今、各地で相次ぐ、人里近くへのクマの出没。
そんな中、去年から可能となったのが、市町村の判断のみで実施できる『緊急銃猟』です。
「緊急銃猟」は、人命への被害の恐れがある場合に、これまで都道府県や警察の許可が必要だった野生動物の捕獲や駆除を、特例的に市町村の判断で行えるようにした制度で、去年創設されました。関西ではこれまで8件実施されています。
しかし実際に対応にあたったハンターらを取材すると、通報から1時間40分で対応した事例がある一方、通報から銃猟まで7時間かかるなど、文字通り“緊急”に対応できない現実も明らかに。
人命を守る切り札、「緊急銃猟」の実情と課題を徹底取材しました。
■ドングリの凶作 クマ目撃件数は過去5年の平均を大きく上回る
兵庫県でのことし4月から9月末までのクマの目撃件数は615件で、過去5年間の平均を大きく上回っています。なぜここまで出没が増えているのか。
取材班は、専門家とともに、クマが相次いで出没している豊岡市の山中に向かいました。
【兵庫県立大学 藤木大介准教授】「この辺ずっとコナラが生えてまして、全然ドングリがなっていない」
クマの食料となるドングリは、去年は豊作でしたが、今年は「大豊作から大凶作」まである6段階で分類されている中の、2番目に低い「凶作」です。
今の季節、地面に落ちているはずのドングリは見当たりません。豊作であれば枝先に残っているはずのドングリの帽子部分も、今年は全くありませんでした。
専門家は、「お腹をすかせた冬眠前のクマが人里に降りてくる危険性が高まっている」と指摘します。
【兵庫県立大学 藤木大介准教授】「今年はかなり出没が多い。気を付けないといけない年になっている。これから11月の中旬ぐらいまでは、そういった状況が続いていく」
■通報から1時間40分 豊岡市の迅速な対応
10月10日、兵庫県豊岡市の住宅の敷地内で撮影された映像には、1頭のツキノワグマが一心不乱に柿の実を食べ続ける姿が映っていました。
周辺では頻繁にクマが目撃されており、近隣住民は不安を口にします。
【近隣住民】「夜中、柿の木の上に、(クマが)登っていてダーっと降りて。みんなやっぱり怖がっている」
近隣住民から「クマが柿の木に登っている」と通報が入ったのは、午後4時ごろでした。そのわずか10分後には、ハンターが現場に到着しました。
駆けつけたのは、市が直接雇用する“ガバメントハンター”です。
■市が直接雇用する“ガバメントハンター” 通報から5分以内には家を出られる体制に
【豊岡市林務水産課 島田慎吾さん】「今の時期ですと、通報があってすぐに(ガバメントハンターが)出られる体制を常にとってますので、通報があって5分以内とかに家を出られるような形にはしていると」
現場で対応にあたった豊岡市有害鳥獣害対策員の加藤貴士さんは、当時の状況をこう振り返ります。
【豊岡市有害鳥獣害対策員 加藤貴士さん】「私が確認した時には、(クマは)トタンの上側にいた。登っているような状態でした。いつ降りてきて、どういう行動を起こすか分からないと思うと、かなり危険だったかなと思います」
柿の木にはクマの爪痕が残っていました。
人におびえる様子もなく堂々としていたというクマについて、市は、追い払っても再び住宅地へ戻る可能性が高いと判断し、午後5時40分ごろ、加藤さんとは別のガバメントハンターが、木の上にいたクマを猟銃で駆除しました。
通報から銃猟までは、わずか1時間40分です。
■以前はクマ発見から「3日間」
豊岡市は以前、こうした対応ができず苦労したこともありました。
【豊岡市林務水産課 島田慎吾さん】「数年前に交通事故で弱ったクマが(民家に)居座った案件がありまして、最終的には警職法という警察官の命令によって発砲して捕獲を行った。結論が出るまでに、おおよそ3日間かかって、市町の責任のみで実施するっていうことは、やはりスピード感が違ってきます」
■“緊急”だけど通報から銃猟まで「7時間」
一方、10月9日に兵庫県丹波市の住宅地にクマが出没し、緊急銃猟が行われた事案では、住民からの通報が午前9時40分ごろ、緊急銃猟が行われたのは午後4時20分ごろでした。
発見から銃猟にいたるまで、なぜ7時間もかかったのでしょうか。
丹波市から緊急銃猟を要請されたのは、神戸市北区にある民間業者の野生動物保護管理事務所です。
関西支社長の中川恒祐さんは、近畿初となったことし7月の奈良県東吉野村での緊急銃猟を指揮しました。
【野生動物保護管理事務所 中川恒祐関西支社長】「装薬銃(猟銃など)での緊急銃猟対応はやっていない。麻酔銃で対応」
クマが住宅地に出没するケースも多いことから、猟銃ではなく麻酔銃が選択されることも多いといいます。ただし、現場は大きな危険を伴います。
【野生動物保護管理事務所 中川恒祐関西支社長】「(麻酔銃が)当たったからといって、すぐに寝るわけではない」
ことし6月の福島市の事案でも、麻酔銃が当たった後にクマが向かってきた場面がありました。
■麻酔銃の麻酔の濃度を決めるには獣医の資格も 自治体で扱える人材はほとんどおらず
麻酔銃という方法は、時間がかかる要因の1つにもなっています。
所持に警察の許可が必要であるほか、撃つ際の麻酔の濃度を決めるには獣医の資格も必要とあって、自治体レベルで扱える人材は、ほとんどいないといいます。
【野生動物保護管理事務所 中川恒祐関西支社長】「麻酔や対象動物の知識が必要になってくるし、銃を扱うことの技術・知識、かなりいろんな要素が関わってきて、それを身につけた人間が現場で安全に捕獲をできる」
遠方から駆けつける必要があり、丹波市の事例では、依頼を受けてから到着までおよそ1時間半を要しました。
さらに別の要因もありました。
丹波市には、豊岡市のような専門的な知識を持った職員がおらず、住民の通報を受けてから業者に派遣を依頼するまで、3時間かかったのです。
【丹波市担当者】「市だけでは緊急銃猟が適切かの判断材料を作れず、兵庫県などに相談していた。時間をかけるほど、想定外の事態を招く恐れがあり、時間を短縮すべきだった」
■自治体に相次ぐ抗議 専門家による判断と説明を
緊急銃猟をめぐっては、自治体に抗議も相次いでいます。
兵庫県丹波市には「クマの駆除は必要だったのか」といった問い合わせがありました。また京都府舞鶴市には先月、職員を誹謗中傷する電話もあったということです。
西脇亨輔弁護士はこういったことを防ぐために、「自治体が丁寧に説明できるかが鍵になる」といいます。
【西脇亨輔弁護士】「そのためには専門家が必要。アメリカには野生動物管理官(レンジャー)という職業があり、この専門家が保護すべきケースか、駆除はやむを得ないのかの判断も含めて、専門知識のもとで行い説明もできる。日本でもそうした体制を考える時期に来ているのではないか」
(関西テレビ「newsランナー」2026年10月30日放送)
