ボルトン氏の圧力

参議院選挙は予想通り与党が過半数を制して波乱なく終わったが、安倍政権にとってはこの勝利が今後の外交の重荷にもなりそうだ。日本を取り巻く外交案件は、この選挙があったために論争を巻き起こすような結論を出すことを先送りし、相手国もそれを容認してきたが、選挙も終わっていよいよ待ったなしの解決を迫られることになる。

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まずは、中東のホルムズ海峡問題で浮き彫りになってきた日本の安全保障への取り組みだろう。

ホワイトハウスの安保担当補佐官のジョン・ボルトン氏が参院選の開票前日に日本との協議のために米国を出発したのも、「選挙も終わったからきちんと対応してもらいますよ」という米国側の意図が見え見えだ。

ボルトン氏は、ホルムズ海峡の安全確保のために結成を目指す有志連合に日本の参加を求めたのは当然として、最近トランプ大統領が繰り返し口にする「日米安保は不公平だ」という問題にも言及することは予想できる。日本側としては有志連合への参加も、日米安保の改定問題も国内に異論があることを理由に明言を避けたいところだが「選挙で過半数を制した以上は指導力が問われる場面でしょう」と米側から詰め寄られると苦しいところだ。

日米貿易交渉も待ったなし

日米貿易交渉も「待ったなし」の解決が迫られる。トランプ大統領も5月に来日した際に「貿易協定は日本の選挙の後まで待つことになる。大きな数字を期待している」と語っていた。
交渉の焦点は農産品の日本側の輸入関税の引き下げだろう。中国との貿易戦争で米国の農産品の中国への輸出が減少してトランプ大統領の支持層の農民の不満が募っている時に日本への農産品の輸出増加はトランプ陣営にとって喫緊の課題だ。

今のところ、日本は環太平洋パートナーシップ(TPP)で合意した水準まで農産品の輸入関税を引き下げることで大筋一致していると伝えられるが、それで終わるのかどうかは不透明だ。

「シンゾー、そっちの選挙が終わるまで待ったのだから今度はこっちの選挙のために力を貸してくれよ」

トランプ大統領は、関税問題はともかく米国の対日貿易赤字の削減のためにさらに高価な防衛機器の購入を迫ってくるかもしれない。

日韓問題で「引っ込み」がつかなくなることも

そして日韓問題がある。韓国に対する半導体材料の輸出規制を強化したのが4日。奇しくも参院選の公示当日だった。韓国に厳しい日本の世論に訴える狙いがあったかどうかは不明だが、逆に選挙戦中は「引っ込み」がつかなくなってしまったのかもしれない。

韓国側は、世界貿易機関(WTO)で抗議したり米国に特使を派遣して仲介を依頼したり活発な活動を展開したが、日本側は選挙戦で対応する余裕がなかっただけでなく、弱腰と見られるのを避けるために融和策を模索することもできなかったようだ。

この問題も、選挙が終わって収束の道を探る段階に来ているが選挙期間17日間の空白のツケは大きい。このまま硬直状態が続くと、今度は韓国側で来年4月の総選挙が視野に入ってくることになり「引っ込み」がつかなくなることにもなりかねない。

これらの外交課題はいずれも選挙期間中はほとんど論点にもならないままに終わったわけだが、そのツケが選挙後にいっきにしわ寄せされる形だ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】

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理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。