旧陸軍が開発を進め、激しい副作用があるにもかかわらず高松市などのハンセン病療養所の入所者に投与が続けられた薬、「虹波」。その「虹波」に関する貴重な資料の展示が、熊本県のハンセン病療養所で始まりました。
(竹下美保記者)
「園内に残されている虹波のアンプルも展示されています。検証で分かった人体実験の内容などを紹介する企画展が行われています」
熊本県のハンセン病療養所菊池恵楓園で始まった企画展。3年前、園内で見つかった入所者に対し人体実験が行われたことを裏付ける資料や、入所者が、ハンセン病の治療薬につながると薬への希望をつづった日記などが展示されています。
「虹波」は戦時中、寒冷地での兵士の身体機能の増進を目的に、旧陸軍が開発したとされています。菊池恵楓園で進められている検証によりますと、少なくとも園内で入所者472人に対し“人体実験”は行われ、虹波の投与は、膀胱や脊髄腔内などあらゆる方法で実施されました。激しい副作用があっても中止されることなく、9人が死亡したことが明らかになっています。
(菊池恵楓園歴史資料館 原田寿真学芸員)
「菊池恵楓園は国が管理する施設であること、多数の被験者が確保できること、外出、退所が厳しく制限されているという条件があり、秘密が漏れづらいところで大量の被験者が動員できること、療養所は(人体実験に)適していたのかもしれない」
また企画展では、歴史背景や虹波の開発の経緯についても触れています。
虹波の主な成分は写真フィルムの感光剤などに使われる感光色素。戦時中に感光色素の研究に携わった旧満州医科大学の男性助教授が、旧陸軍の要請を受けて、秘密裏に虹波の開発を行ったことなどが紹介されています。
(菊池恵楓園歴史資料館 原田寿真学芸員)
「ロシアからの脅威に備え、寒冷地作戦に使うための薬剤・兵器の開発も進んでいく。赤外感光色素を体に取り込むことができたら、体の周囲にある赤外線で皮膚温が温まるのではないかと着想した医師がいた」
戦後は、感光色素の研究が進み、血流促進、抗菌作用などの効果が期待できるため、現在は、化粧品や医薬品に利用されています。
(菊池恵楓園歴史資料館 原田寿真学芸員)
「感光色素自体は決して効かない薬ではない、臨床試験のやり方が間違っていたし、それを許した時代の風潮に視線を投げかけるべき」
(見学した人は…)
「人体実験という感じ、治療というよりも」
「閉鎖された空間で人権侵害、命の軽視・・・。検証することはすごく大事な作業だと思った」
終戦から2025年で80年。“人体実験”の歴史は正しい医療のあり方を私たちに問いかけています。