菊池市の山あいの集落に小水力発電所が完成し、先日、関係者にお披露目されました。

農業用水を活用して再生可能エネルギーをつくり、地域に還元する取り組みを取材しました。

【こども水力発電所 村川 友美 代表理事】
「発電をするけど燃料代は一切かからない。流れてきている水を使うので」

菊池市中心部の北東にある山あいの集落、戸豊水(とりゅうず)地区です。

この集落に今年1月、小水力発電所が完成しました。

【こども水力発電所 村川 友美 代表理事】
「余った水を利用して新しい再生可能エネルギーをつくる」

河川や用水路などの水の流れを利用してタービンと発電機を回し、電気をつくる小水力発電。身近な水資源から、安定した自然エネルギーをつくり出すことができます。

発電施設はコンパクトで、環境負荷も小さいのが特長です。

【こども水力発電所 村川 友美 代表理事】
「(戸豊水地区は)菊池川から江戸時代に開削された農業用水路が来ている最後の集落」

この農業用水路は〈古川兵戸井手〉と呼ばれ、戸豊水地区を含む5つの集落に水を届け、中山間地の田畑を潤してきました。

この井手の管理に長年携わってきた地元の高山 薫 さんに案内してもらいました。

【高山 薫 さん】
「水田だけじゃなく生活用水としても(大切だった)。水がないと何もできないので」
〈古川兵戸井手〉は今から190年前、水不足に苦しむ戸豊水地区とその周辺の飲み水を確保するために造られた水路です。

現在は菊池川の立門分水堰から取水していますが当時は、それだけでは足りず、隣接する大分県の河川からも水を引いていたといいます。

【高山 薫 さん】
「(史料には)『水の一滴は、血の一滴』と書いてある。それだけ大事だった水が…」

水の大切さを今に伝える〈古川兵戸井手〉。井手の最も下流にある戸豊水地区は水路の高低差が約50メートルあります。

【高山 薫 さん】
「30年前の古川兵戸井手の委員長が『この落差をどうにか利用できないか』と地域の人に言っていたが現実にはなかなか…、実現するのは難しかった」

今回、九州大学発のベンチャー企業『リバー・ヴィレッジ』がこの高低差を生かした小水力発電事業を提案。

地元の住民らの協力を得て総事業費約1億円かけ発電施設を建設しました。

『リバー・ヴィレッジ』の代表、村川 友美 さんは一般社団法人こども水力発電所を設立。

地元の住民だけでなく、水力発電事業に興味がある人も参加できる仕組みをつくり管理・運営を行っています。

【こども水力発電所 村川 友美 代表理事】
「ここに住んでいる人だけで維持していくのは限界がくる。何か一緒にやっていける仲間を増やしていくことは今後の持続可能性の〈肝〉になるのではないかと思っている」

農業用水路から流れてきた水は『ヘッドタンク』と呼ばれる設備で土砂や枝葉などを取り除き、地中の水圧管を通って発電所へ送られます。

そして約50メートルの落差によって生まれるエネルギーで建屋内の水車を回し電気を起こします。

フル稼働できるのは、農閑期の秋から春にかけてで、田植えが始まる5月中旬以降は農業用水としての使用が優先されるため発電量が減少します。

1年間の予想発電量は約27万6400キロワットアワーで、一般家庭50世帯分の年間使用量に相当します。

また、売電により1000万円近い収入が得られる見込みです。

【こども水力発電所 村川 友美 代表理事】
「売電による収益を使って新しい社会的な取り組みをつくっていくことを一緒に考えたり、実践したりそういうことをやっていけるような母体、場をつくっていくことがこの発電事業の一番の目的」

発電施設の周辺には『戸豊水こどもガーデン』を整備。住民の憩いの場としてだけでなく、地域の自然や歴史を学べる拠点として活用される予定です。

【高山 薫 さん】
「みんなが集って地域がにぎわうこと。それが一番」

【こども水力発電所 村川 友美 代表理事】
「先人の営みによってここに水が来るということを改めて知る。未来に向けて使いながらつなげていくということを今後やっていきたい」

田畑や人々の生活を潤してきた井手の水が今はクリーンなエネルギーも生み出しています。

テレビ熊本
テレビ熊本

熊本の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。