松山の「妖怪伝説」に息づく先人の教訓

「カラスの鳴きが悪いですね。何か良くないことが…」

取材中に思わずそうつぶやく研究者の言葉が、場の空気をぐっと引き締めた。

愛媛・松山には、石手寺に眠る「大蛇の骨」と、奥道後に潜む「2匹の大蛇」にまつわる伝説が今も語り継がれている。

単なる怪談ではない。

伝説の背後には、地域の災害史と先人たちの知恵が隠されていた。

四国霊場のひとつ・石手寺の宝物館に眠る「蛇骨」

案内してくれるのは、愛媛大学地域協働推進機構の大本敬久特定准教授だ。

石碑や伝説などの伝承から地域の災害史を調査している。

最初に訪れたのは、松山市の石手寺。四国八十八カ所霊場・第五十一番札所で、約1300年の歴史がある。

小川日南キャスター:
「石手寺と聞くと、お遍路さんのイメージが強いですが、妖怪に関する伝説もあるんですか?」

大本敬久准教授:
「宝物館に展示されていますので、それを見に行ってみましょう」

愛媛大学の大本敬久特定准教授
愛媛大学の大本敬久特定准教授
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石手寺の宝物館に眠る「蛇骨」

大本特定准教授に誘われた本堂の東側にある宝物館。

石手寺に伝わる数百点にも及ぶ歴史資料が展示されている。

大本特定准教授:
「妖怪とか伝説にまつわるものがこちら。左側になんて書いてありますか?」

小川キャスター:
「“蛇”ですか?『蛇骨』」

蛇の頭の骨と伝わっていて、大きさは直径10センチほどだ。

小川キャスター:
「こぶしよりちょっと大きいかなくらい」

石手寺の宝物館の奥に保管されているこの蛇骨。

そのくすんだ象牙色の骨からは長い年月を感じる。

この蛇骨にまつわる伝説とは・・・

大本特定准教授:
「松山の奥道後周辺の湧ケ淵に大蛇がいたと。その大蛇を石手寺の住職が退治をするということで、残った蛇骨、退治された大蛇の骨とその時に使ったと伝えられるのが、この剣」

小川キャスター:
「隣に剣が。これで退治した…」

しかも、伝説では大蛇は1匹ではなく、オスとメス2匹いて、地域の人々に災いをもたらしていたとされている。

その2匹の大蛇が棲みついていたとされる場所が、松山市の奥道後にある温泉宿「壱湯の守」の敷地内にある。

退治された大蛇とされる骨と退治に使った剣
退治された大蛇とされる骨と退治に使った剣

道を塞ぐ倒木、そしてたどり着いた「百雷の滝」

石手寺から車でおよそ10分。

取材班は伝説の舞台、奥道後にやってきた。

大本特定准教授:
「湧ヶ淵になります。大蛇伝説が伝わる場所になりますので、そこを見に行ってみたいと思います」

しかし!

大本特定准教授:
「『湧ヶ淵』のところはいけないのかな…」

何と倒木で道が塞がれ、この日はこれ以上先に進むことができなかった。

まさか、妖怪の仕業か…

気を取り直して、小川キャスターが後日、現場を訪ねた。

小川キャスター:
「きょうは特別に日を改めて、入らせていただくことになりました。今回は私1人ですが、先生の分まで湧ヶ淵がどんな様子になっているのか、見に行きたいと思います」

遊歩道を歩くこと20分…

小川キャスター:
「見えてきました!湧ヶ淵…!見事なものすごい水量と勢いです。」

伝説の場所とされる湧ヶ淵に到着。

渓谷の奥には「百雷の滝」が、ひときわ大きな音を響かせている。

先人たちはこの荒々しく流れる滝の様子に恐怖を感じ、大蛇の姿に見立てていたのかもしれない。

また大本先生は、この地域の大蛇伝説には、『水の事故や自然災害が関係している』と考えている。

伝説の場所とされる湧ヶ淵
伝説の場所とされる湧ヶ淵

伝説に込められた「先祖からの教訓」

大木特定准教授:
「峡谷の一番の底に滝や淵があるので、こういうところに子供たちとか若い人たちが来て“ちょっと遊ぼうかな”と入ると非常に危ない場所なんですよね。だから水難除けで大蛇伝説ができた可能性もあるし、この辺りの花崗岩地質で風化をしやすい、しかも、土砂災害が比較的発生しやすい地形地質になっているので、大蛇伝説がこの辺りに定着していったと考えられる」

私たちの記憶にも残る25年前、この湧ヶ淵の周辺では実際に大きな災害が発生している。

奥道後壱湯の守・河上克之社長:
「平成13年に豪雨があって、その時に山が崩れた」

2001年6月、奥道後に近い松山市高野町では、未明の集中豪雨で幅20メートル高さ300メートルに渡る、大規模な土砂崩れが発生。民家1棟が押し潰され、1人が亡くなった。

大本特定准教授:
「起源が一つとは言えないけれど、昔から危ない場所には、あまり近づいてはいけないという、自分の体の安心安全を守るために作られていった先祖からの教訓と、言えるかもしれない」

高野町で起こった土砂崩れ
高野町で起こった土砂崩れ

今も続く「竜姫宮祭」伝説を次の世代へ

この湧ヶ淵の大蛇伝説を今に残す場所がもう一つあった。

大本特定准教授:
「そこに何て書いてあるかわかります?」

小川キャスター:
「しっかり『湧ケ淵』。これは『りゅうきぐう?』」

大本特定准教授:
「竜の姫の宮で『竜姫宮』と書いてますね。で、それを描いた絵馬も掲げられていて、現在もここで祭られている。お宮があることによって、この伝説自体が多くの人にも認識されるし、後世の人にも伝わりやすい、そういう環境を整えてくれている」

奥道後「壱湯の守」では、61年前の開業以来、毎年8月23日に竜姫宮に祭られているメスの大蛇を供養するための、竜姫宮祭を行っている。

奥道後壱湯の守・河上克之社長:
「この神事に出ることで、人間の傲慢さみたいなものを謙虚にさせてくれる。だけど、豊かさや自然の素晴らしさみたいなところも思い出させてくれる。伝説とともにこの神事をこれからも次の世代につないでいきたい」

大蛇を供養する『竜姫宮祭』が今も続く
大蛇を供養する『竜姫宮祭』が今も続く
テレビ愛媛
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