「追い込まれ接種だ」「もっと地獄に…」豚コレラで大転換!ワクチン接種に怨嗟の声と政府のジレンマ

カテゴリ:国内

  • 政府が一転「豚コレラ」ワクチン接種容認へ
  • 養豚業者から切望されても政府が慎重だったワケ
  • 遅すぎ?自民党内からの不満の声と風評被害への懸念

豚コレラワクチン接種、“慎重”姿勢から一転“容認”へ

9月20日午後、江藤農林水産相は豚コレラの感染拡大を受け、養豚場の豚へのワクチン接種に向けた手続きを進める方針を正式に表明した。これまで農水省は豚へのワクチン接種に慎重な姿勢をとり続けてきただけに、この決定は大きな方針転換となった。

江藤農林水産相(9月20日)

これを受けて、菅官房長官は「豚コレラについては重要な局面を迎えていると認識している」と、農水省の今回の方針転換を支持したが、自民党内からは次のような声があがっている。

「今までやらないと言ってたのに方針転換したのは、一体なぜなんだ」
「もっと早く国の責任で接種を始めるべきだった。まさに“追い込まれ接種”」

こうした戸惑いや批判が噴出する事態を引き起こした背景には、ジレンマに陥った政府の苦悩があった。

ワクチン接種すれば、豚肉輸出が困難に…政府のジレンマ

2018年9月に日本国内で26年ぶりに発生し、感染が拡大している家畜伝染病「豚コレラ」は豚やイノシシが感染する病気だ。感染した豚の肉を食べても人体に影響はないが、豚の致死率は非常に高く、治療法は見つかっていない。

2018年9月岐阜市で感染が確認される

ただ、豚コレラのワクチンを豚に打てば、抗体ができ豚コレラの感染を防ぐことができる。それだけに、養豚業者からは「一刻も早くワクチンを打って感染拡大を止めてくれ!」との声が多くあがってきたが、農水省をはじめとする政府はワクチン接種に慎重な姿勢をとり続けてきた。

その理由の1つに、安倍政権が、成長戦略と農業活性化策として農畜産物の輸出拡大を目指していることがあり、豚肉輸出の流れを止めたくなかったという事情が潜んでいるのだ。

世界の養豚先進国は「清浄国」と呼ばれ、ワクチンを用いない防疫体制を確立している。一方で、豚コレラによる甚大な被害に悩んできた日本は、長年ワクチンに頼る「非清浄国」という立場で、豚肉の輸出は困難だった。そこから様々な努力を積み上げた結果、近年ついにワクチン接種を必要としない清浄国の仲間入りを果たし、日本産豚肉の海外輸出を促進しようとしていたのだ。それにも関わらず、ここでまたワクチン接種に踏み切れば、日本は再び非清浄国となってしまい、豚肉輸出が再び困難になってしまうというわけだ。

加えて、ワクチン接種をされた豚の肉は、食べたとしても人体に影響はないとされるものの、風評被害が懸念されている。さらにワクチン接種を実施した地域の豚は、その地域内でのみに流通を制限する見通しで、こうしたデメリットが政府にワクチン接種への二の足を踏ませてきたのだ。

しかし、9月13日、関東地方では初となる、埼玉県での豚コレラ感染が確認されたことで状況は一変し、農水省はワクチン接種に舵を切った。

9月13日、埼玉県で感染が確認される

政府の方針大転換に自民党内からは冷ややかな声

20日の江藤農水相の会見の少し前、自民党では今後の豚コレラ対策についての「農林・食料戦略調査会」と「農林部会」の緊急合同会合が開かれた。その冒頭、野村哲郎・農林部会長は次のように述べ、豚コレラ感染拡大の現状に対する危機感を強調した。

「農林・食料戦略調査会」と「農林部会」の緊急合同会合(9月20日)

「我々は関東圏にはどうしても食い止めなければならないということで役所の皆さん方も大変一生懸命やっていただいたんですが、これが埼玉に入ってきますと。あとは、群馬60万頭、茨城40万頭、そして千葉60万頭という大生産地に入り込むと、これはもう大変な被害が出るということで」

その一方で、野村氏は「いよいよワクチン接種に向けて準備を進めていいかということを先生方にご判断いただくための会議であります。打つという決定の会議ではありません」と慎重な言い回しに努めた。それは自民党内に、様々な不満がくすぶっていたからだ。

野村哲郎・農林部会長

方針転換への疑問

自民党内から聞こえてきたのは、まずはこの段階での方針転換に対する疑問の声だ。

「今までやらないと言ってたのに方針転換したのは、一体なぜなんだ」(閣僚経験者)
「ワクチンを打つという大転換の理由、それから、いままでの説明と矛盾をしないかという説明をしていただきたい」(若手議員)
「これまで農水省は接種した場合のマイナス面ばかり強調していたよう思う。接種してもいいけど、接種後の豚肉は全て県内で消費しろとか不可能なことを、言わば脅しみたいなことを言っていた」(中堅議員)

そして、飼育する豚がいつ感染するかと恐れ、一刻も早いワクチン接種を求めていた養豚業者たちの声を代弁するかのように、政府の決断の遅さを批判する声も聞かれた。

「もっと早く国の責任で接種を始めるべきだった。オリンピック・パラリンピックを控えているのに国内全域に蔓延することの方がマイナスだ」
「こうなると分かっていたのに、まさに“追い込まれ接種”ですね」

ワクチン接種という選択に対して飛び交うさまざまな声

提供:共立製薬

その上で、相次いだのは、政府はワクチン接種が実行された場合の風評被害を全力で防いで欲しいという切実な声だ。

「ワクチン接種するからには政府は全力でその影響がないように広報に努めるしかない」
「見えない風評被害が一番の敵だ」
「政府には風評被害や国民の懸念が広がらないようにベストを尽くしてほしい」

風評被害については、ワクチンを接種した豚に関しての食べても人体に影響は無いという点と、ワクチン接種を行う必要がない地域の豚も含めた豚肉全体への不安という、二重の風評被害の払拭と消費者の買い控えの防止に向けた、難しい対応が必要になる。

また、ワクチン接種はあくまでも対処療法であり「神の一手ではない」として、感染症が蔓延しないような根本的な衛生管理レベルの向上を求める声も相次いだ。

風評被害の払拭と消費者の買い控えの防止に向けた難しい対応が必要

ワクチン接種で「もっと地獄」を見ることのないように…

先述の自民党の会合では、こうしたさまざまな声を受け「今後も議論する」とした上で、「予防的ワクチンの接種に向けた準備を進めること」などとした決議文をとりまとめ、政府に申し入れた。

様々な不満が渦巻く中で、半ば強引に、政府が出した結論を追認する形をとった自民党だが、「養豚農家の方々が大変な地獄を見ているということはよくわかるのですが、ワクチンを打ったがためにもっと地獄になったということにならないようすべきだ」との声が指摘するように、一刻の猶予もない事態だからこそ、迅速かつ丁寧な政治判断と対応が問われる時だと言える。

フジテレビ政治部 自民党担当 福井慶仁

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