四国アイランドリーグplus ・高知ファイティングドッグス史上初めて「ドラフト会議で支配下選手として指名」を受け、NPB入りを果たした選手がいる。千葉ロッテマリーンズの角中勝也選手(39)だ。
これまで2度の首位打者に輝くなど、チームの主力として長年活躍を続けてきたが、NPB20年目の2026年7月に現役引退を表明した。
「早かったなという感じですね。本当に偶然で、運がよかった部分がいろいろ重なった20年だったと思います」
高知さんさんテレビの独占インタビューに対し、角中選手はこれまでの歩みを振り返った。
「入った時のことを考えれば、20年は、客観視して『すごいな』と思います」
本人が語る通り、決してエリート街道を歩んできたわけではない。プロ野球人生の原点は、情熱を胸にバットを振り続けた高知時代にあった。
トライアウトで独立リーグへ
2006年、石川県の日本航空第二高校を卒業した角中選手は、トライアウトを受験して高知ファイティングドッグスに入団した。
甲子園の出場経験もなく、当時は無名の選手。住まいは高知市介良にある4DKのアパート。チームメートと4人暮らしだった。
遊びに出かけることも少なく、ひたすらに練習に打ち込んでいたという。高知での思い出の場所や人を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「マンションの駐車場と公園ですかね。そこでずっとバットを振っていたという記憶はありますね」
ひたすら素振りなどの練習に打ち込んだ時間が、のちに球界を代表する打者へと成長する彼の土台となっていた。
“独立リーグの星”から球界を代表する打者へ
ドッグス1年目のシーズンを終えたあと、吉報が届いた。千葉ロッテマリーンズから大学生・社会人ドラフト7巡目で指名を受けたのだ。
高知ファイティングドッグス史上初となる「1軍の試合に出場可能な支配下選手」としてのドラフト指名という快挙だった。
当時のインタビュー映像には「やっぱりうれしかったです。小さい子どもたちから目標にされるような選手になりたいです」と、力強く語る姿が残されている。
角中選手は当時を振り返って、「独立リーグがなければNPBでやっていることがほぼなかったと思っている。(高知に)恩返しするためには、自分が結果を残せば、それが一番の恩返しになると思った」と語る。
とはいえ、ドラフト下位指名での入団である。決して多くの出場機会が約束されていたわけではなかった。
本人も「5年やれればいいなと思っていました。20年とか、一切思っていなかったですね」と語る。
与えられたチャンスで必死に結果を残し続けると、6年目の2012年にレギュラーの座をつかみ取る。打率は3割1分2厘を記録し、独立リーグ出身選手として初となる「首位打者」のタイトルを獲得した。
「最初に首位打者取れた時『プロ野球選手としてやっていけるかな』と思った。そのタイミングが印象に残っています」
その勢いはとどまることを知らず、2016年には178本のヒットを積み重ね、「最多安打」と「首位打者」を獲得。
翌年の年俸は、独立リーグ出身の選手として初めて1億円の大台を上回る1億4100万円に達し、球界を代表する打者へと上り詰めた。
高知のファンとのきずな
20年という月日が流れた今も、高知とのきずなは深く結ばれている。
ドッグスの球団事務所には、角中選手が試合で着ていたユニホームや使ったバットが大切に保管されている。
さらに引退を前に高知のファンや現役選手ら約50人がメッセージを寄せた大きなフラッグがあり、熱い思いが刻まれている。
「20年間お疲れさまでした。あなたは独立リーグの誇りです!」
「次は指導者として戻ってくることを楽しみにしています」
球団の永井統括本部長も「独立リーグを引っ張って、その地位を上げていただいたパイオニア」と賛辞を送る。
今もなお高知のファンや関係者に愛され続ける角中選手。その姿を誰よりも間近で見てきた元チームメートで現在ドッグスの取締役を務める梶田宙さんはこう語る。
「独立リーグからでもプロ野球選手になれると、自分自身の姿で証明してくれたことは本当にすごいこと。残り試合、角中選手の雄姿をファンの皆さんに見ていただいて、有終の美を飾ってください」
元チームメートからの気持ちのこもったビデオメッセージを見た角中選手は「まぁまぁ身近な存在なので…うれしいのはうれしいですけど、1カ月前にも会って食事とかしてたんで、ありがたい」と、照れ隠しのように笑いながら感謝を口にした。
引退後は「何もしない予定」
現役生活に幕を下ろす角中選手だが、「最後だなと思う瞬間はほぼないですね。本当に最後なんかなと不思議に思ったりすることがあります」と、まだ実感は湧いていない様子だ。
引退後の生活について聞くと、意外な答えが返ってきた。
「何もしない予定です。指導者をやりたいとかは一切ないですね。旅行くらいはする」。
「高知に来ることはありますか?」という問いには明るくこう答えた。
「マルじゃないですか。食を楽しみたい。カツオはもちろん」
プロへの第一歩を踏み出した高知でずっと応援し続けてくれたファンについては。
「ドッグス時代から応援してくれる方が結構いるので『力に変えてやっていけたな』というのはあるので、本当にありがたいです。ありがとうございます」
角中選手の引退セレモニーは、10月2日(金)に千葉県のZOZOマリンスタジアムで行われる。
練習に打ち込んだ無名時代の高知から始まり、数えきれないほどの感動を届けてくれた軌跡。独立リーグの誇りとして戦い抜いたパイオニアの姿は、これからも多くの野球ファンの心で輝き続ける。
