連日続く厳しい暑さ。
今年の6月は例年より早い猛暑に見舞われ、全国各地の田んぼに異変が起きています。
この状況が続けば、価格高騰が心配されているコメの生産に深刻な影響を及ぼす可能性も。
「今年の新米は大丈夫なのか」という不安の声が広がっています。
■「経験したことがない」農家も驚く田んぼの異変
奈良県内のコメの生産が盛んな地域。取材班が訪れたこの日の気温は34度を超えていました。午前中にもかかわらず、日差しが強く、すでに農家の方々が田植えの作業に汗を流しています。
10年ほど前から奈良県内の4カ所の田んぼでコメ作りをしている宮下祐二さん(32)は、この時期に田植えのシーズンを迎えた「ヒノヒカリ」という品種を育てています。
【ゆうちゃんファーム 宮下祐二代表】「すんごい暑いです」
宮下さんは日陰のない炎天下での作業について、そう一言。暑さで倒れないように、今はお昼に3時間ほどと長めの休憩をとるようにしているといいます。
【ゆうちゃんファーム 宮下祐二代表】「これがビールやったら、うれしいんやけど」
そう冗談を言いながらも、宮下さんが心配しているのは熱中症だけではありませんでした。
およそ2週間前に苗を植えた別の田んぼを見に行くと、一見、順調に成長しているように見えますが、よく見ると苗がスカスカになっている場所が…。
【ゆうちゃんファーム 宮下祐二代表】「最初はちらほらやったんですが、途中から徐々に減っていっていると見て分かるように。ここまでの被害はことしが初めてで、今まで経験したことがない」
宮下さんによると、暑さが続き雨も降らず水不足になったことから、イネが丈夫に育たなかったとのこと。
【ゆうちゃんファーム 宮下祐二代表】「触るとポキッていく感じですね。固くもなく柔らかい。この時期なら、しっかりした苗になっているんですけど、まだふにゃふにゃ」
さらに、追い打ちをかけたのが、暑いとより活発になる外来種「スクミリンゴガイ」、通称ジャンボタニシです。柔らかいイネが大好物で、多くの苗が食べられてしまったといいます。
■驚愕の「風呂の温度」!? 田んぼの水温が40度超え
田んぼの暑さは一体どうなっているのか?取材班がサーモグラフィーカメラで確認すると、イネがなくなった水面は真っ赤っ赤!土手の地面と同じくらい高温になっていることが分かりました。
記者が手を浸けてみると「熱っ!本当にお湯みたい」と驚きの声。水温計で測定してみると、なんと40.5度を示していました。
イネの生育には25度から30度ほどが適しているそうで、宮下さんもこの数値には驚きを隠せません。
【ゆうちゃんファーム 宮下祐二代表】「うちのお風呂の温度ですわ。(コメ作りに)不安はつきものですけど、この暑さで不作になるんじゃないかなと、毎晩思ってますね」
■藻の異常繁殖で「窒息死」するイネ
田んぼの水温の上昇による影響は各地で発生しています。イネの生育を調査している大阪府立環境農林水産総合研究所でも、ある異変が起きていました。
【大阪府立環境農林水産総合研究所 岩本百合香技師】「きのうの時点では、こんなになかったんですよ」
研究所の岩本百合香技師が指摘するのは、一面に繁殖している「藻」です。イネは前日に植えたばかりでしたが、藻に覆われ、多くが倒れてしまいました。
【大阪府立環境農林水産総合研究所 岩本百合香技師】「イネの上に藻がかぶさることによって、イネが水没し、水中で日すら当たらない。光合成も呼吸も何もできない状態なので、人間でいう窒息死。よっぽど水温と気温が温かくて増えたのかな」
■早すぎる猛暑が収穫量と品質に与える影響
すでに被害が出る中で、肝心のコメの出来はどうなるのでしょうか。
岩本技師は6月に猛暑が続くと、イネが正常に育たず、収穫量が減少する可能性もあると指摘します。
【大阪府立環境農林水産総合研究所 岩本百合香技師】「(7月以降)さらに暑さと水が足りない状態が起きると、実の太りが悪くなる。お米がやせてしまって、収穫量が減ってしまうということが考えられる」
暑さはコメの品質にも影響を及ぼします。研究所で去年とれた「未熟粒」と呼ばれるコメは、通常のコメに比べ、粒が白く濁っています。暑さが続くことででんぷんの蓄積が阻害され、品質が落ちているのです。
最も品質が良いとされる「一等米」の割合の推移をみると、過去に猛暑を記録した2010年は大きく下落し、6割程度に。さらにおととしも猛暑の影響で大きく下落しています。このおととしの品質の低下が、「令和の米騒動」の原因の1つになったとも指摘されています。
【大阪府立環境農林水産総合研究所 岩本百合香技師】「どんどんコメの等級が下がってしまって、コメの買取価格が悪くなるので」
記者が「スーパーに並ぶ出荷量は?」と尋ねると、岩本技師は「減る可能性がある。このまま本当に梅雨がなくて、暑さもずっと続くとなると心配」と答えました。
■暑すぎる6月、新米は大丈夫?
6月という早い時期から猛暑が続き、各地の田んぼでは水温上昇によるイネの生育不良や藻の異常繁殖、害虫の活性化など、さまざまな異変が起きています。
農家の宮下さんも研究者の岩本技師も、このまま猛暑と水不足が続けば、今年のコメの収穫量が減少し、品質も落ちる可能性があることを懸念しています。
早すぎる暑さが及ぼす異変。すでに価格高騰が懸念されているコメ。今年の新米は本当に大丈夫なのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」2025年6月20日放送)