長野・須坂市で2026年8月、80代の女性が現金200万円をだまし取られる特殊詐欺事件がありました。
手渡しで現金をだまし取った受け子の男は逃走を図りましたが、その日のうちに逮捕されました。
実は、スピード逮捕に至った裏には、地元のタクシー会社が機転を利かせたことが大きな要因になったといいます。
数々の違和感を見逃さなかった運転手たち。
一体何があったのでしょうか。
「本当にそうなの?この須坂でそんなことが起きるの?みたいな、半分そう思っていました」と話すのは、長野・須坂市でタクシー運転手を務める塚田純一さん(59)です。
特殊詐欺の犯人逮捕に貢献したとして地元警察から感謝状が贈られました。
事件の発端は8月25日。
須坂市内に住む80代女性の自宅に、息子を名乗る人物から「未納の税金の納付が必要。至急現金が必要なため、お金を用意してほしい」と電話がありました。
翌日、女性の自宅を訪れたのは息子ではなく、法律事務所の職員を名乗る男でした。
現金200万円をだまし取ったとして逮捕・起訴された神奈川・横須賀市の自営業、林功次郎被告(当時43)です。
事件の直後、林被告が呼んだタクシーを運転していたのが塚田さんでした。
当時の様子について塚田さんは「あまりにも本当に普通だったので。ただ、その当時は銀色のネクタイをしてたのと、黒い大きなトートバッグを持っていたのと、格好がクールビズ風だったという。あんまり見過ぎるのも良くないと思いながら、チラチラとこんな感じで見ていましたね」と語ります。
塚田さんは、バックミラーなどを通して男の特徴を覚えるようにしていたといいます。
なぜ、たった今乗車してきたばかりの男を、この時点から警戒していたのでしょうか。
北信タクシー運転手・塚田純一さん:
配車の方から言われたんですけども、この土地の名前、漢字が読めなくて、それが第一印象で怪しいとなった。土地勘がない方だと思うので、気をつけて見ていただけますかという依頼。
林被告は女性から現金をだまし取った後、市内のコンビニに移動し、電話でタクシーの配車を依頼。
その際、気になるやり取りがあったといいます。
林被告:
タクシー1台お願いしたいんですけど…。
配車係:
はい、どちらにいらっしゃいますか?
林被告:
ちょっと待ってください。いや…漢字が読めないですね。長野県須坂市なんとか竜…。
地名の臥竜(がりゅう)が、うまく読めなかったのです。
当時、林被告からの電話を受けた配車オペレーターの森下貴恵さんは、やり取りの中である違和感を覚えたといいます。
配車オペレーター・森下貴恵さん:
地名が読めなかったので地元の人じゃないなと思った。(通常は)どこですかって(コンビニに)聞いたりとか、一生懸命(現在地を)説明してくれる。(犯人は)読めない地名の番地をずっと繰り返してるだけで、何か変だなって思った。
違和感は他にもあったといいます。
森下さん:
どちらまで行かれますか?
林被告:
えっと…す…須坂駅です。
森下さん:
お名前お願いします。
林被告:
田中です。
名を「田中」と偽り、配車依頼を行った林被告。
違和感を覚えた森下さんは、やり取りのメモを残し、現地へ向かうタクシーの運転手に無線で「怪しい感じなので注意してください」と告げます。
そのタクシー運転手が塚田さんでした。
森下さんから警戒するよう言われていた塚田さん。
午後7時過ぎ、林被告を須坂駅に送り届けた際、より強い疑念を抱くようになったやり取りがありました。
北信タクシー運転手・塚田純一さん:
「お待たせしました須坂駅です」って言ったら、(林被告が)「あれここどこですか」って。おかしいと思いません?ここ(目の前)に須坂駅があるのに。「ここに来たときにここから降りてこなかったんですか」と聞いたら、「いや昼間だったんで分からなかったです」と。異質なものを感じるなと、そもそも暗くなっても駅ぐらいは分かるんじゃないかなって。
林被告がタクシーを呼んでから約30分後、被害女性の関係者からの通報を受け、周辺のタクシー会社に協力を呼び掛けていた警察に対し、塚田さんは犯人の服装などを伝えるとその日のうちに男が緊急逮捕されました。
警察は、今回の事件がトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)による犯行とみていて、林被告は受け子とみられます。
タクシー運転手の塚田さんは、今回の件でさらに特殊詐欺への警戒が高まったと話します。
北信タクシー運転手・塚田純一さん:
移動手段の一つとして多分使われると思うので、警察の方とも連携を取りながら、協力して今後もいけたら良い。
特殊詐欺の受け子のスピード逮捕へとつながったタクシー会社の機転と連携。
突然の出来事にもかかわらず、なぜここまで的確な行動がとれたのでしょうか。
この北信タクシーの駒津社長によりますと、事件の少し前に別の特殊詐欺事件で逮捕された犯人の持ち物から、この会社のタクシーを使った際の領収書が見つかったそうです。
そうした背景もあって、ちょうど事件の前日に社員に対して注意を呼び掛けていたそうです。
長野県警によりますと、2026年8月末までに県内で確認された特殊詐欺の被害額は約27億円と、2025年の同じ時期よりも増えているということなんです。
2026年7月にも、千曲市の70代の女性が同様の手口で現金540万円をだまし取られる事件が起きています。
警察は、林被告が関与したとして再逮捕しました。
他にも余罪がないか調べています。
