福井県立大学に在学中にベンチャー企業を立ち上げた男性がいます。この男性は、淡水でトラウトサーモン(ニジマス)を養殖し販売までを手掛けています。起業から4カ月、餌に着目し、新しいビジネスに挑戦する姿を追いました。
勝山市の山奥にある養殖場で魚に餌をやる男性が、村上雄哉さん(24)です。
村上雄哉さん:
「日に4・5回、こまめに餌を与えたほうが成長が速い」
村上さんが育てるのは淡水で成長させるトラウトサーモン(ニジマス)です。「(魚に)料理を食べてもらっているような感じ。しかも、喜んで食べてもらって大きくなるのは嬉しい」
村上さんは、2025年3月に福井県立大学の海洋生物資源学部を卒業しましたが、在学中の1月に新しいエサでサーモンを養殖する会社を起業しました。
3歳から勝山市で育った村上さんは趣味の釣りで全国大会で準優勝し、スポンサー契約を結ぶほどの腕前です。大学時代は魚の餌づくりを研究する中で、新しい餌の開発がビジネスに繋がると感じていました。「今後、人類が増える中で世界中で魚の需要が増えていく。日本は魚の餌の原料を輸入しているので、値段も上がっていくし経済的にも買えなくなっていく」
そんな思いから在学中にベンチャー企業として立ち上げたのが「Sa-mo」です。独自の餌を作り、ゆくゆくはその餌で大きくしたトラウトサーモンの販売までを手がけようと考えています。
養殖魚の餌に使われる魚粉は、世界中に魚食文化が広がったことで需要が高まり、高騰が続いています。15年前に比べると3倍以上です。「今までの魚の餌は天然の魚から作る魚粉を使っていたが、その代わりに昆虫を加えて餌を作ることをしている」
小浜市の県立大学かつみキャンパスで、大学時代の先生と共に餌の試作を繰り返しています。
実際に餌づくりを見せてもらうとー
「これはコーンの粉や小麦。人が食べられるものがたくさん入っている。料理みたいな感じ」
詳しいことは企業秘密といいますが、乾燥させた昆虫・ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)が粉末として入っています。「タンパク質源がないと魚は育たないが、数年前に食用昆虫のニュースを見て、人間が食べるのは抵抗があるが、それなら餌にしてしまおうと思った」
その他にも―
「これは、越前海岸で塩を作っている人からもらってきたにがりです」
魚の成長に必要な栄養素、マグネシウムを、地元のにがりから餌に取り入れています。
オリジナルの配合で作る餌は、魚が食べてくれるためには課題も多いようです。「エサの大きさと密度を調節して、魚が食べた後に程よく消化しやすい固さにしている。(水中で下に)落ちるスピードも密度で調整している」
餌を試作する中では、県立大学ならではの強みも感じています。「この餌を作る機械があるのは、大学ではここだけ。小ロットで細かく調整し、研究しながら改良できる」
福井県立大学の細井准教授も「まだまだ課題は多いと思うが、大事なテーマなので応援したい。地元の環境を大事にする視点があるので、それが彼のいいところだと思う」と後押しします。
大学4年生でベンチャー企業を立ち上げた村上さん。作った餌を魚に与える日々が続きます。「ネコの餌やり機を防水使用にしてカメラも付けているので、ゴーグルを付けて、魚をいつでも監視でき、スマホで家からエサをやれるように機械を導入した」といいます。
現在、トラウトサーモンの体長は40センチほど、8月までにもう少し大きくし、約100匹を試験販売することを目指します。「昆虫を使う餌は、今はコストが合わないが、今後の水産業界に良い影響がある。このビジネスを形にすることが地域への恩返しになるので絶対成功させたい」
淡水魚はもともと昆虫も食べているので相性はよいとのこと。8月には、生ハムのように熟成させたトラウトサーモンを県内外の飲食店で提供して販路を広げ、2026年は10倍の約3トンの生産を目指します。
高騰する魚粉に変わる新たな餌にビジネスチャンスを見出す24歳の挑戦。今後の活躍に注目です。