新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格暴落への懸念から、歴史的な急落となったニューヨーク株式市場。
この動きを受け10日の東京株式市場も、一時1年3か月ぶりに1万9000円を割り込んだ。
これから日本・世界の金融市場、そして経済はどうなるのか?マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏に緊急インタビューをした(3月10日午前9時すぎ 聞き手:フジテレビ解説委員鈴木款)

冷静になれば東京で売られる理由は無い

3月10日午前も下げ先行で始まった東京株式市場(午前11時半現在の株価)
3月10日午前も下げ先行で始まった東京株式市場(午前11時半現在の株価)
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ーー今日の東京市場も下げ先行で始まりましたね。この動きをどうみていますか?

広木氏:
今日は市場が冷静であれば下げる要因は無いですね。昨日のニューヨークとヨーロッパの大暴落に先行して、東京は昨日下げていますから。1週間の市場取引は東京から始まるわけで、先週末に欧米で起こったこと、つまり世界で感染者数が急拡大して、ニューヨーク州が非常事態宣言を出すとかイタリアが街を封鎖するとかは東京で悪材料として消化している。
昨日の急激な円高ですが、いまは昨日から見れば円安に戻っているわけですね。

ーー原油安という新たな悪材料が出ています。

広木氏:
サウジアラビアとロシアの協調失敗でサウジが増産すると言ったので、原油市場がパニックになって大暴落しました。しかしこれも27ドル台を一時つけましたが、いまは30ドル台で終わっています。ニューヨークが最大の下げ幅とか、リーマンショック並みの下落率とか言われると、どうしても市場心理は悪化するのでまた一段と売られるのは仕方ないですけど、よくよく考えればここまで売られる理由はないんですよね。

売りが売りを呼ぶ市場メカニズム

マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏
マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏

ーーとはいえ過去最大の下落幅です。材料以外に理由があるとすれば、やはり市場のプレイヤーの運用方法が変わってきたことの影響が大きそうですね。

広木氏:
1つがリスク管理が厳しくなったことがあだ花になっているということですね。よく言われているリスクパリティ(リスクを低減させる運用方法)、つまりボラティリティ(価格変動)が上がるとリスクと捉えて、株のウエイトを落とさなければいけないと運用している人がたくさんいるんです。つまり、急落の中をさらに売ってくる市場参加者がたくさんいるんです。もう1つが昔ながらのロスカット(損切り)ですよね。単純にロスがここまで増えたから売らなければいけないと。そういう人たちが市場にいっぱいいるので、最初のきっかけはコロナウイルスでしたが、いまはもう株価が下がったことによる売りがどんどん出ている状態です。いまコンピュータ取引が増えたことによって、文字通り「機械的な売り」が加速して、売りが売りを呼ぶ展開になっています。株価の下げ自体があらたな売りを呼ぶというスパイラル的な下げ構造が近年の急落局面では定着化しているので、今回もまた同じようになっているということですね。

ーー底値はどのへんだと考えていますか?

広木氏:

まだ底は入っていないので「一番底」を探り中ですね。まずは1万9000円を割るかどうかで、いったんあく抜けですね。割ったところで「ここは行きすぎだろう」と、立ち止まることができるかどうかですね。

日銀は何でもやるという姿勢を見せるのが重要

ーー日銀の動きはどう見ますか?

広木氏:

日銀は何ができるか一生懸命検討していますね。マイナス金利の深堀とかETFの増額は間違いなくすると思います。ただし金利をさらに下げるとなると、日本の場合マイナス金利の深堀りで金融機関への打撃、副作用のほうが大きいのではと言われていて、なかなか金融緩和は進まないかもしれません。ですからここは、中小企業の実際の資金繰りの支援をもっと積極的にまずはやるということですね。これは日銀と言うより政府の支援ですね。政府はもっと大々的に財政を使って、やればいいと思います。

ーー日銀やGPIFが市場に出てきて買い支えるという動きもありそうですか?

広木氏:
いやそれはないと思いますね。たとえば為替の協調介入でも、全く効かないじゃないですか。市場の力の方が大きいのでそれを何か人為的に止めようとしても無駄だというのはみんな分かっているんですよね。ETFを増額して日銀が買ったところで、売り圧力が強いので下げ止まりません。ただし「何でもやる」という中央銀行の姿勢を見せることは、重要なんだと思います。

ーーFRBは緊急利下げしましたが、金融緩和が果たして市場の下落の歯止めとなるのか疑問の声も上がっています。

広木氏:
先行してFRBが緊急利下げしましたが、「金融緩和をしても効かない、なぜなら利下げしても新型コロナウイルスは止められないだろう」というわけですね。だけどこれは間違っていて、コロナウイルスの感染拡大で下げているのではない。コロナウイルスの感染拡大によって経済が悪化するから株価は下げているんです。だとすると利下げは確実に経済の支えになるのだから、やらないよりはやったほうがいいのに決まっています。経済を少しでも全力で止めるんだという姿勢を日銀もFRBも、そして今週木曜日にはECB理事会も行われますから、ここでも利下げ、マイナス金利の深堀が確実視されていますが、そこでもやり続けることですね。それが必要です。

リーマンショックとは違い金融危機の連鎖は無い

ーー今回の急落を2008年のリーマンショック(金融危機)以上と言う人がいます。

広木氏:
リーマンショックの時と根本的に違うのは、金融機関の体力です。リーマンショックへの反省からこの10年間の金融機関の資本増強は強固に図られています。ですから今回のようなショックがあったとしても、金融機関が破綻して金融危機になることは99%ありません。
過去の危機を見てみると、いずれも市場がクラッシュし、金融危機となり不況となる繰り返しです。しかしいまは金融機関がその連鎖には入らないと思います。

ーー確かにリーマンショックの時は、その前にサブプライムローン問題ですとか、バブルがはじける予兆がありました。

広木氏:
そうです。では今回はバブルがあったかというと、確かにアメリカの株価は史上最高値ですけど、バブルと言うほどのバブルではない。企業業績から見れば若干高いかなというくらいで、ましてや日本なんて「どこにバブルがあるの」というくらいの状況なわけです。
だからサブプライムローンの時のようなとんでもないバブルを作り出し、それが弾けて金融機関の経営がおかしくなるというようなメカニズムはどこにもないわけですよ。
なので、今回の下落は一過性で、ウイルスの感染が止まればまた需要は戻ってくるし、金融機関の体力は失われないし、金融危機にはならないし、そこで政府の対策が大々的に出されていれば平常時に戻るのは意外と早いのではないかと思います。

下落相場はいつまで続くか

ーー今回の下落相場はいつごろまで続くと思いますか?

広木氏:
楽観的なことは言えませんが、中国でさえ封じ込めが成功して落ち着いてきています。日本は1か月、アメリカは6週間遅れと言われているので、あとひと月もすると、対策の効果が見えてくるのではないかと。そうなって落ち着いてきたときに、大々的に金融緩和し財政出動していたら、V字回復は十分あり得ますね。

ーーありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。