先の大戦と比べたら…

新型コロナ危機の「Stay Home」は我々にとって世紀の一大事だが、先の大戦に比べれば大したことではないのかもしれない。中学生の時に長崎で原爆を体験した87歳の僕の母など全く冷静で、「○○ちゃんは大丈夫ね?」とむしろ孫のことを心配してくれている。

ところで緊急事態は全国一律であと1ヶ月ほど延びるようなのだが、そんなに延ばして社会や経済は大丈夫なのだろうか。メディアは延長を好意的にとらえているようだが、命の方がお金より大事なのだから、好意的にならざるを得ない。

僕は朝5時頃には起きて、2時間ほど新聞5紙とSNSをチェックするのが毎日の習慣なのだが、最近はその時間の割合が半々位になっている(コロナ以前は9対1で新聞だった)。

あまりにもわからないことが多い未知のウイルスについては、知ったかぶりする既存メディアばかりを信じるより、SNSの中にある有益な情報を拾い上げることも実は効率がいい事に気づいたのだ。

で、最近SNSで「集団免疫」について2人の専門家が興味深い指摘をしていた。

東京では実は60万人が感染?

1つ目はFacebookの友達の伊藤隆敏さん。米コロンビア大教授の有名な経済学者で日銀総裁候補に名前が挙がる人だが、「シンコロナ日記」という投稿が面白く、毎日読んでいる。

4/23の投稿によるとNY州が行った抗体検査では陽性が14%(NY市は21%)。これはPCR検査の感染者の10倍以上になる。伊藤氏はこの数字を「素晴らしいと思った」と書いている。抗体検査の陽性率が高いことは「グッドニュース」で、「集団免疫は営業再開の根拠になる」とも書いている。この評価には感心した。

実はその前日の4/22にもう一人のFacebook友達である「チョモ」が同様の投稿をしていた。チョモとは妻の幼馴染で慶応出身、業界では有名な心臓外科医の岡本一真氏のあだ名なのだが、彼の古巣の慶応病院で、新型コロナ以外の診療目的で入院した患者全員(妊婦と思われる)にPCR検査をしたところ陽性率が6%だったというのだ。

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チョモによると慶応の調査から2つの事が言える。
① 東京圏1000万人のうちすでに60万人が感染?重症者は多くなく致死率は低い。
② ただし感染者の手術は院内感染を引き起こす。

彼はこの事実を受けて、
① 新規入院全員にPCR検査。老人施設も同様。
② できなければいったん機能を縮小
を提案している。

チョモは医療崩壊と介護崩壊を阻止できれば「だいぶん状況はよくなる気がする」とした上で、「また飲みに行ける日がやってくる気がした」と、このコロナ危機からの脱出を予言している。

つまり2人の優秀な経済学者と医師の話を総合すると、新型コロナの集団免疫(6~7割が抗体を持つことを言うらしい)が進行しつつあり、医療と介護が崩壊しないよう「自粛」のブレーキとアクセルを上手に踏めば、光明は見えてくる、ということらしい。

集団免疫は英国がいったん目指したが、医療と介護がついて行けず、高齢者の死亡が激増することに世論が耐えきれなくてすぐに挫折した。スウェーデンは今もやっていて、すでに抗体率が25%に達していると自慢しているが、人口比の死者数が日本の50倍を超えているのに成功とは言えない。日本の死者は456人(5/1現在)だが、これが50倍の2万人になり、うち半数が高齢者施設での集団感染ということになれば安倍政権は吹っ飛ぶだろう。

新型コロナの死者(特に高齢者)が日本で極端に少ないのは日本の医療と介護が優れているからではなく、医療の効率化が欧米に比べ遅れたことが功を奏したからだ、と指摘する医師がいる。もちろんそれだけではないが、理由はどうあれ日本は先進国で唯一ロックダウンをせずに事実上の集団免疫政策を取り、死者数も低く抑え、それがもしかしたら成功しつつあるのではないか。

ブレーキとアクセルは交互に踏めないのか

娘は4月から小学校の1年生になったが、ずっと自宅待機で、最近は公園の遊具までテープで封印されて遊べなくなった。ストレスのせいか口内炎もできた。僕は仕事が全部リモートで、他人との接点が全くなくちょっと寂しい。

皆が先の見えない不安感を持つ中で、SNSの情報は玉石混交ではあるのだが、専門性を持つ信頼できる友人が実名で出す情報は、ろくにウラも取らずに素人のコメンテーターがいい加減なことを言い、ウソがばれたら「間違ったら訂正すりゃいいんだろ」と開き直られるより、はるかに有益だ。ポストコロナの風景は今までとは違ったものになるだろうが、個人の情報収集の仕方も変化することになる。

各国がロックダウンから経済再開へ舵を切り始めた中で、日本は全国一律で緊急事態を延長し、さらに制限を強化しているように見える。最大の目的は医療崩壊を防ぎたいということだろうが、製造業の現場や学校など、感染防止対策をした上で徐々に再開するという選択肢はないのだろうか。ブレーキとアクセルは交互に踏めないのか。

緊急事態延長で日本は引き続き死者の数を各国に比べ極端に低く抑え、新型コロナ対策では世界の優等生になれるだろうが、その代償として社会や経済の復活は他国に比べて大きく遅れることになるのではないか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。