20日から国会で審議される「年金制度改革法案」。

去年行われた5年に一度の財政検証では、「30年後に給付水準が3割減る」という衝撃的な数字が。

そこで政府は、当初「国民年金(基礎年金)の底上げ案」を改革の目玉としていたが、最終的に削除することに。

逆風が吹き荒れる中、石破政権はどうする?そして私たちの老後はどうなる?

分かりやすい政治解説でおなじみ、政治ジャーナリストの青山和弘氏が詳しく解説した。

政治ジャーナリスト青山和弘氏
政治ジャーナリスト青山和弘氏
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■5年に一度の見直し時期、”骨抜き法案”に怒りの声

今回の年金改革の問題について、青木氏は怒りをもって「どうなる?私たちの老後。年金改革から逃げるのは政治の怠慢!」と政府の対応を批判した。

【青山和弘氏】「年金は5年に1回しか見直さないんですね。つまり20年後、30年後を見据えた政策なのでころころ右左にというのはあんまり良くないので、『5年に1回ちゃんと点検しましょう』ということで、それがちょうど今年なんですね。ただ、国民のお年寄りの生活を守るための、最低限の生活を保障するための制度なのに、非常に改革に後ろ向きな法案が出てきた。これは、消費税がいいとか悪いとか、上げるとか下げるとかと違って、絶対に逃げちゃいけない事なんですよ。まさに政治の怠慢そのものですね」

具体的に青山氏は「今回の年金改革法案は“骨抜き”!」と以下の3点を指摘する。

・30年後に給付水準が3割減る、就職氷河期世代は生活できない!
・保険料を払う意味は!? 生活保護の方が充実
・社会保険料が25年で1.5倍、ステルス増税はもうやめろ!

青山氏は政府の対応を批判
青山氏は政府の対応を批判

■崩壊する年金制度 就職氷河期世代が直面する老後の危機

まず1つ目の「就職氷河期世代は生活できない!」について解説する。

【青山和弘氏】「まさに30年後というと、就職氷河期世代を支えていく、老後を支えていくのは、やはり年金なんですけれども、普通の人は国民年金プラス、厚生年金といって会社で払う年金との、2階建てで年金をもらうんですが、氷河期世代は正社員の割合が少ないんですね。つまり非正規で働いてる人は、この厚生年金に入っていません。あと自営業者なんかもそうなんですけれども、この国民年金一本で、老後の生活の基盤とするという人が少なくない。

この人たちが今、国民年金は満額6万9000円あまりなんですけれども、これがさらに3割減ってしまうという状況になることが、もう分かったんですね去年。だから『3割減るのはまずいだろう』ということで、今回、改革案が出てくるはずだったのに、この3割減を補填する案をカットしたまま出てきたということです。

ただでさえこの6万9000円だけだとかなり厳しいので、本当は厚生年金とか、他の貯金とかもしなきゃいけないのに、さらにこれも減ってしまうということが分かってきたということなんです」

(Q.実際3割だけで済む?)
【青山和弘氏】「国民年金払ってる人の5割ぐらいは、ずっと(継続して)払ってないんですよ。そうすると、この満額さえもらえないんですね。払う期間が短くなると、年金自体も減ってしまう」

(Q.賦課方式が日本人に馴染まないのでは?)
【青山和弘氏】「今まさに、『自分で運用するからいらないよ』みたいな人も出てきていて、そうするとますます年金の仕組みというか、財源が厳しくなるという悪循環に入ってますね」

青山氏(関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」より)
青山氏(関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」より)

■”あんこ抜きアンパン”批判続出 野党が揃って指摘する年金法案の欠陥

【青木源太キャスター】「就職氷河期世代(1993年~2004年ごろに就職活動)の方々を中心に、厚生年金の積立金から国民年金へ底上げという案があったんですよね?」

【青山和弘氏】「ここ(厚生年金の積立金)から250兆円ぐらい回して、国民年金の3割減るというのを底上げしようと。30年後、ちゃんと今と同じぐらいの水準でもらえるようにしようって案が当初あったんですけれども、なんと、参議院選挙が7月にあるので、『これ厚生年金もらってる人から怒られるだろう』ということで、法案から今回削除してしまった。

確かに、厚生年金もらってる人が最大で月7000円ぐらい減るんですね、7000円が毎月減るわけですし、これが何十年もずっと続くのは、確かに(厚生年金受給者の受給額は)減るんですけれども、厚生労働省などは、国民年金(受給者)も同時に厚生年金ももらって2階建てでもらうんだから、しょうがないだろうってことだったんですが、批判を恐れてカットして、じゃあどうするのかという案のないまま、まさに年金改革から逃げた法案が先週出てきたということなんです」

青山氏が「今回の年金改革法案は“骨抜き”!」と指摘する3点
青山氏が「今回の年金改革法案は“骨抜き”!」と指摘する3点

今回の年金改革法案に主な野党は次のように反応する。

立憲 野田代表:”あんこ”の入っていないアンパン、”あんこ”を入れるための修正を求めていきたい。

国民民主 玉木代表:”あんこ”のないまんじゅう“がわだけ”。

維新 前原共同代表:今の法案には賛成できない。基礎年金の底上げが抜け落ちるのは大問題。

“あんこ”というのが“底上げ案”の事だそうですが、野党各党からも批判の声が上がっている。

【青木源太キャスター】「選挙のために参院選前にその案は出せないと言って、底上げ案は削除しましたが、年金は本当長い目で見た話だから、目先の選挙のためにどうこうするという話じゃないですよ」

【青山和弘氏】「選挙で『これで良いかどうか』を問うぐらいの姿勢がないと、厳しい話を全部先送りにしたら、いつまでたっても何もできないっていう」

【青木源太キャスター】「年金の難しいところは、働いてる人つまり厚生年金の人と、国民年金の人とか、世代によってとか、改革したらどこかの世代の人、どこかの人が損をしてしまうっていうのがあるからめちゃくちゃ難しいですよね」

【青山和弘氏】「“支え合う”という考えをなくしたら、年金制度やっぱり成り立たないということなんですね」

年金改革法案に対する野党の反応
年金改革法案に対する野党の反応

■崩壊への悪循環 納付者減少が加速させる年金制度の危機

そして2つ目の「保険料を払う意味は!?生活保護の方が充実」について、「非常に深刻だと」青山氏は話す。

【青山和弘氏】「これが深刻なんですよ。すでに年金制度というのは、満額もらえない人もいるんですけど国民年金の満額だと月6万9308円。生活保護は地域によって違いますが、東京23区で単身のお年寄りの場合では、生活扶助だけでも月7万6880円で、国民年金の満額の金額よりも多いんですよ。さらに生活保護受けてる人は家賃補助も出るんですね。住宅扶助と言うんですけれども、これは月5万3700円。さらに医療も介護も自己負担が要らないんですね。

もちろん生活保護には色んな制約あるけれども、この現実を見ると、毎月これ国民年金で1万7000円ぐらいの掛け金を払わなきゃいけないじゃないですか。そんなもの払わないで、『将来、生活保護でいいや』っていう人が増えても仕方ない。しかも満額もらえない人になると、なおそうですから、こうなってくると本当にこの年金制度っていうのは、このままで持続性があるのか。100年安心と言って、20年前に改革したんですけど、『ちっとも安心じゃないんじゃないか』ということなんです」

【青木源太キャスター】「払わないでいいっていう人が増えたら、それはまた崩壊に向かってしまうわけですからね」

保険料を払う意味は!?生活保護の方が充実
保険料を払う意味は!?生活保護の方が充実

■国会審議なしで上がり続ける社会保険料という”抜け道増税”の仕組み

3つ目の「ステルス増税はもうやめろ!」

【青山和弘氏】「実は保険を支えるために、年金だけじゃなくて医療とか介護も入ってるんですけども、それを全部足し合わせて社会保険料という言い方をしますが、実は税金というのは、皆さん『上がってる上がってる』と言うけど、実はあんまり上がってないんですよ。所得税にしても何にしても。ただ保険料という社会保険料は、なんと2000年からで1.5倍ぐらいにどんどん右肩上がりに上がってるんですね」

【青木源太キャスター】「給与明細を見ると、本当に思います」

【青山和弘氏】「ただねこれは、給与明細を見る青木さんなら気づいたかもしれないけど、あんまり見ない人は上がってることさえ気付かないんですね。税金は毎日、例えば消費税なら払えば気づくけれども、給与明細を見てもよく分からないし、しかも法律の改正が要らないので、この保険料を上げるのに国会での審議とか通らないんですよ。自動的にどんどん少しずつ上げることができるので、だからここに色んなしわ寄せがよって、どんどん上がって、国民負担率と言って我々の所得から、この保険と税金にかかる、要は国に納める額というのが増え続けたのはここまでのところです。なのに手取りが少ない!」

(Q.保険だけに使われてるってわけではない?)
【青山和弘氏】「お年寄りの医療費とか、自分たちとは関係ないところにもどんどん回っていると」

【青木源太キャスター】「年金、介護、医療その3つですね」

(Q.どこが決めてる?)
【青山和弘氏】「それは一応、国が決めてるんです。厚生労働省が案を出して決めてるんですけれども、自然とこうなってしまった。だから今、手取りが少ない、給料が少ないということになってるわけですね」

ステルス増税のような形で社会保険料がどんどん増えていく現状。

ステルス増税はもうやめろ!
ステルス増税はもうやめろ!

■石破首相 厚生年金が国民年金を”救済”「つじつま合うが筋悪い」

この年金問題について青山氏は最近、石破首相に直接話を聞いたという。

厚生年金から国民年金に補填するという案について、石破首相は「つじつま合うけど、筋は悪い」と発言があったとのことだ。

【青山和弘氏】「厚生年金の掛け金から国民年金に補填して、その3割減をなくすというのは、つじつまが合うと。つまり同じ年金の中でやるんだけど、ただやっぱ制度は別じゃないですか。やっぱり厚生年金は会社員の人が払ってるし、国民年金はまた別のグループが払っているので、『やっぱり筋は悪いよね』っていう。だから『カットしたんだ』ってことが言いたいんですけれども石破さんは。だったら最初からそんな案じゃなくて、別の案を考えるのは政府の責任だろうと思うんです。

あとですね今、国会でどうなってるかっていうと、国民民主党と立憲民主党とかは、就職氷河期世代を支援したいので、『やっぱり厚生年金から回す案に戻したらどうか』ということになってきてるんですね。だったら多分石破さんは、筋は悪いけど、みんながそう言うんだったら選挙と関係なくなりますから、野党も同じ意見だったら責任共有できるので、批判がなくなるので、この底上げ案を戻すかもしれないというのが、今の審議の状況」

石破首相は「つじつま合うけど、筋は悪い」と発言
石破首相は「つじつま合うけど、筋は悪い」と発言

■自民執行部「筋悪いけどやっちゃおうか」少数与党を逆手に?

【青木源太キャスター】「今、少数与党だからそれを飲む可能性もあるということですね」

【青山和弘氏】「誰かが賛成してくれないと、この法案はこの国会では通らない。通らなくて継続審議するというのも、最初に考えたんだけど、野党がこれで良いって言うんだったら、筋悪いけどやっちゃおうかっていう話も今、自民党執行部から出てきている」

(Q.それは20年後、30年後も通用する?)
【青山和弘氏】「今の3割減はなくなる。ただ先ほど言った生活保護との関係とか、本当に今の年金制度でいいかっていう抜本的な改革にはなってないということですね」

一方でやっぱり自民党の中にも、抜本的に『これはもう税金でまかなってしまって、やったらいいんじゃないか』という説もある。そしたら年金の未払いとか関係なくなる。ただそれをやると消費税がどこまで上がるのかという、別な負担の議論になるということですね。だから難しいという話なんですね

【青木源太キャスター】「各党の政策そして議論をしっかりと見極めていきたいと思います」

(関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」2025年5月19日放送)

厚生年金から国民年金に補填する案
厚生年金から国民年金に補填する案
関西テレビ
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