそのままで、客室乗務員がお客さまに提供しております。

ーーコロナ禍で機内食の需要に影響はあった?
機内食の需要は航空機のニーズに左右されます。今は運航本数が少ない状況が続いていて、従来と比べると機内食の需要も約9割減の状況です。この影響で、調理従事者やオペレーション部門のスタッフが、一時的に休業状態になったこともあります。
ーーその中でこの人気。考えられる要因は?
ここまでご好評をいただけるとは思っていなかったので、ありがたい気持ちです。人気の要因は「リアルな機内食をお届けしたい」という思いから、アレンジなどはせずに、本物の機内食をそのまま販売したのが一つのポイントだと考えております。

高い場所でもおいしいように「味のメリハリ」をつける
ーー機内食ならではの味の違いや特徴はある?
人間は高度が高い場所だと、味覚が地上よりも鈍ると言われています。機内食はそこに配慮していて、味付けにメリハリをつけています。ですが、味を濃くしているわけではなく、特別に調合しただしをきかせたり、ソースにワインを使ってコクを出したりしています。
このほかにも、機内では薄暗いときがあるので、料理を目でも楽しんでいただけるよう、赤色や緑色の素材を使うなどしています。ここは普段から工夫しているところです。
ーー調理法などでの工夫はある?
ビーフステーキを例に説明すると、機内食は製造からお客さまへの提供までが長いため、製造時に火を入れすぎると、機内で再加熱したときに食材が固くなる可能性があります。そのため、製造工場での火入れの加減などを工夫し、機内の再加熱で仕上がるようにしています。

ーー購入者の感想や意見を聞かせて。
購入者からは「応援する気持ちで購入した」「ストック用としてもいい商品」「家でも旅行気分を味わえる」などと、嬉しいお言葉をいただいております。テレワークでの食事、学生の夜食用などとして、ご購入いただいていることが多いようです。
「ビーフorチキン」ごっこも楽しめる
ーー搭乗気分を味わえる方法やお勧めの食べ方は?
社内での実践例だと、家族に客室乗務員役を頼んで「ビーフorチキン?」などと聞いてもらうと思ったより盛り上がるそうです。小さな子供がいる家庭でも楽しめると思います。
食べ方としては、冷凍状態の商品を温めるより、冷蔵庫に24時間ほど置いてから温めたほうがよりおいしく食べられます。急速に温めると表面の水分が飛んでしまい、温まり具合にムラが出ることがあるため、解凍してから加熱いただくのがお勧めです。

ーー今後の展開方針は?
航空事業以外での収益は、ANAグループとしても大切なので、機内食販売は重要な事業だと考えております。今後の展開は未定ですが、お客さまからは、ビジネスやファーストの機内食も提供してほしいというお言葉はいただいております。
ーー読者に伝えたいことはある?
機内食は食材や品質にこだわりをもって作っていますので、ご自宅でも「こんなにおいしいんだ」と感じていただけると思います。コロナ禍が収束した際には、機内食の味を今度は、機内サービスとともに体験していただければと思います。
コロナ禍は航空業界に大きな打撃を与え、影響が心配されている。そうした中、機内食の通販は明るい材料になっているようだ。旅行や飛行機の搭乗を我慢している人は「おうち機内食」を味わうことで、思いにはせてみるのもいいかもしれない。
(画像提供:全日本空輸株式会社)
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