議長への辞職勧告決議案の採決が急遽、取りやめとなった福岡県議会。決議案が採決されなかったその裏では、一体、何が起こっていたのか?舞台裏を取材した。
「進退を含めた話を議長に直接聞きたい」
8月17日。想定外の展開となった福岡県臨時議会、その開会前には、密室での協議が重ねられていた。

当日の自民党県議団では、朝から慌ただしく議員が出入りし、3回に渡って議員総会を開くなど議論が続けられていた。

蔵内勇夫議長(72)不在のまま進められた会議のなか「進退を含めた話を議長に直接聞きたい」と若手が辞職勧告決議案への賛成討論を行う姿勢を示すなど、強い態度で渡辺勝将会長(49)に詰め寄っていた。

これを受けて、渡辺会長は蔵内議長の元へ走り「『下の後輩たちも議長と意見を交わしたいという声がありますよ』『議長が発信してくれる機会をもらえませんか』ということをお願いしてきた」と話したという。

その結果、蔵内議長が参加して、午後3時半から行われた3回目の議員総会が始まった。

そこで蔵内議長は「第三者委員会の設置や政治倫理条例案などの制定に目処が立ったら辞めるつもりだ」と話したというのだ。

これまで一貫して「辞任の考えはない」と話していた蔵内議長が、目処がついた時点とはいえ、議長職を引くことを表明した瞬間だった。

「場所は議員総会ですね。そのなかで、(蔵内議長)ご自身が、恐らく私たち2期、また若い期の意見、いろんな事情を酌んで頂いた上で、ご自身のお考えを初めて表明されたと思うんですね」(井上正文県議・59)。

「我々も本当に、こう言っちゃあれなんですが、可決の方にも回るんじゃないかっていうような意見もあったんです。でも、それを我々共有したなかでですね、やっぱり一番、響いたのは直接、議長から、もう進退の話まで。これ、一番、重たいと思います」(大田満県議・60)。

再び繰り返された“密室での政治”
「蔵内議長の辞職を勧告する」(吉松源昭県議)。
そして始まった県議会臨時議会。自民以外の会派へも、採決を避けるための根回しが進んでいた。

その結果、林泰輔県議(51)が、手を上げる。「動議!」。

林県議は、蔵内議長の元秘書で県議会では『ワンヘルス・地方分権等調査特別委員会』の委員などを務めている県議だ。
「動議!採決を中止するよう求めます」

辞職勧告決議案を採決させないための『緊急動議』という奇策。

党議拘束をかけた自民党は、1人を除く全員が起立。第2会派の民主県政県議団も半数が起立。賛成が49、反対が35となり中止動議は可決され「採決取り止め」となった。

渡辺会長は「会派をまとめるためには、こういうかたちを取らざるを得なかったというのが実情です。どこかの新聞には“踏み絵”という文字もありましたが、私たちは、そういう議論をしたいわけじゃないので」と話す。

蔵内議長に関する所謂、“踏み絵”を回避するため、これまで批判されてきた“密室での政治”が、再び繰り返されたのだ。

膨らむばかりの県民の不満
自民党で唯一、反対をしたのは、“金銭授受”疑惑を証言した江藤秀之県議(66)だけだった。江藤県議は「今、議会がやっていることと県民が思っていることの違いっていうのは、ものすごく大きいと思います。簡単に言うと、信頼が全く議会に対してない。これを少しでもやっぱり回復しなくちゃいけない」と県民の意識との“ずれ”を指摘した。
党議拘束に反した江藤県議は、何かしらの処分を受ける可能性がある。

肩透かしを食ったかたちのほかの会派の県議からは、呆れや怒りの声が聞かれた。

公明党福岡県議団の新開昌彦団長(69)は「1人の動議が出てね、そういうことがやっていくという。2人賛成すればいいのか、そういった意味では、よくよく、ちょっとルールというのを考えなきゃいかんのかもしれませんね」と苦言を呈した。

また新政会の椛島徳博代表(69)も「小手先ではなくて、もう正々堂々とこの不信任決議案に賛成なのか反対なのか、意思表示をはっきりすべきだったというふうに。まぁ結果的にできなくなった。非常に残念な思いはあります」と話した。

県民の不満は、これまで以上に膨らんでいるようだ。
「『うーん』って首を傾げた、あれを見て『独裁的なのが、まだまだあるのではないか』と思った」(50代・男性)

「往生際が悪いな。結局『議長に対する忖度でしか動けない県議会議員が多いのかな』という印象。県民の声が届いていない状況で、有耶無耶にしてしまったのかなと思う」(30代・女性)

第一野党の『民主』は半数が賛成
賛否を示した県議会の議長・副議長を除く84人。そのうち『自民党県議団』は38人。党議拘束がかかったので1期生から8期生までの、金銭疑惑を告発した江藤県議1人を除く、37人が「採決取りやめ」に賛成した。
そして『民主県政県議団』20人。うち賛成が10人、反対が10人と半分に割れた。議会改革や蔵内議長の進退について第一野党として厳しく追及するはずの立場にありながら意見をまとめきれず、一枚岩になりきれなかったのだ。そもそも民主は、自民党県議団に“右にならえ”で、ほぼ従属してきたので、今回、野党としての機能を十分に果たしていないことが改めて表面化したかたちとなった。
まかり通った自民党内の“内輪の論理”
この中止動議に至った背景と自民党県議の本音を取材した。
自民党の当選2回の若手県議は「一部の若手は厳しい立場に追い込まれることを覚悟の上で、蔵内議長の辞職勧告決議案に賛成するつもりだった。しかし、議長が採決直前の議員総会で辞職することを表明した。そもそも決議案が可決されても法的拘束力は無いし、我々としては中止動議を通すことで、議長の辞職という『実利』を取りにいったかたちだ」と応えた。

また別の自民若手県議は「議長辞職を引き出したことは、寧ろ県民の思いが叶うことになったのではないか」と話した。
それぞれの主張は、やはり、県民との捉え方とは異なる。『自民分裂の表面化を避けたかった』とか『“踏み絵”をさせないようにした』という狙いは、自民党内の内輪の論理だ。

県民は、各議員が『蔵内議長の進退をどう判断するか』を自分の目で確認したかったのではないか。その機会が失われたことは結果的に県民の利益にならないし、寧ろ議会が自分たちで採決にフタをして、更なる信用低下を招いたと捉えられても仕方がない。

決議案への賛否という1人1人の考えを示すことを避けた福岡県議会の議員たち。有権者は、2027年春の選挙で、彼らに対する考えを示すしかない。
(テレビ西日本)

