“愛媛の3種類の鯛めし”松山市の『北条鯛めし』に注目!
昆布と醤油だけで、丸ごと一匹の鯛を炊き上げる。
愛媛県松山市の「北条鯛めし」は、驚くほどシンプルな郷土料理である。
江戸時代から親しまれてきたこの味には、実は神功皇后の伝説にまでさかのぼるルーツがあるという。
「鯛めし」といえば中予を中心に親しまれている『炊きこみ』と、刺身をタレに絡めて食べる『宇和島鯛めし』、そして東予で誕生した『洋風焼き鯛めし』が“第3の鯛めし”として注目されている。
地域によって作り方や食べ方が違うが、注目するのは松山市の『北条鯛めし』。
“深すぎる”そのルーツをひも解く。
1853年創業 老舗旅館・太田屋の「白い鯛めし」
「鯛めしを食べるのは50年ぶりか、それぐらいかな。それが思い出の味だから、このあっさりしたすっきりとした鯛めしっていうのは期待通りやったね」
「他のものと食べてもじゃましない感じ何にでも合いそうだって感じます。これは鯛めし、はまりそうですね」
多くの客を魅了してやまない『北条鯛めし』。
使うのは丸ごと一匹のタイだ。
昆布と醤油だけで炊き上げる驚くほどシンプルなこちらの鯛めし、江戸時代から親しまれてきた伝統の味だ。
その味を今に伝えるのが、1853年嘉永6年創業の太田屋。
旅館として、そして鯛料理を楽しめる店として長年親しまれている。
店内にはタイをかたどった欄間も残され、古くからタイがこの町で身近な存在だったことがわかる。
太田屋の7代目店主、岩渕貴之さんは語る。
「今治から松山にかけてが『斎灘』という海域になりますけど、潮の流れが速いので鮮度のいいたくましいアスリート的なタイが獲れる。鯛めしにするには脂があんまりないタイがいいんです」
北条の沖に広がる斎灘は古くから良質なマダイの漁場として知られ、鯛めし文化を支えてきた。
岩渕さんは「鮮度のいいタイが常日頃入りますので、焼かずにそのまま生で入れて炊いてるって状況ですね」と話す。
丸ごと一匹炊き込むことで骨や頭からもうま味が染み出し、タイの甘みと相まって奥深い味わいに仕上がる。

「北条鯛めし」を語る上で欠かせない『鹿島』
春から秋にかけ、北条のシンボル・鹿島で自慢の鯛めしが楽しめる。
船でわずか数分の距離にある鹿島は古くから、地元の人たちの信仰の対象として親しまれてきた。
北条の鯛めしを語る上で欠かせない場所だ。
岩渕さんによると、北条鯛めしの歴史は「神功皇后伝説から始まってますので、大体1700年から1800年ぐらい前から」続くそうだ。
地元に残る言い伝えでは、紀元200年ごろ神功皇后が朝鮮出陣の途中に鹿島に立ち寄り、戦勝を祈願したとされている。
そのとき、地元の漁師たちが近海で獲れたタイを献上。
そのタイをのせてごはんを炊き差し出したところ、大変喜ばれたと伝えられ、これが『北条鯛めし』誕生のきっかけと言われている。
「大昔はおそらく海水で炊いてたんです。シンプルに鯛の風味、鯛が味わえる鯛めし」そして太田屋の鯛めしには大きな特徴がある。炊いた米が白い。」

特製のしょうゆを使うことで、タイそのもののうま味を引き立てている
岩渕さんによると「醤油の風味をとばした醤油を作ってもらうようにしまして、醤油屋さんからしたら、醤油の風味のない醤油なんてなんか作れるかって話なんですけど、結局出来上がってみると海水に近い醤油になったわけです」と味わいの深さに自信を持っている。
特製のしょうゆを使うことで、タイそのもののうま味も引き立つ。
その味わいは好評だ。
「ご飯だけでもおいしいし、おかずいらん」
「タイだけですけど、本当に味に深みがあってすごくおいしいです」
太田屋の鯛めしは、驚くほどシンプルな姿で受け継がれている。

だんじりが練り歩き、一年で最も熱気に包まれる日
毎年10月に盛大に行われる『北条秋祭り』。
だんじりが練り歩き、一年で最も熱気に包まれる日だ。
脈々と受け継がれてきた北条鯛めしの文化は、今もしっかり地域に根付いている。
「けがのないように、ええ祭りにしたいと思うので、よろしくお願いします!乾杯!」
鯛めしは祭りや祝いの席に欠かせないハレの料理。
子供からお年寄りまで、鯛めしのおにぎりを口一杯にほおばる。
参加者:
「ちっちゃい頃から食べて、鯛めしで大きくなった感じですね、自分も」
「おばあちゃんの味といいますか、お母さんの味といいますか。これは切っても切れないものですね。ないとさみしい枕と一緒っすね」
「各家族にそれぞれの味があるわけ家庭の味でもあるけど、もてなしができる料理なんだよね」
鯛めしに関する思い出は、皆さん尽きないようだ。

祭りと暮らしに根付くハレの料理
鹿島の目の前にある濱地区。
古くから漁業で栄えたこの地域では、今も祭りのたびに鯛めしが振る舞われている。
その味を受け継ぐ一人が宮内康輔さんだ。
宮内さんは語る。
Q.作り方は誰から教わった?
「お袋ですね。で、嫁さんがちょっとアレンジして、醤油だけだったらちょっと黒くなるんで、塩と醤油で調整して、色も炊き上がりも白い見た目もいい感じ」
この日、宮内さんが炊く鯛めしは3升、4.5キロほど。
妻のアイデアで隠し味に酒を入れるそうで、受け継いだ味を守りながら、工夫を重ね、それぞれの家庭の鯛めしが育まれていく。
見事に炊き上がった鯛めし。
しかし、実はここからが鯛めしづくりの最も重要な工程だ。
炊き上がるとすぐにタイを取り出し、その身を細かくほぐす。
「冷めたら混ざりにくいですね。味が万遍に染みない」と語る宮内さん。
まさに時間との戦いだ。

鯛めし談義に花が咲く
熱々のタイと格闘しながら、鯛めし談義に花が咲く。
「うちはお醤油味かな…なんか素朴な家庭の料理はねお醤油味よね。料理屋さんみたいなきれいな白い味じゃなくてね」
「帰ってきたらみんな鯛めしが食べたいかな、みんなが集まる時に鯛めし出してほしいって言われることが多いですね」
暮らしに根付いてきた鯛めし。
ほぐした身を一気に混ぜ合わせると鯛めしの完成だ。
作った鯛めしはみんなが食べやすいように、おにぎりにする。
この鯛めしが忘れられない思い出の味になるのだ。
だんじりのかき手:
「本当に何も思ってないのに、急に食べたくなるとかあります」
「母ちゃんがこの北条で、親父が宇和島で、だから自分は鯛めし界のサラブレッド!どっちが好きと言われたら…誰にも言わんといて下さいよ…北条…」
地元にとっては思い出の味である北条鯛めしは、最近では海外からの観光客にも人気で、今や愛媛を代表する観光コンテンツとしても注目されている。
全国の皆さんも、ぜひ鯛めしを食べに愛媛を訪れてみませんか。


