先週、中国からソーセージ21キロを日本に持ち込んだ疑いで、女が逮捕されました。なぜ逮捕にまで至ったのでしょうか。
実はこの行為は、私たちの食卓や日本の畜産農家に取り返しのつかないダメージを与えるかもしれないのです。
背景にあるのは、肉に迫る伝染病の危機です。
その影響は海外産の生ハムにも及び、スペイン料理店のシェフは「来年からはなんとも言えない」と話します。
一方、日本の畜産の現場では、徹底した対策が取られています。
今すぐそこまで迫っている肉の危機と、水際の攻防を徹底取材しました。
■関西空港の水際 探知犬「ガヨ」が肉製品を探す
10月27日、大勢の旅行客でごった返していた関西空港。
スーツケースを見つけては、くんくんと匂いを嗅ぎながら旅行者の間をぬって進むのが、ラブラドール・レトリバーの「ガヨ」3歳です。
ガヨは動植物検疫探知犬という特殊な訓練を受けた犬で、あるものを発見すると職員にメッセージを送ります。
その合図が“お座り”です。探すのは、海外から持ち込まれる肉製品などです。
背景にあるのは、世界中に広がりつつある「アフリカ豚熱」です。中国や韓国などアジア各国でも感染が確認されており、ウイルスは汚染された肉やヒトの靴などに付着して運ばれます。
ガヨは水際で、日本へのウイルスの侵入を防いでいます。
■ガヨがリュックに反応 中身は母が持たせたシチュー
入念に荷物を嗅いで回るガヨが、ある入国者のリュックサックに反応し、“お座り”しました。
検疫所職員が「調べさせてもらいますね」と声をかけると、スペインから来たという女性が自ら取り出したのは、スープ用のジャーでした。
【検疫所職員】「中に肉は入ってる?」
【スペインから来た女性】「分からないけど、肉と一緒に調理したものかな」
中に入っていたのは、肉を使ったシチューでした。長旅をする娘にお母さんが持たせたもので、女性は「飛行機の中で食べようと思ったけど、ふたが開かなくて食べられなかった」と話しました。
持ち込む理由は人それぞれですが、発見した肉製品などはすべて焼却処分となります。
【動物検疫所関西空港支所 岩中麻里次長】「家畜の伝染病は、正規の加熱をしていないと(病原体が)残る可能性があります。汚染されている可能性が否定できないので、(持ち込みが)ダメです」
■ソーセージの密輸で逮捕 約4800円の報酬で21キロ
このような厳戒態勢の中、逮捕にいたる事案がありました。
中国籍の孫楠楠容疑者(47)が日本に持ち込んだのは、21キロにも及ぶ中国製のソーセージです。段ボールに詰め、スーツケースに入れていたということです。
警察によると、孫容疑者はSNSで何者かに依頼を受けており、成功すれば日本円で約4800円の報酬を得る約束でした。
調べに対し、孫容疑者は「ソーセージに肉が含まれているとは知らなかった」と話しているといいます。
■中国人にとっての故郷の味だったソーセージ 日本では流通せず
街で中国人に尋ねると、ソーセージは身近な食べ物のようです。
【日本在住の中国人】「中国では食べていたよ。カップラーメンに入れたり、そのまま食べてもおいしい」
【日本在住の中国人】「日本のソーセージとはまた違う。こっちの方が添加物のにおいが(する)。体に悪いのは知ってるけど、食べたいですね」
ただ、中国食材を扱う店を確認しても、中国製のソーセージは見あたりませんでした。
置かれていた中国風のソーセージの裏を見ると、埼玉県で製造された日本産の商品です。ほかの肉製品にも「日本産」の文字があり、多くの店では、日本の会社が本場の味を再現した肉製品を扱っているようです。
では、密輸品はどこで流通するのか。別の店の関係者は次のように話します。
【別の店の関係者】「レストランに直接安く販売しているのではないか。パッケージをはがせば、密輸品だと分からない」
■生ハムにも迫る影響 輸入停止から続く不安
脅威は食卓のすぐ近くまで迫っています。
大阪市内のスペイン料理店では、客が「スペイン料理というと前菜には必ず生ハム」と話すほど、生ハムが人気です。
しかし、スペイン産の生ハムは「アフリカ豚熱」の影響を受け、去年11月から輸入が停止されています。生ハムの産地であるイタリアでも、2022年に感染が確認されました。
現状、去年10月末までに梱包されたスペインの生ハムは流通していますが、来年以降の仕入れのめどは立っていません。
【カンバッシー 石橋篤シェフ】「ことしいっぱいは入荷しますけど、来年からは何とも言えないです。病気が発生した後のパッキング(梱包)は、やはり日本には入ってこれない」
シェフは、生ハムはスペインの食文化の中でなくてはならないものだとしたうえで、「(ルールを守らないと)スペインの生ハムも再開が遅れたりするかもしれない。(肉の持ち込みに対して)意識は高く持ったほうがいいと思う」と語りました。
■防護服と消毒を徹底 養豚場の危機感
日本の畜産業者の危機感も非常に高いものでした。
取材班が訪ねた滋賀県の養豚場では、豚舎に入るときは誰であっても防護服に着替え、長靴にも履き替えます。
【藏尾ポーク 藏尾翼代表】「ここに長靴を浸けてもらっていいですか。消毒液を薄めているんです」
手もアルコールで消毒します。藏尾代表は、その理由を次のように語ります。
【藏尾ポーク 藏尾翼代表】「『畜舎内には菌を持って入らない』というのが大前提。豚熱が発生してしまったら、殺処分が行われることになる。豚たちが殺処分されてしまったら、私らが生活できない」
実際、滋賀県では2019年に「豚熱」の感染が確認され、近江八幡市の農場で飼育されていた豚699頭が殺処分されました。
1頭でも感染したら“命とり”であるため、豚舎から別の豚舎に移動するたびに服を着替えるほどの徹底ぶりです。
藏尾さんはプライベートでも、アフリカ豚熱や口蹄疫(こうていえき)があることから、基本的に海外へ行ったことがないといいます。
■対策を尽くしても残る不安
それでも不安は尽きません。
【藏尾ポーク 藏尾翼代表】「“肉を持って入っていいか、悪いか”が、一般の人が分からないんでしょうね。『何があかんねん』と言っているのを、テレビで見たことあったんで。それが怖いねんな」
何気なく運んだ先に、取り返しのつかない事態を招きかねない食品の密輸。
今、一人一人の行動が問われています。
(関西テレビ「newsランナー」2026年10月28日放送)
