1日、大阪市西成区で下校中の小学生7人がはねられた事件。
逮捕された男は調べに対し、「全てが嫌になったから、車で突っ込み、数人の小学生を引き殺そうとした」と供述しています。
2日、「関西テレビ旬感LIVEとれたてっ!」に出演したジャーナリストの岸田雪子さんと社会学者の古市憲寿さんは、今回の事件をふまえて、無差別事件を防ぐために、社会とのつながりや豊かな社会形成の必要性を指摘しました。
■「車を凶器として使われてしまうと、本当に防ぎようがないなという思い」
【ジャーナリスト 岸田雪子さん】「無差別だとすれば拡大自殺のような自分よりも弱い子供を狙ったと思うと許せない思いです。一報聞いたときに思い出したのは、2001年の池田小の事件で、あの時は校内に刃物を持った男が入ってきて、子供たちを切りつけたという凄惨な事件でしたけれど、あの後、校内の安全対策はしなくちゃいけないということで、警備員さんとか、あるいはさすまたを置きましょうとか、全国の小学校は校内安全に努めたという変化はあったんですが、通学路で事件に備えるって、犯人から守るっていう手だてで考えると、まだまだ無防備な部分っていうのはあるんだろうなって。現場を見ていても、例えば通学路にガードレールがなく、車が凶器となった時に守れるんだろうかとか、いろんな点検が必要だなと思いました。
いま、いろんな親御さんが例えばGPSを持たせましょうとか、警報ブザーを練習してとか、付き添いの方が見守ってとか、安全対策を進めていますけど、車を凶器として使われてしまうと、本当に防ぎようがないなという思いになってしまいますよ」
【古市憲寿さん】「本来なら容疑者も治療の対象の可能性もあるわけですよ。今回も自己嫌悪みたいなものが他人への攻撃に転嫁してしまう。彼自身ももっとはやい段階で治療なり、孤立に対してケアを受けられていたら、こういう心情にならなかったかもしれない。容疑者になる可能性がある人を、いかに社会が包み込めるかということも、多分考えなきゃいけないと思うんですよね」
■「通常の走行ではなく、明らかにおかしい走り方をしていた」
事件から1日経った現場から中継で諸岡ディレクターが伝えます。
【諸岡陽太ディレクター】「大阪市西成区の事件現場からお伝えします。画面奥100mほどの場所で、児童たちに車が突っ込むということが起きてしまいました。この車、どんな風に動いて事件を起こしたのかということを実際に歩きながら説明します。
まず、防犯カメラの映像が残されていました。白いSUV型の大きな車が通り過ぎる様子が映っていました。おそらく、事件を起こした当該の車と見られるわけですが、この映像では猛スピードを出している様子だったりとか、あるいは蛇行している様子だったりとかは見受けられません。その後、交差点を西から南の方角に右折して、この道路で事件を起こしました。一方通行で道幅は狭いです。3mほどでガードレールは設置されていません。
こちらが千本小学校で、事件が起きた時間帯はちょうど下校の時間帯で、見守り支援員の男性が校門の前に立っていて、事件の一部始終を見ていたということです。警察などを通して入ってきてる情報で言いますと、車はおそらくこのあたりを1回大きく左に向けてハンドルを切っているとみられます。この道に入ってからは、通常の走行ではなく、明らかにおかしい走り方をしていて、フェンス際を歩いていた子供たちに向かって、右にハンドルを切って突っ込んでいったと。ぶつかった後も車は動き続けていたというような話も出ています」
■「ママ、ママ」と泣き車の横で座り込む男児
【諸岡陽太ディレクター】「車は停止線あたりでフェンスの際のあたりでストップしていたと。またある子どもの話によると、車と壁の間に挟まれていた、現場には泣き声が響き渡っていたそうで、車の横あたりに座り込んでいる男の子たちがいたそうです。『ママ、ママ』と泣いていたと。
そして、大怪我をした女の子が1人いました。頭のあたりからかなり血を流していて、泣くこともできないようなそんな状況だったと。血を止めるためにタオルを渡してあげた男性はそうおっしゃってました」
当時、容疑者は、どんな様子だったんでしょうか。
【諸岡陽太ディレクター】「騒ぎを聞きつけて、かけつけた男性がきた時には、まだ子供の足が車輪の下敷きになったような状態だったそうなんです。助けるために助手席を開けて、バックしろと言ったそうです。その時にはすぐにバックしたということなんです。つまりどういうことかというと、話が通じていたということなんですね。
ただ、その後車から降りてくるような様子はなく、支援員の男性はもともと警察OBだったそうなんですが、助手席を開けて男を引きずり出して、そして取り押さえるというようなことになったそうです。
その後容疑者は、表情をまったく変えず、全く何も返事をすることがなく、ある方はすごく不気味な様子だったというふうにもおっしゃってました」
時間的には今日2日も下校時間は過ぎているのでしょうか?例えば、下校する児童はどういう様子でしたか?
【諸岡陽太ディレクター】「今日は13時すぎぐらいから、まさに事件と同じ時間帯に、見守りの警察官が辻々に立ってました。そして保護者の方たちも、皆さん迎えに来ていて、集団で帰っているような様子が見られました」
■大阪市長「すべてにガードレール設置は難しい」
中継中も何回か車が通りすぎましたが、自転車や歩行者を避けようとすると、普通に走行していても、タイヤが緑色のラインを超えるというようなシーンが多くあるような道路です。
【諸岡陽太ディレクター】「ガードレールをもちろん設置できたらいいんですけれども、今朝、横山大阪市長が通学路について話したのですが、『市の中に相当数の小学校があるので、すべてにガードレールを設置するのは難しい。そもそも生活道路だから対策はなかなか難しいところがある』というようなことも話していました」
【岸田雪子さん】「これだけのことが起きているのが実態としてあるので何らかの対策はやっぱり必要なんだろうなと。今までも登下校の時の安全対策として、ガードレールの設置ってことは言われてきたけれど、例えば飲酒運転の事故などがあって、事故を防ぐっていう意味でガードレールをつけなきゃいけないと、話として出てくるんですけれど、事件対策として、命を守るって、事件を防ぐという意味での対策ってなると、国交省だけじゃなくて、こども家庭庁とかがしっかりと予算をつけるとかは、検討の余地があるのかなと」
■古市氏「社会が無差別事件に対して動揺しすぎると、容疑者側の思惑通りになってしまう」
【古市憲寿さん】「子どもへのケアがすごい大事だと思うんですね。事件が身近で起こった、その子どもたちのケアは大事な一方で、一方で大人にはやっぱり冷静にならなきゃいけない部分もあると思うんです。無差別な事件は残念ながら一定の確率でおこるわけじゃないですか。それはある種、完全に防ぐのは難しいわけですよね。
だから、こういうテロのために本当に全国にガードレールを準備する必要があるかっていうと、もっといいやり方があるかもしれない。だから社会が無差別事件に対して動揺しすぎると、容疑者側の思惑通りになってしまう。合理的に考えて、この場所にはガードレールが必要っていう議論が起こることはいいんですけど、必要ない場所にも全部つけましょうとなるのは、わけて考えた方がいい」
■容疑者は4月までは放射線技師の仕事か
【諸岡陽太ディレクター】「一番気になるのが、矢沢容疑者の東京からの足取りですね。事件の2日前に、新大阪のレンタカー店で車を借りていたことが分かりました。新幹線を使って大阪に来たかどうかはまだ断定はできないんですけれど、少なくともその可能性はあるのかなという感じはします。また、容疑者本人については、捜査関係者によると、現在は無職だけれども、ただ本人いわく4月までは放射線技師の仕事をしていたということも分かってきています」
なぜ大阪に来たかという部分についてはまだわかっていないのでしょうか。
【諸岡陽太ディレクター】「そうですね。父親への取材でも、父親もまったく見当がつかないといった、そういった趣旨の話もしているみたいですし、今後ここが捜査の中でも重要なポイントになってくるかと思います」
■今後の焦点は「責任能力」
今後の捜査のポイントはどこなのでしょうか。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「今回は殺人未遂で逮捕されているんですけど、事件を目撃した支援員が、車がブレーキを踏まずに、壁側にいる小学生の方に寄っていったということで、殺意を認知した上で殺人未遂で逮捕していると。
今後の焦点として、やはり責任能力ということで、アルコール検査はしたんですけど、それは出なかったんですね。今後薬物の鑑定もしますし。あとは父親の話で、メンタルが弱い子とありましたけれども、そういう意味においては、もしかしたら精神疾患があるかもしれないので、今後精神鑑定をしたうえで、公判が維持できるかどうかを見た上で、起訴に踏み込むかどうかが、捜査の行方になるのかなと思います」
■容疑者の父「悩んで自暴自棄になっているんだったら、誰にも迷惑をかけない方法があったのではないかと言いたい」
容疑者の父親は取材にこたえています。
【容疑者の父親】「息子は東京の東村山で一人暮らしをしている。なぜ大阪なのかわからない。携帯に電話しても繋がらなかった。最近、何かを取りに実家に帰ってきた。性格はメンタルが弱い子と、私は認識しています。学生の時に心療内科に行ったこともある。なんで他人にというのが一番の思い。悩んで自暴自棄になっているんだったら、誰にも迷惑をかけない方法があったのではないかと言いたい」
【岸田雪子さん】「これをもって何かというのは言いにくいと思いますが、心療内科には多くの方が通われていますし、行くことで救われる方は多くいますで、直接結びつけるものではないのかなと思います。ただ私も無差別殺傷だった場合にですが、子どもがターゲットになるような場合というのは、自分の育ちに関して果たせなかった思いのようなものがあるものが、子どもへ殺意が向かってしまう場合があるということは、他にも事例があるので、これまでの人生の過程を、時間がかかると思いますが見ていくことが必要なんだろうなと思います」
社会に対する恨みや、自暴自棄になった時に、その対象が無差別であるけれども子供であるというのは今回の特徴の一つです。
【岸田雪子さん】「自分よりも弱い、反撃をする可能性は低いだろうという見込みで向かうということもありますし、安全対策も必要です。社会に対して不満がある場合にも、こういった形での発露がないような、救いの場が、あらゆる人にとっては足りてない部分があるのは確かで。
無差別事件の加害側の人物を検証して、なにか共通点はないだろうかっていうことを専門家で調べた会議が法務省の関連であるんですけど、そこで一つ言われたことは足りていないものとして、『居場所』と居場所だけじゃなくて『出番』だと言われていて、地域でもどんな場所でも良いので、自分の役割っていうものが持てなくなったときに、人は本当に自暴自棄になったり、絶望してしまうことがある。つながりとその中の役割っていうものの大切さは、広い意味で長期的な意味であるのかなと思います」
■「いかに社会が他人に対して優しくあるかってことを考えなきゃいけないのかなって」
【古市憲寿さん】「なぜ大阪にって話はまだ分かんないですが、一般論でも西成の方が知っている人もいないから犯行を止められにくいとか、もしかしたら犯罪を犯しやすい気分になってしまったのかもしれない。レンタカーで乗っている時間が長く、だんだん覚悟を決めてしまったわけです。だからその過程の中で誰かの出会いだったりとか、何かちょっとあったらこの事件防げたなと思ったんですね。
『なんでもかんでも社会のせいにするな』という意見もありますけど、社会がある程度豊かで、ある程度みんなに場所があって、そういう社会だったら止められる事件たくさんあると思うんですよ。だからもちろんこの容疑者は責められるべきだし、ちゃんと罪を償うべきなんですけど、同じように事件を起こさないために、いかに社会が他人に対して優しくあるかってことを考えなきゃいけないのかなって」
事件の目撃者の証言をみていきます。
【児童】「俺はギリギリ当たらなかったけれど、女の子の頭から血が出ていた。先生が容疑者に対して怒っていた」
【発生直後を目撃した大人】「男の子たちは泣きじゃくっている感じだった。容疑者は不愛想で感情がない感じで、喋ってもうなずくだけだった」
被害にあった児童、そして目撃した児童の心のケアというのも大事です。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「すでに学校側から保護者に向けて、相談窓口の案内であるとか、あとは、スクールカウンセラー、学校に居る相談員の人から、子供さんの様子をちゃんと見てくださいねっていうメッセージが届いているということですね」
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2025年5月2日放送)