コメの価格高騰を受けて去年、政府が備蓄米を大量に放出した結果、今年、福井県内の農家に支払われる内金(概算金)はコシヒカリ60キロあたり1万7000円と、去年より1万2000円も下落した。福井市で50ヘクタールを手掛けるコメ農家は「2000万円の赤字が出る」と危機感を募らせる。ここにきて政府は備蓄米の買い戻しに動き始めたが、農家からは「遅すぎる」「少なすぎる」という怒りとともに「百姓一揆やらなあかん」という強い言葉が上がる。
コメ価格の大幅下落「予想通りになった…」
2026年4月、田植えが始まったばかりの福井市内の田んぼ。青々とした苗が並ぶなか、農家の白井清志さんの頭にあったのは、まだ植えたばかりのコメが、秋にいくらで売れるのかという不安だった。
去年、コメ価格が高騰したことを受け、政府は備蓄米を市場に放出した。その影響が秋まで尾を引くことを、白井さんは春の段階で見越していたのだ。
「コメが足りないから備蓄米を放出するのは理解できる」白井さんが問題視しているのは「価格を下げるために、さらに多くの備蓄米を出した。そのせいでコメの民間在庫が余ってきた」ことだ。
「新米が取れる頃には相当、備蓄米が余ると思う」と語っていた懸念は、そのまま現実となった。
今年、新米を集荷する際にJA福井県が農家に前払いする内金(概算金)は、コシヒカリ60キロあたり1万7000円。去年より1万2000円と大幅に下落した。
白井さんはJAには出荷しておらず自らの販路を持っているが、JAの概算金は民間の卸業者の買い取り価格の基準ともなるため、影響は大きい。
「うちらで2000万赤字出す」農家経営が見通せず
「来年はもう、やりませんよ。もうやめ!うちらで2000万赤字出すもん」
約50ヘクタールという規模でコメ作りをしている白井さんでも、これだけの損失が見込まれている。規模の小さな農家にとっては、さらに状況は深刻だ。
白井さんが怒りを向けるのは、コメ価格だけではない。「農林水産省の方針が全然見えてこない。農家は皆、右往左往、どうしたらいいんか迷っている」と訴える。
政府は9月に入り、21万トンの備蓄米買い戻しへ動き始めた。去年の放出で、政府備蓄米は約32万トンにまで減少しており、目安とする100万トンを大きく下回っている。さらに、第2次高市改造内閣で就任した簗農水大臣も、できるだけ早く備蓄水準を戻す必要があるとして、追加の買い戻しを早期に進める方針を示している。
しかし白井さんは、政府の動きを「遅すぎる」と一刀両断する。「6月にやらないかん。しかも、もっとたくさん。60万トン近く出してるんやから、21万トンでは少なすぎる。40万トンは買い戻しをしなきゃ」
JAからも同様の声が上がっている。JA福井県五連の宮田幸一会長は「21万トンの備蓄米を買い戻ししても、コメ余りはまだ解消できない」と指摘する。宮田会長は今後も、段階的な買い戻しを政府に求めていく考えを示している。
「ほんとは百姓一揆やらなきゃいかん」
コメが余る背景には、備蓄米の放出だけでなく、去年の増産や今年の豊作が見込まれていることもある。需給バランスが崩れているなかで、政府がいつ、どれだけ追加で買い戻すのか、具体的な数量や時期はまだ示されていない。
政策の方向性が見えないまま、農家は次の作付けをどうするか判断を迫られている。
「大人しいからな、農家は。ほんとはね、百姓一揆やらなきゃあかん」と白井さん。農家はただ、政策の行方を見守るしかない状況に置かれている。
白井さんが春に植えた苗は秋になり、コメになった。その間、備蓄米をめぐる政策は放出から買い戻しへと大きく転換した。しかし、次の春にどれだけ植えたら良いのか…答えは、まだ出ていない。

