猛威振るった台風19号…地元漁師が話す現状

2019年の台風19号の災害から1年がたつ。
岩手・宮古市の重茂半島と、釜石市の尾崎半島の今を取材した。

台風シーズンにも関わらず、応急的な復旧に、住民からは不安の声が聞かれた。
宮古市重茂で、40年にわたって養殖ワカメを生産している佐藤浩樹さん。

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養殖ワカメ漁師 佐藤浩樹さん:
ワカメの種の手入れ。赤い草とか、いろんな雑草がいっぱいついている

2019年の台風19号では、自宅が大きな被害を受け、養殖作業どころではなかった。

2019年10月12日、沿岸を中心に、大きな災害をもたらした台風19号。
県内では3人が犠牲となり、約890世帯が全半壊。
被害の総額は306億5,000万円にのぼった(9月1日現在)。

佐藤さんの家も、すぐ近くを流れる重茂川が氾濫し、1階の半分ほどの高さまで浸水した。

養殖ワカメ漁師 佐藤浩樹さん:
たぶん玄関のガラスが全部破れていたから、そこから一気に入っていったんじゃないかな

中にあった家財道具のほか、漁具なども水に浸かり、ほぼ全てを廃棄したと話す。

サケ稚魚のふ化場は大きく損壊し…

佐藤さんが所属する重茂漁協では、サケの捕獲施設が流されたほか、ふ化場では稚魚の飼育能力の約2割を担う施設が損壊した。

台風の影響に、サケの深刻な不漁が重なったため、2020年の稚魚の放流は、1,700万匹の計画に対し350万匹となり、震災の年に次いで少ない数となった。

あの日から1年が経過し、それでも川にはサケの姿が…

重茂漁協 前川清参事:
ここが去年の台風で被災したふ化場の飼育池です

ーー今、工事されてますね。いつぐらい完成?

重茂漁協 前川清参事:
年内の予定です

飼育池は被害が大きかったため、修復ではなく、一から作り直すことに。

重茂漁協では、飼育池や食品工場など復旧費用約4億円のうち、1億円が自己負担になるので、近年、不漁が続く漁協にとっては大きな負担。

災害住宅から自宅に…今も消えない不安

一方、佐藤さんは自宅を直し、2020年2月に災害公営住宅から元の家に戻ってきた。

養殖ワカメ漁師 佐藤浩樹さん:
災害住宅は6畳2間だった。あとはちょっとした台所と。だから4人で暮らすのは厳しい。やっぱり慣れたところはいい

ただ一つ気がかりなことがあった。

養殖ワカメ漁師 佐藤浩樹さん:
高台(の災害公営住宅)にいれば、地震が来たって、雨が降ったって、何も心配ないやっていう感じで。ここに来たら、何かあったら逃げなければという感じ。気持ちが全然違う

佐藤さんが不安を抱えているのは、近くを流れる川に原因があった。

養殖ワカメ漁師 佐藤浩樹さん:
何回も山からの土砂が流れてきて…どこが川で、どこが土手がわからないくらい平らになってるから、簡単にあふれる

護岸工事は川の下流から進められているが、上流はほとんど手がつけられていないのが現状で、災害に弱い状況となっている。

養殖ワカメ漁師 佐藤浩樹さん:
1日も早く(川底を)掘ってもらえれば、そこだけでも気持ちが(違う)

住民が望むのは「根本的な問題解決」

台風19号の被害から1年。
岩手・釜石市には、1年前とほとんど変わらない風景が残っている場所があった。
尾崎半島の佐須地区だ。

道路をえぐるように大きく空いた穴。

また、流されてきた土砂が道路をふさぐなど、22世帯が一時 孤立した。

1週間後に道路は復旧したが、現在も一部の道路は舗装されていない。
ガードレールも応急処置のままだ。

佐須町内会 佐々木孝明会長:
不安です。前回の経験から、大雨が一番怖い

住民の多くが、「単なる復旧」ではなく、根本的な問題の解決を望んでいるという。

佐須町内会 佐々木孝明会長:
砂防ダムとか、治山ダムの完成を早くしてもらいたい

釜石市は10月5日から、市内7地区を対象に、台風19号災害の検証結果について、住民説明会を開いている。
これまで何度も床上浸水の被害があった中妻・千鳥地区。

2020年も台風シーズンを迎え、住民たちからは「あせり」の声が聞かれた。

中妻北町内会 佐藤力会長:
増水すると必ず冠水することはわかっているはず。早く対処してほしい

千鳥町町内会 永澤光雄会長:
少しでも早く、皆さんが安心して生活できるような方法をとってほしい

かけがえのない命と、大切な財産を守るための対策。
いつか訪れる次の災害に備え、早急な対応が求められている。

【台風19号から1年 取材を終えて】

台風19号の豪雨災害で私は、宮古市の重茂半島を中心に取材した。宮古市には、2009年から5年間宮古支局員として勤務していたので、知り合いも多くいる。取材をさせてもらった漁師の佐藤浩樹さんも、支局時代から、取材の時によく船に乗せてもらったりするなど、お世話になった方だ。そんな佐藤さんが、台風19号で住宅に大きな被害を受けたと聞いて、大変心が痛んだ。
私が現地に入ったのは2019年10月15日。
台風の豪雨は12日の深夜から13日未明にかけてだったので、災害から2日後となる。道路の陥没やあふれ出た山からの水など、いたるところに豪雨の爪痕が残っていた。まるで津波に襲われたかのようだった。
重茂地域は、東日本大震災から10年かけてようやく日常を取り戻しつつあった矢先の被害ということで、住民の心情はいかばかりかと思った。重茂漁協も、養殖施設などが大きな被害を受けているが、サケの不漁や海藻が育たない磯焼けによるウニ、アワビの不漁も深刻で、この先が心配だ。
今回取材した宮古市も釜石市も、道路や河川の整備は応急的な復旧となっている。災害に弱い状態が続いていて、住民も一刻も早い根本的な解決を望んでいる。ただ、自治体も財政的な壁もあり、対応には限界があるように思う。

温暖化の影響なのか、全国的に繰り返し発生する大規模な水害。災害に強い街づくりをどう取り組んでいくのか、今後の大きな課題といえそうだ。
そのなかでも住民にできることは、いち早く逃げることだ。住民から話を聞くと、一度被災している人は、逃げる意識は強い。
ただ、その分、人によっては、トラウマもあるだろうし、大雨の度に不安を抱くことも多いと思うので、心のケアも必要だと感じた。

2021年の3月11日で、震災から10年となる。
災害に対する備えとして、私たちメディアは何を発信できるのか、今回の取材を契機に、もう一度考えたいと思う。
また、個人としては、温暖化が度重なる豪雨災害の一因となっていると考えると、私たち一人一人が、CO2を減らすためにできることがあると痛感した。電気を使いすぎないことやごみを減らすことなど、もう一度、身の回りの生活でできることを見直したいと思った。

(岩手めんこいテレビ・井上智晶アナウンサー)