【経営コンサルタント】観光業の支援などを手掛ける「右腕カンパニー」(札幌)の代表取締役の大湊亮輔さんは学生向け人材育成プログラムを提供する「Ezofrogs」(同)の代表理事も務める。大湊さんに北海道の未来を切り開く人材育成について聞きました。BOSS TALK #94
――学生時代は?
札幌出身で、高校2年の時に、先生から『日本のすべての問題は日本語で書いてある。日本語が分からないと、すべての問題を解けるわけがない。なのに、なぜ君たちは国語を真剣にやらないのか』と言われ、確かにそうだなと思いました。そこから国語に真剣に向き合って、おもしろさに気づいて進学先を理系から文系に変え、国語教員を目指し大学に進学しました。大学4年で教育実習に行ったとき、その学校がたまたま学力至上主義で、生徒の方を向いてない雰囲気があり、『やりたいことってこれだったのかな』と(疑問に思い)教員になるのはやめました。
旅館、ホテルの深刻な人手不足 「解消する仕事をしたい」と独立
――それで教師ではない道に。独立はどういったタイミングでしたか。
当時、テニススクールでインストラクターのアルバイトをしてグッズも売っていました。好きなものの営業は楽しく、(仕事は)営業が良いなと。観光情報誌「リクルート北海道じゃらん」をつくる会社に入社しました。広告の営業をして、11年ぐらい勤めました。インバウンドの隆盛とともに観光業界は右肩上がりと言われますが、現場は人手不足、人材不足です。広告だけでは、この業界を良くできないと思い、(これらの課題を)解消できる仕事をしたくて2016年12月に独立しました。
――それが右腕カンパニー? おもしろい名前ですよね。
私自身が右腕という存在でありたいのと、企業の中に右腕みたいな人材を育てていきたいという二つの意味を込めました。
契約先企業を伴走型で支援 デジタルを活用し、生産性をアップ
――どういった仕事を?
旅館、ホテルさんとコンサルティング契約しました。例えば(勤務の)シフトは勘と経験でなんとなくやっていた。集客の予測と暦の予測と過去のトレンドを合わせると、理論的にはこういうシフトを組んで、こういう休みにした方が効率的に少ない人数でも回せる。あとはデジタルをどんどん組み合わせ、システムを作っていく。私も中に入り、伴走型の支援をすることで、給料があまり高くないサービス業界の中、ある企業さんは1年、2年の取り組みで、一般企業並みに初任給を上げました。
――広いジャンルに事業を広げるのはどういった経緯ですか。
経営や人材育成を学び直したいと思って、会社を辞めたのと同時に、小樽商科大学のビジネススクールに通い始めました。小樽商科大学が当時、観光人材育成事業をやっており、修了後に参画させてもらったのが、二つ目の仕事の動きです。沖縄で開催される学生向けの人材育成プログラム「琉球フロッグス」の最終発表会を2019年12月に見に行きました。参加する学生が解決したい社会課題について、テクノロジーを使ってビジネスで解決することを英語でプレゼンテーションする場でした。ぜひ北海道でもと思って、2021年からEzofrogs(エゾフロッグス)を北海道で始めました。
――琉球フロッグスで湧き出るものがあった?
学生がやりたいプログラムを本気で発表していると受け止め、彼ら彼女ら以上に、自分が本気で何かを変えようと行動できていたかな、自分がもう1回やらなきゃって思いました。会場に延べ3000人ぐらいの観客がおり、僕と同じように学生の応援、支援だけではなく、同じプレイヤーとしてもう1回頑張らなきゃいけないという気持ちの人が多いのではないか(と想像しました)。
「自分が動くのが何より重要」 気づいた学生は大きく成長する
――エゾフロッグスに参加された学生さんを見て、成長や変化を感じますか。
最初から起業したい子もいますが、自分のやりたいことを見つけたい子もいる。最初、目立たなかった子がこのプログラムの中で自分が動くと周りが変わる。だれかの責任にするのではなくて、自分が動くのが何よりも重要だって気づいた子は発言と言動がみるみる変わってくる。場を引っ張るリーダーになっていく子たちを見ると、自分たちのやっている意義、意味をあらためて実感します。
――そういった子が社会に出て実際に活躍されている例はありますか。
1人は当時、大学2年で英文科に通っていて、日本人がもっと英語を話せる社会にしたいと(いう目標がありました)。話せないのは恥ずかしい感情からではないか―というのが彼の説で、恥ずかしい感情を司る脳を研究したいと、一念発起し北大に編入しました。編入はすごく狭き門。今は北大の大学院生です。(もう一人は)当時、小樽の大学の1年だった女の子で、出身は稚内で(実家は)昆布漁師でした。電車から砂浜に打ち上げられる昆布を見て、もったいなくて解消できるビジネスをしたいと考え、大学の研究者とつながりました。牛から出るメタンガスは温室効果ガスとして注目されており、昆布を使って、牛から出るメタンガスを抑制する飼料添加物を作って、温暖化抑制と、昆布漁師の稼ぎを増やす事業をやりたいと昨年、大学生起業家になりました。
心掛けているのは「だれよりも挑戦し、高いハードルを乗り越える」姿勢
――ボスとして大切にしていることを聞かせてください。
人材育成で、こうあるべきだって話をする中で、言葉に説得力を持たせたいと思います。自分自身がだれよりも挑戦している、高いハードルを乗り越えようとしている―。そういう姿勢でありたいと思い、安定を模索するよりは、あえて不安定という言い方は変かもしれないですが、今までできてないことをやれるようにしたいって、常に気をつけています。
――北海道で事業をされている意味、意義をどうお感じになっていますか。
スタートアップ社、起業する数はやはり東京が圧倒的に多いです。アカデミアの最高峰も東京にあります。良い研究をしたい、良い事業をしたい、良い人に恵まれたいとなると、大体、関東に行ってしまう。全く同じものを北海道につくられるとは思わないけれど、北海道でも札幌でも高いレベルの研究ができ、それを支えるコミュニティがあると言える方が北海道はより魅力的になっていく。北海道から、そういった(優秀な)子が生まれていくと思う。(その実現に向け)同志というか、コミュニティづくりを積極的にしていくのが今、一番の願いです。
――その先の未来はどういうふうに描いていらっしゃいますか。
北海道らしい人たちがどんどん世界で羽ばたき、どんどん問題を解決する。社会課題先進地域と言われる北海道だからこそ、課題に向き合いながら幸せそうに生きている。そんな社会をつくられたらいいなと思っています。