2025年は昭和の始まりから数えて100年にあたることから、KTSライブニュースでは「ザ・昭和」と題して、「昭和」のぬくもりが放つメッセージに耳を傾けてみたいと思います。
25日は、待っているお客さんに会いたい…昔ながらのスタイルで走り続ける走る魚屋さんを追いました。
「かわいい かわいい 魚屋さん♪ ままごと遊びの 魚屋さん♪」
昔懐かしい音楽を流しながら鹿児島市の住宅街に停まる一台のトラック。
移動販売車で魚を売る「走る魚屋さん」です。
「まあ気楽に待ちましょうか」
穏やかに話すのは小幡水産の小幡健彦さん53歳。
愛車の「海斗」で魚の移動販売を始めて22年になります。
陳列棚には、その日に仕入れたタカエビ、イサキなど新鮮な魚介類がずらり。
音楽に誘われて一人、また一人とお客さんがやってきます。
小幡さん「あ、じーちゃんだ」
お客さん「アジを3匹」
小幡さん「2匹でいいんじゃない?」
お客さん「うんにゃ4匹じゃ」
小幡さん「なんでね 食べきる?」
お客さん「3匹でよか」
小幡さん「3匹にしようか、うん」「ありがとう 転ばんごとよ」
お客さん
「鮮度がやっぱり違っておいしくて。ファンが多いんですよ。ここら辺」
常連さんも多く、会話もはずみます。
小幡さん「父ちゃんはどう?歩けないの?」
お客さん「歩ける」
小幡さん「ご飯はしっかり食べられるの?」
お客さん「食べられる」
小幡さん「ならよかった」
小幡水産・小幡健彦さん
「(お客さんの)8割は高齢者。バス停がなかったり、お店が遠いとか。うれしく買ってもらえるのが、僕たち商売人にとってもうれしい」
販売は、週に5日。
鹿児島市や姶良市で、近くに店がない地域やお年寄りが多い住宅街など、一日に約30カ所を回ります。
午前6時、鹿児島市の中央卸売市場。
小幡さんの一日は新鮮な魚の仕入れから始まります。
小幡さん
「これは脂のってておいしそうだよ。刺身にしないとね」
あわただしく魚の仕込みを行い、トラックの荷台に並べていきます。
小幡さん
「まあまあ詰まった方かな。さあどうぞ、何を選ぶ?って感じでしょ(笑)」
小幡さんがこの世界に入るきっかけとなったのは両親の存在でした。
昭和40年頃に父親の健次さんが魚の移動販売を始め、毎朝、健次さんが仕入れた魚を母親の久子さんがトラックに積んで販売してきました。
昭和を駆け抜けた両親の思いを引き継ぎ、小幡さんもこの道一筋でやってきましたが…。
小幡さん
「今は登録しているだけで20台。みんな高齢でやめていく」
昭和50年代、県内で200台ほどいた「走る魚屋さん」は時代と共に徐々に減り、現在、県の移動販売の組合に登録しているのは20台だけとなりました。
それでもこの仕事には魅力があると小幡さんは語ります。
小幡さん
「走らないと。会いにいかないと…というのが一番強くて。さあ何を積んでいこうかと毎日考えるのが楽しい。ありがたいですよね。ほんとに。今の世の中ネットで売れば簡単な話かもしれないけど」
昭和のスタイルにこだわり、SNSを使った告知はほとんどなし。
それでも評判は口コミで広がり、若い人の姿も見られます。
お客さん
「ゲソとカジキを…(予算)1000円しかなくて」
小幡さん
「ちなみに...これはどうかな...やめようか(笑)800円くらいかかる。500円くらいがいいよね。これかな?食べ切りがいいよね。420円!」
押し売りはせず、予算に合わせて食べきりサイズを勧めるのが小幡流。
お客さん
「(走る魚屋さん)珍しいなと思って。新しい人もどんどん通うようになった」
小幡さん
「いた!待ってた。よかった。前回『きびなご食べたいのよね』って言ったのをきょう思い出して(仕入れた)」
キビナゴがほしいというおばあちゃんのお話をしっかり覚えていた小幡さん。
小幡さん
「はい、いらっしゃい母ちゃん。こんにちは。キビナゴもあるよ!」
お客さん
「2つください」
小幡さん
「ありがとう。刺身もできるよ。この前言ってたもんね。よかった」
今度はキビナゴの感想を聞く楽しみができました。
さらに…。
常連のお客さん
「おいしいのができたよ」
小幡さん
「あら~ありがとう、すごいね!」
この日は、小幡さんの親の時代からの常連という女性が、前回買ったイワシで甘露煮を作って持ってきてくれました。
長年培った絆とお客さんの笑顔が小幡さんの原動力です。
小幡さん
「見ての通り、こんなに小さい商売なんですけど、変わらずお客さんが集まって買いに来てくれるというのがうれしい。運転ができるうちはずっと続けていきたい。人と会いたいというのがあっての走る魚屋だと思っています」
おいしい魚が思いをつなぐ。
昔懐かしい「走る魚屋さん」は、便利な時代に忘れてしまいがちな、人と人との心のつながりを教えてくれました。
お魚を売る、買うという一つの行動の中にいろんなお話が生まれて、これまでもたくさんの物語が紡がれてきたのだと思います。
インターネットで何でも簡単に手に入る便利な時代ですが、走る魚屋さんには、わざわざ通いたくなる魅力が詰まっていました。
みなさんの地域でもあの音楽とともに見かけることがあるかもしれません。