長野県信濃町の養殖場についてです。祖父から父、そして息子へ―。黒姫の清らかな水で育てた川魚の味と、60年以上続く養殖場の伝統を30歳の3代目が受け継ぎ、新しい風を吹き込んでいます。
■Uターンして家業継ぐ 3代目の思い
長野県信濃町の黒姫山の麓。豊かな水を使って育てているのは、ニジマスやイワナ、信州サーモンです。
60年以上にわたって川魚の養殖や加工を行っている「黒姫ガーデン」。
2年前にUターンして家業を継いだのが3代目の竹村拓馬さん(30)です。
黒姫ガーデン 3代目・竹村拓馬さん:
「親孝行したいというのもあったけど、それより自分の祖父、おじいちゃんおばあちゃんと両親がたくさんの時間を注いできたものを目の前でやめさせるわけにはいかないと思った」
■創業67年 祖父、父、子へー
黒姫ガーデンは祖父、父、拓馬さんへと引き継がれてきました。
祖父の憲伍さん(90)が創業したのは今から67年前の1959年。土地を買い取り、スコップを使って手作業で、養殖のための「いけす」を作ったそうです。
祖父・憲伍さん:
「水源地から水路でずっと来ているんですけど、この水を絶やすと命取りになっちゃうもんで、だからそれを絶やさないこと、それを気を使っている」
川魚の養殖において大事なのは、「きれいな水」で黒姫の天然水を利用しています。
■都会での日々…気づいた地元の良さ
祖父と父の背中を見て育ってきた拓馬さん。しかし、家業を継ぐつもりはありませんでした。
都会に憧れ、高校卒業後は自衛隊に入隊。その後、不動産の営業職や運送会社の経営など、さまざまな仕事を経験。
都会で忙しく働く中、ふと地元へ帰った時に訪ねたサウナで、自分の人生を見つめ直し、改めて地元の良さに気づいたといいます。
竹村拓馬さん:
「社会的な成功っていうのが果たして、本当に自分にとって幸せなのかっていうのをもう一回問いかけたときに、この自然とか場所が次の世代に受け継がれていく方が、もっと幸せなんじゃないかなって」
■「うれしかった」祖父や父も期待
家業を継ぐ決断をした拓馬さんに、祖父や父は―。
祖父・憲伍さん:
「もちろん(うれしかった)。息子(真吾さん)と2人じゃちょっとなっていうこともあったので、助かっている」
父・真吾さん:
「果たしてどこまでできるのかなっていうのはやっぱりありましたし、すでに半分くらいは3代目に譲りつつあるので、あとはまだ半分が足りていないので、どうやって俺の方でサポートしていくかが一つ課題」
■祖父の代から続く「伝統の味」
この日、行っていたのは、ニジマスの甘露煮の仕込みです。
まずはニジマスを焼くために、串を刺す「串打ち」と呼ばれる作業から。手際よく進める拓馬さんですが、始めたころは苦手だったそうです。
竹村拓馬さん:
「最初はダメ出しをくらって全部やり直ししてもらったりとか、そういうのもあったりして、両親のやつを見ながら自分のと比べてというのは最初やっていた。最初はどうしても力を入れすぎてしまうんですよね。刺そう、刺そうと思って」
魚を焼いてから煮込むのは、「黒姫ガーデン流」。煮崩れを防ぐためで、受け継いできた作り方です。
ニジマスの甘露煮は黒姫ガーデンの主力商品で、祖父の代からの味です。地元の道の駅やネット販売などで購入できます。
■祖父の時代のバーベキュー場復活へ
魚の加工だけでなく、養殖もほとんどの作業は拓馬さんが行っています。
竹村拓馬さん:
「(父から魚の選別を)教わっていたときのコツは、お皿に乗っかったときに良さそうだなと思えばそれでいい。めっちゃわかりづらいアドバイスをもらいました」
祖父から父へ―。父から子へ。
養殖から加工までの一連の作業の多くは、拓馬さんに引き継がれました。
その一方で、拓馬さんが新たに始めたことがあります。
敷地内に建設中の「バーベキュー場」です。祖父の時代にあったものを、もう一度復活させようとしています。
竹村拓馬さん:
「こっち側に新しく、原始焼きっていう塩焼きの焼き方があるんですけど、それ用の焼き台をつくって、テーブルとイスを用意してっていうのを考えている。こういった何もない自然だからこそ、価値があるのではないかと思う」
■新たな挑戦 地域イベントに出店
そしてもう一つ、新たな取り組みが。地域のイベントなどへの出店です。
出すのは、もちろん自分が育てた川魚の料理です。この日は、イベントの1週間前。
拓馬さんが出そうと考えているのは、ニジマス、イワナ、信州サーモンの3種類の魚を使ったみそ汁です。
竹村拓馬さん:
「きょうは信州サーモンだけなんですけど、当日はイワナとニジマスも入ったら、うまいことは間違いないので、それがどんな味になるのかすごく楽しみ」
父・真吾さんも試食―。
父・真吾さん:
「いいと思います。全然問題ないですね。濃いとか薄いとかは、自分で研究してもらって」
■3種の魚のうま味「黒姫三魚汁」
イベント当日。長野市のセントラルスクゥエアには、たくさんのブースが並びました。
竹村拓馬さん:
「いけそうだったら頭までいっちゃってください」
拓馬さんが販売したのはイワナの塩焼きと「黒姫三魚汁」です。
予定通り、ニジマス、イワナ、信州サーモンの3種類を加え、寝る間も惜しんで作り上げた自信作です。
黒姫三魚汁を食べた人:
「すごくおいしいです。イワナ(塩焼き)も迷ったんですけど、これは3種類の魚が入っているというところで全部楽しめていい」
「普通のかつおだしとか、昆布だしとかとはまたちょっとコクが違う感じがして、もっと深みのあるうま味を感じる」
竹村拓馬さん:
「黒姫ガーデンとして本質的な業務というのはちゃんとやった上で、こういった新しい形で川魚の魅力だったりとか、黒姫の自然の魅力、そういったものを届けられればいい」
■「黒姫山の恵みで育った魚を全国に」
技術や伝統、味を引き継ぎながら、新たな挑戦を行う拓馬さん。川魚の魅力を、そしてふるさとの魅力を発信していきたいと考えています。
祖父・憲伍さん:
「世の中の動きに沿っていってもらわないと、1人でやっていたってだめ」
父・真吾さん:
「一気に飛び出してしまって失敗するよりも、やっぱり地味な仕事の方を積み重ねていって、その上である程度のことにまたチャレンジしてもらえれば」
黒姫ガーデン 3代目・竹村拓馬さん:
「信濃町とか長野県をもっともっと盛り上げていきたいという思いが最初からすごく強い。もっとこの黒姫山の恵みで育った魚っていうのを全国に届けていきたいっていう思いもありながら、自然を守っていきたい」
