長野県飯綱町の廃校になった小学校の一角に、個性豊かなシードルを生み出す醸造所があります。「林檎学校醸造所」代表の小野司さんは、地元産のリンゴにこだわり、品種ごとのブレンドを緻密に設計しながら、約20種類ものシードルを世に送り出してきました。大手メーカーの製品とは異なる、土地の味と作り手の意志が凝縮した一本。その背景には、父から受け継いだ使命感と、飯綱の大地が育む豊かな環境がありました。

■”甘くてフルーティー”を求める層に

5月、飯綱町で開かれたシードルイベントには、地元を中心に7店舗が出店。

訪れた女性客からは「甘みも酸味もあって飲みやすい」「リンゴのおいしさが伝わる」という声が相次ぎました。

シードルはリンゴを発酵させた微炭酸の酒で、県内でも醸造が増えています。

小野さんはこの手応えを肌で感じている一人。「最近のお酒の傾向として、甘くてフルーティーを好まれている傾向があって、アルコール度が低いシードルがはまってきている層がいる」と語ります。

■廃校で生まれる「学級シリーズ」

「林檎学校醸造所」があるのは、複合施設として活用されている廃校の小学校です。

かつての職員室や教室がショップと醸造スペースに姿を変えました。

創業時から続く代表作「学級シリーズ」は、8月から9月にかけて収穫した早生品種を仕込む「1組」から「4組」まで、それぞれ異なる旬のリンゴで仕込んだシードルが並びます。

小野司さん:
「学校で造っていることを感じてもらえるように『組』とつけさせていただいています」

廃校という場所とシリーズ名が自然と結びつき、物語としての魅力を生んでいます。

■”ふじ&ブラムリー”が生まれるまで

「林檎学校醸造所」で最も人気を集めるシードルが「ふじ&ブラムリー」。

甘みと酸味のバランスが良い「ふじ」と、酸味が強く調理用として人気の「ブラムリー」を組み合わせた一本は、製造に多くの工程を要します。

オーストリア製の専用プレス機で丁寧に搾汁。「圧力を均等にかけるための仕組みで、ゆっくり圧力をかけられるので雑味が出なくなる」のが特徴だといいます。

約150キロのリンゴから110リットルほどの果汁を取り、一次発酵を経たのちに酵母液を加えて瓶詰めし、瓶内二次発酵で自然な炭酸を生み出します。

50品種以上の栽培に取り組む飯綱町の環境が、小野さんのブレンドの幅を大きく広げています。

「寒暖の差で秋になると一気に甘みがのってくる。土が粘土質なので果肉がしっかりした食感のリンゴがとれる」と小野さんは説明します。

シードルの本場フランスのノルマンディーも粘土質の土地として知られており、飯綱の環境は奇しくも本場と重なる条件を備えているといいます。

■「ストーリーに興味」東京で高評価

スカイツリーを望む東京・浅草にある国産シードルの専門店では、全国から厳選した約 40種類の中に、「林檎学校」の商品が並びます。

オーナーの玉越さん夫妻は、かつて飯綱町を直接訪れ、畑と醸造所を自分の目で確かめたうえで取り扱いを決めました。

「廃校を活用したところだったり、組によって品種が違ったり、酵母を変えたりのストーリーは、説明するとお客さんが興味を持ってくれる」と夫妻は話します。

フランスからの観光客にも評価が高く、本場の目利きからも認められた品質は「林檎学校」の一つの勲章となっています。

■「使命を示してくれた」父の背中

小野さんがシードルの道に踏み込んだ背景には、父・久則さんの存在があります。

久則さんはリンゴの直販やジュース製造に取り組みながら、2005年から委託醸造によるシードルの販売を始めた先駆者です。

システムエンジニアや経営コンサルタントとして別の道を歩んでいた司さんは、父からの協力依頼を機に実家に戻り、2017年に同じ志を持つ3つの農家で会社を設立。果実酒製造免許を取得して醸造を本格的に開始しました。

「シードルをほぼ知らない頃に、その存在に気付いてやってみようと言い出した父は、私に次にやるべきこと、使命を示してくれた」と小野さんは振り返ります。

現在スタッフは 5人、自社製造のほか飲食店や酒類販売店からの委託醸造 (ODM) も受け、事業の幅を着実に広げています。

「地元の原材料を使って地元で作る。品種やその土地の品質を見極めながら、どうやって味にしていくかを一つ一つちゃんと考えて作っていかないと、よりおいしいものができない」。その言葉に迷いはありません。

※この記事は、 2026年6月26日にNBS長野放送でOAした「フォーカス信州 信州クラフトの味2~食卓を彩る匠たち~」をもとに構成した内容です(全3回の記事その1)

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