全国で消防音楽隊の廃止・休止が相次ぐ中、鹿児島県の大隅肝属地区消防組合消防音楽隊は今も30人の現役消防士・救急隊員が演奏を続けている。「音圧が強い」という講師の指摘に苦笑いしながら、夜勤明けの体で楽器を手にする隊員たちの姿がある。

夜勤明けでも「がんばります」

2026年4月、大隅肝属地区消防組合の新庁舎完成を祝う式典の会場に、堂々とした吹奏楽の音色が響いた。演奏したのは、1979年に発足した消防音楽隊だ。発足から47年、住民との交流や防火意識の向上を目的に、各地でコンサートやパレード演奏を続けている。

この記事の画像(10枚)

メンバーの全員が現役の消防士や救急隊員であることが、この音楽隊の最大の特徴である。月4回の全体練習には、大隅肝属地区消防組合を構成する6つの消防署・分署から隊員が集まる。練習日の隊員の声が、その過酷さをよく伝えている。

「夜勤明けです。出動は10回くらいです。しっかり疲れました」「勤務明けですね。がんばります」

出動を終えた疲労を抱えながらも、楽器を持ち集まる。それが消防音楽隊の日常だ。

「音圧が強い」——体を鍛えた消防士ならではの悩み

月4回の全体練習に加え、隊員たちは「休みの日や勤務の空き時間」を使って個人練習にも励む。副隊長の重大介さんはこう話す。

「月に4回程度練習しています。ただそれだけではどうしても足りないので、各個人でそれぞれ休みの日に、勤務の空き時間を利用して練習しています」

さらに、現役の消防隊員ならではのユニークな悩みも存在する。体を鍛え抜いた隊員たちは、楽器を吹く力も自然と強くなってしまうのだ。萩崎友行隊長はこう苦笑いする。

「どうしても音圧が強い。講師の先生にもちょくちょく『圧が強いですね』と言われる」「私たち吹いてる側からすると普通に吹いているつもりだが、それでも音を強く吹きすぎている部分があるのかなと感じています」

また、メンバーのほとんどが吹奏楽未経験者であるという点も見逃せない。試行錯誤しながら1曲を仕上げていく過程そのものが、この音楽隊の魅力のひとつといえる。

練習中に鳴り響く「ピーポーピーポー」

取材に訪れた練習日、隊員たちは8月1日に予定されている「かのや夏祭り」のパレード曲「ジャンボリミッキー!」を練習していた。その最中、突然の救急指令が割り込んだ。

「ピーポーピーポー」

演奏はその場で中断され、勤務中だった隊員がすぐさま出動した。音楽隊であっても、まず消防士である——その優先順位は揺るがない。

解散の危機、そして復活

こうした献身的な活動の一方で、この音楽隊は過去に存続の危機に立たされた経験を持つ。近年、出動回数の増加や予算縮小を背景に、全国的に廃止・休止を決定する消防音楽隊が増えている。大隅肝属地区消防組合も例外ではなかった。

「10年ほど前、業務が多忙の中、『消防音楽隊を継続するか』という意見が消防音楽隊から出た」と萩崎隊長は振り返る。

当時、メンバーが急激に減り、新たに入隊するメンバーも数年間現れなかった。音楽隊は文字通り、存続の瀬戸際に立たされていた。しかし、地道なメンバー募集を粘り強く続けた結果、解散の危機を乗り越え、現在は定員の30人までメンバーが回復している。

生の音楽を届け続ける理由

SNSが普及し、全国的にはスマホやパソコンの画面を通じた交流・啓発活動に移行する消防も多い。それでも大隅肝属地区消防組合は、あえて生の音楽を届け続けることにこだわっている。

重大介副隊長はその思いをこう語る。

「住民への防火広報が一番の目的だが、消防音楽隊と消防の存在感をしっかりと伝えていけるよう練習していきたい」

画面越しでは伝わりにくい「存在感」を、生の演奏を通して地域に届けること。それが、夜勤明けでも楽器を手にする理由である。

発足50周年へ、そして県外との合同コンサートも

発足から47年が経った今、音楽隊は次の節目を見据えている。3年後の発足50周年に向け、隊員たちは日々の練習に力を込めている。さらに、2026年11月には県外の消防音楽隊が鹿屋市に集まり、合同練習と大規模なコンサートが企画されている。

解散の危機を乗り越え、30人の現役消防士・救急隊員が奏でる音楽は、地域の空気を震わせ続けている。

【動画で見る▶大隅肝属地区消防組合 消防音楽隊 消防業務の傍ら 住民の架け橋に 】

鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。