米国のバイデン政権発足から一カ月が経過した。世論の分裂を抱えながらも、強気で改革を目指す意欲的な滑り出しだ。コロナ禍を乗り越え、世論の団結を実現できるのか。正念場はこれからである。

大統領権限と立法の双方で意欲的な滑り出し

バイデン政権の滑り出しは、驚くほど意欲的だ。

例えば、大統領権限の活用である。1月20日の就任からの一カ月で、バイデン大統領は30件を超える大統領令に署名した。1980年代のレーガン大統領以降の実績を平均すると、就任から3カ月で署名された大統領令の平均は約13件に過ぎない。トランプ前大統領も大統領権限を積極的に活用したが、それでも就任から3カ月の合計は23件に止まる。

驚くほど意欲的なバイデン政権
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大統領権限の活用は、議会等の手を借りずに、手っ取り早く政策を進める手段である。バイデン氏の場合は、気候変動対策に関する規制の見直し等、トランプ氏の政策を覆す内容が目立つ。

もっとも、大統領権限の威力には限界がある。予算を伴う政策を実行するためには、議会による立法が必要だ。大統領といえども、議会を攻略できなければ、大胆な政策は遂行できない。

バイデン氏は、この点でも強気に攻めてきた。最初の課題は、コロナ対応の追加経済対策である。バイデン氏は、1.9兆ドルの追加対策を実現するよう、議会に働きかけている。

既に米国は、トランプ前政権の時代に3兆ドルを超える対策を断続的に実施してきた。2020年度の財政赤字は3兆ドルを超え、GDP(国内総生産)比では過去50年の平均の約4.5倍にまで膨れ上がっている。

それでもバイデン政権は、1.9兆ドルという巨額の追加対策を提案してきた。共和党を中心に巨額の対策への懐疑的な意見は強いが、バイデン政権はあくまでも大胆な対策での正面突破を選んだ。

分裂下でも議会戦略は強気

特徴的なのは、共和党の反対意見をものともしない、バイデン政権の強気な議会戦略である。バイデン政権は、民主党議員の賛成だけに頼り、追加対策を成立させようとしている。共和党議員の意見を聞く機会は設けてきたものの、実質的な譲歩には慎重である。

こうした強気な戦略は、従来のバイデン氏の発言からは違和感がある。就任演説でバイデン氏は、団結という言葉を繰り返した。トランプ政権下で深まった世論の分裂を癒し、団結して難局に立ち向かう。それがバイデン氏の主張だったはずである。

政権交代を経ても、分裂の傷跡は深い。政権発足後の世論調査では、バイデン氏の支持率は50%台後半を記録し、前任のトランプ氏を凌駕する。しかし、バイデン氏を「支持しない」とする回答も多く、その水準は第二次大戦後の大統領の平均を上回る。民主党支持者による支持率が90%台後半であるのに対し、共和党支持者からの支持率は10%台前半に沈んでおり、両者の差は第二次世界大戦後の大統領で最大だ。

(ギャラップ世論調査より)

議会での勢力も盤石ではない。大統領選挙と同時に投票が行われた議会選挙により、バイデン氏の民主党は上下両院で多数党の座にある。しかし、上院での議席数は同数であり、副大統領のハリス氏による一票で辛うじて多数を確保している状況だ。下院でも民主党は議会選挙で議席を減らしており、改選前より共和党との議席の差は縮まった。

「融和の象徴」紫のドレスを着用して就任式に臨んだハリス副大統領

分裂の現実を踏まえると、上下両院で民主党が多数党とはいえ、共和党との協力を排除した議会戦略は容易ではない。とくにギリギリの多数党である上院では、民主党議員の離反は一人たりとも許されない。様々な意見を持つ民主党の議員を、バイデン氏の求心力で束ねる必要がある。また、共和党からは厳しい反発が予想され、団結の理想が遠のくリスクは軽視できない。

コロナ対応が一丁目一番地、団結は実績についてくる?

分裂を抱えながらもバイデン氏が強気に出ている背景には、二つの追い風がある。

第一に、共和党の混乱である。トランプ氏との距離感を巡り、共和党内の意見は一致していない。党としての将来像が描けておらず、一丸となってバイデン氏に抵抗するだけの迫力に欠ける。

トランプ大統領との距離感を巡り一枚岩とは言えない共和党

第二に、経済再建に向けた世論の期待の高まりだ。世論の分裂が著しい米国だが、経済再建を重要課題と考える点においては、支持政党による意見の違いは少ない。バイデン政権が提案する追加対策でも、とくに現金給付は支持政党を問わず人気が高い。

経済再建に向けた世論の期待は高い(PEW RESEACH CENTER調査より)

バイデン政権とすれば、政策の決め方がどうであれ、コロナ禍を乗り越え、経済再建を実現できれば、支持のすそ野を広げる好機となる。共和党も抵抗が難しくなり、気候変動対策やインフラ投資等、本丸となる公約の実現にも弾みがつく。実績が団結を実現する構図が描けるのであれば、強引な進め方にも勝機はある。

大前提は、コロナ禍の克服だ。ようやく米国では、ワクチンの接種が軌道に乗りつつある。バイデン氏の強気の一手が功を奏すかどうかは、コロナ禍の行方にかかっている。

【執筆:みずほ総合研究所調査本部 欧米調査部長 安井明彦】