SNS広告がきっかけで”トクリュウ”に加わった愛媛の女性が語る後悔
山田さん【仮名】(元受け子):
「逮捕されたときにすごくほっとしました。やっと解放された」
“特殊詐欺の実行役”として逮捕された女性の後悔の言葉だ。
互いに素性を明かさず、実行役をその都度集めて犯罪を行う組織、「トクリュウ」
「犯罪と気づいても、抜け出せなかった」
実行役を使い捨てにするトクリュウの闇に迫る。
フェイスブックの投稿が「入口」だった
県内に住む40代の女性、山田さん(仮名)。
顔と声を隠すことを条件に、この日テレビ愛媛の取材に応じてくれた。
山田さん【仮名】:
「フェイスブックでお金に困っている方みたいな投稿があって、そこに私自身、借金があって困っていたので『困っています』と返信したのがきっかけです」
母親を亡くして一人暮らしになり、生活費にも困っていたという山田さん。
去年、特殊詐欺の受け子として犯罪グループに加わった。
トクリュウによる犯罪はSNSなどでその都度実行役を集め、特殊詐欺や強盗などを繰り返すため、メンバー同士は互いの素性も知らないケースがほとんど。
県警によりますと、県内で去年、トクリュウ犯罪に加わったとして逮捕・検挙された容疑者は88人にのぼる。
いずれも口座の売買や受け子など特殊詐欺に関わったもので、今年5月、栃木県で起きた強盗殺人のような凶悪事件ではない。
ただ、人も場所も流動的に行われるのがトクリュウ犯罪、愛媛でいつ凶悪事件が起きてもおかしくないのだ。

Q.「トクリュウ」ってご存じですか?
Q.「トクリュウ」ってご存じですか?
街の人:
「聞いたことがあります。詐欺とかしているグループ。強盗とかは一戸建てに住んでたら怖い」
「正直身近、自分にも起こるかもしれないと思いますし、怖いなとは思っています」
県警によりますと、県内で検挙された88人のうち半分近い41人がSNSの募集がきっかけで、犯行グループに勧誘されたとしている。
県警匿名・流動型犯罪グループ対策室 松田 力 室長:
「『優良なバイト』を装って、まず人を引き付ける手口がある」

「面接」と称して個人情報を送った
山田さんもきっかけは『高額バイト』『報酬20万円』などと書かれた、SNSの広告だった。
連絡を取ると「金」と名乗る人物から返信があり、すぐに匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導されたという。
そこで「面接」と称して、免許証や顔写真、勤務先などの個人情報を送るよう求められたそうだ。
山田さん【仮名】:
「履歴書って自分の個人情報を伝えますよね。その延長線上というかそういう面接かなという感じ」
すると翌日早速、指示があり、山田さんは指示に従い、100円ショップでカードケースや封筒、イヤホンなどを自費で購入。
そして、次は購入したイヤホンをつけ、指示役と電話を繋いだ。
指示役:
「駅前に呼んでいますので、そのタクシーに乗ってください」
電話の相手は流ちょうな日本語を話す男性で、口調は終始、丁寧だったという。
山田さんは手配されたタクシーに乗り、被害者の家の近くまで移動。
するとスマホに山田さんの免許証を加工した『銀行員をかたる偽の身分証』と、『キャッシュカードをだまし取る手順が書かれた指示書』が送られてきた。

引き返すことはできなかった…
山田さん【仮名】:
「その時に『これ私犯罪に加担しているんじゃないか』と思ったんですよね。ここで踏みとどまったら、被害者も出ずに済むなと頭をよぎったんです」
しかし、引き返すことはできなかったという。
山田さん【仮名】:
「個人情報を送ってしまっていたので、ここでやめてしまったら、後々何かされるんじゃないんかと恐怖が湧いてきて」
銀行員を装い山田さんが家を訪れると、被害者の高齢女性はトクリュウの別のメンバーと電話中で、指示に従いキャッシュカードを山田さんに渡してきたそうだ。
指示役:
「印鑑を取りに行ってください」
電話の指示に従って高齢女性が離れた隙に、山田さんは封筒からキャッシュカードを抜き取り、中身をカードケースにすり替えた。
その後、すぐにATMに向かい、指示役から教えられた暗証番号を使って、限度額いっぱいの現金50万円を引き出した。

被害届が出ていたため現金は出せなくなった
そして、現金の受け渡し先として告げられたのが…
山田さん【仮名】:
「お金の受け渡しで、『東京に来い』と言われたんですよね。タクシー拾って松山空港まで行って、空港から羽田まで行きました」
被害者のカードで引き出した金から交通費を出し、羽田空港に着くと、次に近くの公園にある公衆トイレの個室に入るよう指示された。
山田さん【仮名】:
「入ってから、ちょっと経ったらノックされたんですよね。下の方を見たらちょうど手が見えたので、そこからお金を渡しました。女性だったのかも、男性だったのかもわかりません」
翌日、また指示を受け、再び現金を引き出そうとしますが、すでに被害届が出ていたためか、カードはATMに回収され出てこなくなった。
これを報告した直後、指示役からの連絡は一切途絶えた。
約束された『報酬』は支払われず、東京での宿泊費やそこから愛媛まで帰るバス代もすべて自腹。
残ったのは“赤字”と“特殊詐欺の実行犯という事実”だけだった。
山田さん【仮名】:
「帰ってきてから1カ月は地獄というか、何かされるんじゃないかってすごく怖かったです」
山田さんは、約1カ月後に警察に逮捕された。
それから、執行猶予付きの有罪判決を受けるまでの3カ月間を拘置所で過ごした。

「同じように犯罪に加わり、後悔する人を減らしたい」
今回、山田さんは、「同じように犯罪に加わり、後悔する人を減らしたい」と、テレビ愛媛の取材に応じ、当時の状況を包み隠さず語ってくれた。
山田さん【仮名】:
「逮捕されたときにすごくほっとしました。やっと解放された。ほんとに被害者の方に言えるとしたら、本当にすみませんでしたっていうことしか言えることないですね」
県警では今年4月、トクリュウ犯罪に特化した対策室を発足し、指示役など中心メンバーの摘発に向け体制を強化している。
県警匿名・流動型犯罪グループ対策室 松田 室長::
「犯行に加担しても、本人が思っているような報酬はもらえず、連絡を絶たれるケースというのは把握しております」
トクリュウにとって実行役は仲間ではなく、捕まれば切り捨てるただの“使い捨ての駒”だ。
SNSでの情報の真偽を見極めにくい子供や若者を甘い言葉で誘うのが常套手段だ。

犯罪者への入口は身近に広がっている
若者たち:
「SNSでバイト募集、結構広告とかで流れてきます。ほかにも友達からDMでマルチ商法みたいなバイトに似た勧誘もありました」
「こういう仕事あるんやけどやってみん、みたいな感じで誘われたことはある。最初は話を聞くだけなんですけど、『深くまでいったら”いい仕事”を振ってくれるよ』みたいな感じ」
SNSだけでなく知人や友人の紹介など、犯罪者への入口は身近に広がっている。
松田 室長:
「勇気を持って引き返して警察に相談すれば、最適な対応要領をアドバイスします。相談していただければ、現時点の状況より悪くなることはありません。警察は確実にあなたや家族を保護します」
山田さん【仮名】:
「私自身が自分自身で勝手に決めて、誰にも相談せずに行動したのが最初なんで」
有罪判決を受け山田さんは今、自分の罪と向き合う。
一歩引き返す『勇気』。それが1人の実行犯、そして1人の被害者をなくす大きな一歩につながる。


