私たちが日常生活で「食糧危機」を意識する機会は、意外と多くはないかもしれない。日本に住んでいれば、商店や飲食店などで何かしらの食べ物があるからだ。
そのような中、ある新商品のキャッチフレーズとパッケージが注目を集めている。
それがこちら!
「来たるべき近未来、世界的な食料危機が訪れる…君の備えはできているか?」
という文言とともに背景に描かれているのは、荒廃した惑星と人気のない都市。未来的なフォントとあいまって、まるでそう遠くない未来を舞台にしたSF映画のPRポスターを思わせる。
これは三重の総合食品メーカー・ヤマモリが開発した、レトルトカレーの新商品「2050年カレー」(税別各360円)のパッケージだ。味は「ガーリックチリ」「ペッパーチリ」「麻辣」の激辛3種類で、代替肉として加工された“大豆ミート”を使っている。その理由について、「2050年、食糧危機が訪れ『肉』が今のように食べられなくなった近未来の食事を仮想体験できます」と説明している。
映画ポスターさながらのこだわったデザインは、商品パッケージだけにとどまらない。1月16日にYouTube上で公開された「ヤマモリ『2050年カレー』MOVIE」というタイトルの動画では、「2050年」「世界人口90億人」「深刻な食糧危機」の文字が躍る中、切羽詰まった雰囲気で「肉はどこだ!?」と声を上げる男たち、肉を求めてデモを起こす群衆などを約30秒に渡って写している。
この「2050年」「世界人口90億人」「深刻な食糧危機」だが、農林水産省の「海外食料需給レポート2016」で「2050年には92億人を養うため食料生産全体を1.6倍引き上げる必要がある。このうち、穀物は1.7倍の生産増加が必要となる」 との予測があり、そうした背景をふまえたものだろう。
「2050年カレー」を作った背景は何となく分かったが、どうしてこんな世界観の“激辛カレー”にしたのか?
そして、肉の代わりに大豆を使った理由も知りたい。ヤマモリの担当者に詳しい話を聞いた。
代替肉として大豆を選んだ4つの理由
ーー「2050年カレー」を開発したきっかけは?
これからの日本の食を見つめた時に、食品メーカーとして、2050年に訪れるといわれる食料危機への対応が必要だと考え、代替肉を使った商品の開発に数年前から取り組んできました。
このシリーズの企画に着手したのは、諸外国ではミレニアル世代を中心に環境保全や飢餓撲滅の観点で代替肉が広がりを見せていることを知り、日本でもこの問題に興味を持ってもらいたいと考えたことがきっかけです。
ーー開発はいつ頃から始まった?
約2年前からです。
ーー代替肉として、大豆を選んだ理由は?
以下の4つの理由があります。
1. サスティナブルな食材である
世界中の幅広い地域で育ち、大量栽培が可能。牛を育てるより水資源・エネルギー効率もよい。
2. 日本人にとってなじみ深い食材である
和食に広く使われるため、日本人には近しい存在。同じたんぱく源でも、昆虫などでは抵抗感が強い。
3. 「ヘルシー」「健康的」といったプラスの印象が強い
4. 醤油を手がける食品メーカーとして、大豆に関わりがある
なお、今回は原料に「大豆」を選んでいますが、別の素材を使った代替肉の使用も検討を進めています。
食料危機の切迫感・衝撃を辛さで表現しました
ーー3種類のカレーが全部激辛なのはなぜなの?
食料危機の切迫感・衝撃を辛さで表現しました。 ただ辛いだけでなく、やみつきになる辛さ・旨さにすることで、また食べたくなる味わいに仕上げています。
シリーズのコンセプトが「激辛」というわけではないので、今後は辛さが苦手な方にも召し上がっていただけるような味の商品も展開していけたらと考えています。
ーー開発に当たって、難しかったのは?
コンセプト作りのところです。 「食糧危機」という壮大なテーマを、どうやったらターゲットの方に興味を持って受け止めていただけるかという点にとても悩み、味はもちろん、パッケージやPR手法についても通常の商品開発よりかなりの時間をかけて練りました。
ーー大豆を使った代替肉だが、どのくらい本物の肉に近づけられたと思う?
言わなければ気づかず召し上がっていただけるほど、再現できていると考えています。
「食料危機は必ず訪れると考えております」
ーー商品パッケージをSF映画のようにしたのはなぜ?
近未来感を表現し、“レトルトカレーらしくない”目を引くパッケージにしたかったからです。
ーーパッケージでは「来たるべき近未来、世界的な食糧危機が訪れる」とうたっているが、そんな未来が実際に訪れると考えている?
何年後かはさておき、必ず訪れると考えております。 特に、食料自給率の低い日本は、諸外国に買い負けて今より肉が手に入り難くなる (手に入っても大変高価なものになる)と予想しています。
ーーでは、PR動画でこだわった部分はどこ?
大作映画のパロディのような、一見おふざけにみせながらも、大豆や弊社工場のレトルト釜の素材を入れこんで、中身の素材や製造風景を匂わせる仕立てにしています。
また、エンドロールは、赤文字を拾い読みしていくと販売先の「Amazon」となるよう工夫しました(「Z」が名前に入る人がなかなか見つからず、ある意味苦労しました)。
ーー一連のPRの反響はどうだった?
メディアリリース後、すぐにウェブ系を中心に商品やPR動画についての記事を多数掲載いただき、予想以上の反響に驚いております。おかげさまで、取引先(小売店や卸)さまや、一般のお客さまより商品についてのお問い合わせを多数いただいております。
ーー最後に、どのような人に食べてほしい?
ターゲットとなるミレニアル世代の方にぜひ召し上がっていただきたいです。 この商品を通じて、食料危機という壮大なテーマを身近に感じてもらい、これからの日本の持続可能で豊かな食を一緒に考えていけたらと思います。
「2050年カレー」を実際に食べてみた
食品メーカーらしからぬデザインで話題となった「2050年カレー」だったが、そこに込められたメッセージは真摯なものだった。では、肝心の味はどんなものなのか?
このカレーを取り寄せ、ミレニアル世代である編集部員が実際に食べてみることにした。
大のニンニク好きということもあり、今回はガーリックチリ味を試してみることに。それでは、いざ実食!
一口食べてみると、すぐにガーリックの強い香りが口の中に広がり、その旨さに食がどんどん進んでいく。その一方で「激辛」との謳い文句通り、後からくるのは結構な辛さ…。3~4口ほどで舌先がピリピリとしびれ、食べ終わる頃には水を一気に飲み干したくなる味だった。
そして肝心の大豆ミートだが、大きさが5ミリ程度のコロコロとしたひき肉のような形状。「大豆を加工」という言葉から受ける印象とは異なり、歯ごたえもしっかりとしていて、肉とそれほど変わらず、ヤマモリの担当者が語ったように「言わなければ気づかず召し上がっていただけるほど、再現できている」と感じた。
今のところ、Amazonのみでの1月31日から販売となっているが、担当者によると、店舗でも今後購入できる可能性はあるということだった。
辛い物好きの人は「2050年カレー」にぜひ挑戦しつつ、食料危機問題を考える機会としてみたらいかがだろうか。