森の再生を、おいしい焼き芋を焼くための炭づくりから始めようと奮闘する男性がいる。男性の周りには炭づくりの試みに賛同する仲間が集まり、新たなコミュニティーが広がっている。

“オール富山”の焼き芋を目指して森をつくる

富山県南砺市井波の閑乗寺公園で炭づくりを行う男性は、米作りの閑散期を中心に焼き芋の移動販売をしている「越中芋騒動」の店主・松下兼久さんだ。

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松下さんが手掛ける焼き芋は、大きなつぼを使った昔ながらの製法で、甘くておいしいと県内各地で評判となっている。

昔ながらの製法で人気の焼き芋
昔ながらの製法で人気の焼き芋

松下さんは2021年から“オール富山”の焼き芋づくりを目指し、新たな計画に乗り出した。

松下兼久さん:
芋を作っているんだったら、燃料の炭も自分で作りたいよねという、そういうところから、炭を作るためにその大本である森づくりに関わりたい

松下さんが新たに着手したのが、芋を焼くのに必要な炭を生産するための森づくりだ。

松下兼久さん:
森をつくるところ、木を植えるところから取り組みをした方が、富山県の里山や生態系を維持して豊かにしていくことにつながるんじゃないかって思ったんです

地域資源を生かしたおいしい焼き芋を通して、富山の森林に興味を持つ人たちを増やすのが松下さんの狙いだ。

松下兼久さん:
自分が芋を焼いて食べてもらうことで、富山の森や山、環境を考えて関わるきっかけにしていけるのではないかと思う。それであえて、時間や手間がすごくかかるが、自分で木を植え森を育て、炭を焼くことをこれからずっとやっていこうと思う

初めて自作した炭の出来映えは…

そんな思いに賛同したのが、山林を有効活用するため、2021年度からの新規事業「山使いません課」を立ち上げた南砺市の島田木材だ。

「山使いません課」は、期限付きで山を貸し出すという事業で、松下さんはこの事業の第1号として2000平方メートルの土地を借りた。

新規事業を立ち上げた島田木材と松下さん
新規事業を立ち上げた島田木材と松下さん

2023年春から植林を開始する予定だが、一番早く育つクヌギでも炭用に使えるまで育つのには最短で8年かかる。

炭用に使えるまでに最短8年かかる
炭用に使えるまでに最短8年かかる

松下さんが描く焼き芋のための森づくりは、気が遠くなるような年月と労力がかかるが、同じ志を持つ同志が現れた。8月19日、松下さんは氷見市の山間を訪れた。

松下兼久さん:
これが手伝ってもらった炭なんだけど…

松下さんが初めて一からつくった炭は灰になった部分が多く、目標としていた光沢のある高品質の炭にはならなかった。

初めてつくった炭は目標の品質に届かず
初めてつくった炭は目標の品質に届かず

今後の炭づくりについて、氷見市で森林管理の仕事に就いている佐藤文敬さんに相談に乗ってもらった。

佐藤文敬さん:
持てばすぐ分かるので、悲しかったと思う。どこから(釜の)空気が入っているかは、自分たちがやっていても見つけるのは難しいので、すごいと思う。それだけ本気ということだから

佐藤さんは、2015年に宮崎県から氷見市に移住した。現在は森林整備の仕事をしながら、林業への新たな携わり方を目指している。

佐藤文敬さん:
どちらかというと兼業林業をやりたい。里山にすでにあるいろいろな価値を生かすような仕事を複数かけ持つことで、生計が成り立つような暮らし方をしたい。人と森との関係性が遠くなっているのだと思う。こうした田舎であっても。できるだけつなげたり、入るきっかけとなるような事業がもっと必要だと思う

どんぐりの苗木を山に 「一緒に森を育てたい」

焼き芋を焼くための炭づくりは、里山の有効活用にもつながっている。松下さんと佐藤さんは、さらに森に関わる人たちの輪を広げようと、新たなプロジェクトの準備に乗り出している。

松下兼久さん:
焼き芋の炭をつくるための森づくりをするにあたって、焼き芋のファンの人やいろいろな人と一緒に育てていくような森にしたい

焼き芋屋の松下さんがこの秋からスタートする「どんぐりのホームステイ」は、炭の原料になるクヌギの種であるどんぐりをまいたポットを希望する家庭に預け、育ったどんぐりの苗木を2023年に島田木材から借りた山に植えるという計画だ。

佐藤文敬さん:
成熟しているクヌギの木から、良いどんぐりがとれる

この日は、クヌギの木を氷見市の森林で探した。どんぐりが取れるのは2021年秋。おいしい焼き芋を焼くための素材すべてをオール富山にこだわることには、いつしか森林に興味をもつ人たちの輪が広がる願いが込められている。

松下兼久さん:
佐藤さんや島田木材といった、新しい取り組みをする林業者でつながることは、時代的に大切になっていると思うし、支えてくれるのはコミュニティーの存在。共感や興味、関心で里山に関わることがこんなに楽しいんだという、価値の底上げにつながると思う

「どんぐりのホームステイ」は、10月から苗木を育てるホストファミリーを募集する予定となっている。

各家庭で育てた苗木は2023年に植林し、どんなに早くても炭焼きできるのは10年かかるが、木を育て未来の森をつくる体験は、林業を身近に感じられるきっかけになるだろう。

(富山テレビ)

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