石川県野々市市議会で、議員の月額報酬を現在の38万円から16万6000円引き上げ、54万6000円とする案が議論を呼んでいる。議会側は「現在の報酬では専業での活動が厳しく、なり手が限られる」と主張するが、物価高に苦しむ市民からは「上げすぎではないか」と疑問の声も上がる。賛否が分かれる議員報酬の引き上げ問題。その背景と妥当な額について、当事者たちの声から考える。
月収38万円→54万円へ 野々市市議会の報酬「大幅増」案

石川県内では自治体議員の報酬引き上げの動きが相次いでいる。その中でも野々市市議会が目指すのは、現在の月額38万円から一気に10万円以上増額となる54万6000円への大幅な引き上げだ。議員1人当たりの年収は、期末手当を含めると現在約642万円。この報酬額を変更するには、条例に基づき、市長の諮問機関である「報酬等審議会」の意見を聞く必要がある。10月5日、議会からの求めに応じて審議会が開かれ、議員報酬の妥当な額について議論が交わされた。
増額案を検討してきた北村大助市議は、この提案が決して特別な要求ではないと語る。「平均以上のことを求めているわけではない。元々の数字の分母が低すぎるというところをまず平均に評価するとここの数値なんですよと」。



議会側の考え方はこうだ。人口約5万8000人の野々市市と同規模の全国の市議会を見ると、議員報酬の平均は月額40万7000円。一方、議員定数の平均は20.3人に対し、野々市市は15人と、平均より約5人少ない人数で議会活動を行っている。このため、議員一人当たりの活動量が多いと考え、平均報酬額に不足している議員数を掛け合わせ、現在の定数15人で割った約14万円を上乗せすべきだと判断した。

さらに、金沢市や白山市など、周辺5つの市議会の平均報酬が54万6400円であることも、この判断を後押ししたという。
手取り30万円「資産家しか議員になれない」

北村市議は、現在の報酬では専業で議員活動を行うのは厳しいと訴える。「38万円ですと、税引き後になると30万1千円。その中から皆さん生活費と、議員活動と議会活動が発生していきます」。

手取りは約30万円。専業議員の場合、そこからさらに国民年金や健康保険料を支払わなければならない。政務活動費はあるが野々市市の場合、月額4万円だ。金沢市は月16万円なのでその4分の1しかない。さらに、地方議員には退職金もないのが実情だ。「収入のある方、資産のある方しか、現実的に議会議員を勤めあげるのができないというのが実情になってくる」と北村市議は危機感を募らせる。
市民の声は賛否両論「上げすぎ」「妥当」

この議会の考え方に、市民は理解を示すのだろうか。街で話を聞くと、様々な声が聞かれた。「高いです。どうなんやろ、ちょっと上がりますね。結構」「でもいっぺんにはちょっと上げすぎかなと思うんですけど」。


一方で、理解を示す声もある。「妥当なんじゃないですか。54万か。妥当です。だって比べたら低すぎでしょ。今までが」「(議員は)がんばってはいるんですけど。応援もしてます」。

議員の中にも、この引き上げに反対する意見がある。共産党の岩見博市議は「議員のなり手がいないということがよく言われるんですけど、野々市市でそれは当てはまるのかと。ここ最近の選挙を見ても無競争になった選挙はないわけですから」と指摘する。事実、野々市市では2015年から直近3回の市議選は全て選挙戦となっている。
岩見市議は、物価高騰に喘ぐ市民感情との乖離を問題視する。「全てのものが本当に値上がりしている。今、市民の皆さんが本当に苦しい。自分たちこそ上げて欲しいと思っているのに議員はそんなことでいいのかと。野々市の中小零細で働いている労働者はほとんど上がってないんじゃないの」。
議員の仕事とは?ある1日の活動に密着

では、議員は普段どのような活動をしているのか。北村市議のある1日に密着した。この日は午前7時過ぎからホテルで自民党の会合に出席。午前9時ごろに帰宅すると、午後から開かれる委員会の準備を進める。午前10時には市内の企業を訪れ、制度改善に関する要望を聞き、10時半には地元の農家から道路の渋滞緩和について相談を受けた。

午前11時には保育施設を訪問。市内の多くの小学校で運動会が同日に開催されるため、子育て中の保育士が一度に休みを取らざるを得ず、園の運営に支障が出ているという切実な悩みを聞いた。北村市議は「今日の委員会で申し上げたい」と応じた。

そして午後、委員会に臨んだ北村市議は、午前中に聞いた保育施設の声を教育長に直接届けた。「子ども園側からすると、同時に先生方が当日に5名も6名も7名も有休なり休みを取られてしまうと自分の園が回らない」。これに対し、教育長は「来年に向けてということで検討させていただく」と答弁した。

一連の活動を見て、議員専業でなければ務まらないのではないかと問うと、北村市議は「まわらん。まわらんので、その通り」と答えた。
専門家「住民との対話と共有が鍵」

地方議会を研究する早稲田大学の中村健氏は、議員報酬の額が現実的に大きな問題だと指摘する。「全国でも実際に子育て世代中の特に若手の議員たちが当選したんだけど議員報酬が安すぎるので1期でやめてしまうというのはたくさん事例がある」。

そのうえで、市民の理解を得るためには「住民の皆さんのところにどれだけ行ってるか、足を運んでいるかですね。どれだけ話をまず聞いているか。その話をどれだけ市政に取り組もうとする活動をされているか。その活動全体を市民の皆さんとどれだけ共有するような工夫をしているか。ここに尽きると思います」と語る。

10月5日に行われた審議会は非公開で協議され、「最終的には平均値というところが拠り所かなと意見がありました」とのことで、議会側の提案額と「それほど乖離は発生しなかった」という。

県内では白山市議会が今年4月、審議会の答申額(3万8000円増)を上回る8万2000円の増額を自ら提案し可決した例もある。それぞれの議員の活動が報酬に見合うものかどうか。野々市市では来年春に市議会議員選挙が予定されており、有権者の判断が問われることになる。

(石川テレビ・10月6日放送)
