【宇宙産業】岩谷技研(江別市)は今夏、気球に乗って宇宙の入り口である成層圏を遊覧する商業運航をスタートさせる。代表取締役の岩谷圭介さんに「宇宙を見たい」という夢を一般の人でもかなえられるプロジェクトについて聞きました。BOSS TALK#96

地球の輪郭を望む宇宙遊覧フライト 価格は2400万円

――気球での宇宙遊覧は夢やロマンがありますね。
「気球で高度20キロ、25キロくらいまで上がることができ、地球の大気の中ですが、あたかも宇宙から眺めているような景色が楽しめます」
――お値段は?
「1人2400万円。将来は丸が一つ取れると思います」
――子どものころはどんなお子さんでしたか。
「家にある家電製品や機械を見ると、中身や仕組みが気になり、分解していました」
――北海道とはどういう縁ですか。
「北海道大学はロケット、航空、宇宙系に強い大学。宇宙にも興味があり、北大に行こうと、北の大地に渡ってきました」
――どういった学びを?
「ロケット工学を学び、宇宙に携わりたくて、未来を切り開く道具を作りたいと思いましたが、ロケットは大変すぎる。ロケット以外を調べて出合ったのが風船です」


米国の大学生の快挙に奮起、力不足を痛感し一時、あきらめたことも

――風船に着目したきっかけは?
「アメリカの大学生が気球を使った装置で宇宙と地球の写真を撮ったというニュースが出て、地球の輪郭が望め、地球を見下ろしている写真が写っていました。自分もやってみたくて気球、バルーン、風船への探究が始まりました」
――どういうところからやり始めましたか。
「東急ハンズ、100円ショップ、ホームセンターで部材を集めて形にしてみましたが、全然うまくいかない。初めは高く飛ばせず、飛ばしても、どこ行くか分からない。ひもを高さ20キロまでつけるのは、不可能ではないにしても切れてロープが垂れれば、電線に引っかかり、そこら中でショートが起きてしまい、安全ではない。偏西風の影響を予想して、気球を上げてみましたが、違う方向に飛びました。実力不足です。知識も技術も足りない。あきらめようと思って10日ほどたったころ、苫小牧の方が海岸で気球、風船を見つけ、親切に送ってくれました。マイクロSDのデータが抽出でき、高い空からの写真が撮れていました。全く無理と思っていたのが、ある程度できるかもという感触に変わり、その後1年間、開発を続け、ようやく写真が撮れました」
――その写真を見て、どう思いましたか。
「非常に悔しかった。写真を1万6千枚も撮って、まともなのは1枚だけ。ほとんどがブレていました。例えば地上の気温が25度くらいでも上空は氷点下80度くらいになり、温度差は105度。カメラ内部が温度差で結露し、全然だめでした」


失敗は改善点の宝庫 成功の達成感は足を止め、目をくもらせる

――あきらめない原動力、モチベーションは何ですか。
「できることをやっているので、できることはできる。成功と思ったら、そこで終わりになる。成功の中にも小さな失敗がいっぱいあり、たくさんの改善点がある。成功の達成感なんていらない。達成感はそこで足を止め、経験や結果に向き合う目をくもらせてしまう。科学的な視点で結果にいかに真摯に向き合うかが極めて重要だと思いまず」
――今、力を入れていることは?
「今年の夏に実際にお客さまを乗せて気球を飛ばします。お客さまとパイロットの2人乗り。装置は上に大きな気球を付け、全体で50メートルくらい。上がっていくと、ひょろ長い形の気球がパンパンの丸い形に変わる。2時間かけて上空に行き、ガスを少し抜いて降りてくる。全体のフライト時間は4~6時間です。気球の名前を募集しました。プロジェクトは風船から始まり、風船で宇宙を見たいことから4月、『かざぶね』に決めました」
――プロジェクト、ビジネスを大きくする中で、ボスとして大切にしていることは?
「100人近い社員全員で、得られた結果を共有すること。二つ目は形にしてこそ価値があるということ。いろいろと試して、結果をもとに成長してチームで形にする、成し遂げることを大事にしています」


人類に役立てる技術を作り続けることが会社の存在意義

――今後の北海道との関わり方をどういうふうに考えていますか。
「気球は北海道が一番飛ばしやすい。最近の大型の気球はすべて北海道で上げており、今後、有人の気球を飛ばすのも、北海道がメーンになるでしょう」
――岩谷技研として、岩谷さんとして、どういう存在でありたいですか。
「必要とされない会社は存在する価値がないので、必要とされ続けないといけない。高度20キロ超えると、宇宙と同じ環境になる(高度の指標)アームストロングリミットがある。(それ以上の高度で着る)宇宙装備の技術は持っています。上空に上がって通信をしたり、そこで人が生き続けられる環境を作ったりする技術も開発しています。民間でも国でも宇宙船を作る流れができています。宇宙機、ロケットに使える技術があり、地域、国、ひいては人類全体に役立てる技術を作り続けることこそ会社が存在する意味だと思います」。

北海道文化放送
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