愛知県半田市の路地裏で、60年以上愛され続ける焼きそば店。名物は、香ばしいソースの焼きそばだけではありません。無料のみそ汁やコーヒーなど、昔ながらのサービスと人情で、客の心とお腹を満たしています。
■地域に愛される路地裏の焼きそば店
半田市役所近くの路地裏にある焼きそば店「横地商店」。昭和の人情が今も息づく、地域に愛される店です。

客:
「ここにしかない味」
別の客:
「一回食べたらやめられない味です」
名物は、香ばしいソースが食欲をそそる「ミックス焼きそば」(800円)。店を切り盛りするのは、三代目夫婦と娘3人です。

午前9時過ぎ、娘の榎本峰子さんがキャベツの仕込みを始めました。キャベツをたっぷり使うのが店のこだわり。豚肉やイカと一緒に炒め、細麺を加えたら、秘伝のソースで香ばしく仕上げます。
開店前に峰子さんが次々と焼きそばを作り続ける理由は、毎週金曜日の正午になると、市役所の職員が一斉に訪れるため。
席に着くと同時に焼きそばが運ばれ、市役所の職員はもちろん、副市長も長年通う常連です。

副市長:
「もう30年以上です。ここは昔から変わらないです」
カウンターには市役所の職員が並び、まるで社員食堂のようなにぎわいです。
焼きそばに添えるハート形の目玉焼きは、多津子さんの夫・正光さんの担当。専用の型を使い、蒸し焼きにして仕上げます。
客:
「かわいいです」
ランチタイムは1時間に客が集中するため、会計は自己申告制。小銭は5円から500円まで種類ごとに分けられ、1万円札用のお釣りも準備されています。

多津子さん:
「私と先代のおばあちゃんの2人でやっていたとき、手が回らなくて自己申告にしました。だから市役所の人たちは自己申告なんです」
■みそ汁・コーヒー・お菓子が付く人情あふれるサービス
焼きそばのお供として人気なのが、「おにぎり(日替わり小鉢付き)」(150円)。朝一番に、多津子さんが1個100グラムずつ計りながら、心をこめて握ります。

具材は、香川県・小豆島から取り寄せる特注の塩昆布。さらに日替わりの小鉢まで無料で付きます。
この地方ならではの名古屋風「ミックスお好み焼き」(800円)も人気です。
客:
「最近は昔ながらのお好み焼きや焼きそばが食べられるところが少ないです」
焼きそばもお好み焼きも、みそ汁に加え、食後のコーヒーとお菓子付き。おにぎりを追加しても950円とお値打ちです。

たった1つの注文でも、昔から気持ちよく応じるのが店のモットーです。ご主人は今もバイクで配達に向かいます。
■病気をきっかけに鉄板と店の味を娘へつなぐ
2026年3月、多津子さんは、長年守り続けてきた店の命ともいえる鉄板を、娘の峰子さんへ託しました。

実はその直前、新年早々に体の異変を感じて受診し、乳がんが判明。3月に手術を受け、店に復帰したばかりです。
多津子さん:
「本当に心強かったです。常連の皆さんが来て、助けてくださった」
娘の峰子さん:
「いろんな方に支えてもらい、何とか続けていけることに感謝しています」
病気をきっかけに、お客さんにもっと寄り添えるようになったと多津子さんは話します。

夜の営業が始まると、今度は近所の常連客が集まります。
常連客:
「座ったら料理が出てくるので、それを食べるだけです」
常連客は、昔からこの店を「下町のレストラン」と呼んでいます。
閉店時間の7時を過ぎて駆け込んできたのは、市内で開業する胃腸科の院長夫妻。事前に電話を受けていたため、来店に合わせて焼き立てを用意して迎えます。
院長の妻:
「皆さん優しいし、本当に家に帰ってきたみたいです」
手術の1週間前、院長は多津子さんに「大丈夫」と声をかけて握手。多津子さんは、その言葉と手のぬくもりが、心の支えになったといいます。
病気を乗り越え、娘に支えられながら代々受け継いできた味を守り続ける多津子さん。
多津子さん:
「こうして元気で働けるようになったことが、本当に幸せです」
下町のレストランは今日も地域の人たちを温かく迎えています。

