TSKさんいん中央テレビと山陰中央新報の共同企画「カケル×サンイン」。テレビと新聞、それぞれの視点でニュースを深掘りします。
今回取材にあたったのは、TSKさんいん中央テレビの田中祐一朗記者と山陰中央新報社の三浦純一記者です。
テーマは、部活動の「地域移行」。教員の負担軽減を図り、少子化が進む中でも、子どもたちがスポーツに親しむ機会を確保するのが目的です。島根県内ではどこまで進んでいるのか、現状と課題を取材しました。
益田市の横田中学校。体育館に集まったのは、地域のバスケットボールクラブのメンバーです。午後7時過ぎ、練習が始まりました。
メンバーは12人、ここ横田中学校の生徒のほか、隣りの津和野町からやってくる生徒もいます。横田中学校の女子バスケットボール部は、3年前から土日の活動を地域クラブに移行。その後、生徒数が減少して2024年度限りで廃部になり、5月から活動の場がこのクラブチームに移りました。
キャプテン・栗山誉音さん:
部活に比べて練習する頻度は少なくなるんですけど、その分、他校の子たちとも、あの仲を深めて一緒に戦えるのでいいと思う。
4月までの「部活動」では、テスト期間を除いて平日も土日もほぼ毎日活動していましたが、地域クラブになってからは、平日2日と土日のどちらか1日の週3日に。
平日の練習も午後7時から2時間行われ、メンバーは一旦下校したあと、自宅から練習場に向かいます。
青木陽さん:
宿題とかがあるけど、このバスケの楽しさで解放されます。
コーチを務めるのは、村上貴志さん。会社員として働きながら、ミニバスチームを指導。横田中でも、13年前から女子バスケ部の外部指導員を務めていました。
益田クラブガールズ講師・村上貴志さん:
バスケットが出来てもなかなか環境がないとか、そういう子たちのための場所を提供するという目的でこのクラブを立ち上げて、今に至っています。
村上さんは、日本バスケットボール協会のC級指導員資格を取得。学校の卒業生で、部活動でも外部指導員として生徒たちに関わったことから、地域クラブの指導役も託されました。
教員の「働き方改革」の一つとして、国は中学校の部活動を地域のスポーツクラブなどに移行する方針を決め、全国の各自治体が地域の事情に沿った形で段階的に移行を進めています。
横田中学校・村上剛校長:
土日も全てクラブにお任せするわけなので、確実に休日が取れる、取りやすいというところは、働き方改革的には申し分ないと思います。
さらに実際に進めてみると、生徒にとってもメリットがありました。横田中学校の女子バスケ部では、2024年度で3年生が引退したあと、部員はわずか2人に。このままでは大会に出場することは出来ませんが、クラブになったことで、隣町の津和野中学校から3人の1年生が参加、5人そろったことで大会出場の道が開けました。
キャプテン・栗山誉音さん:
部活の頃と比べて人数も多くなり、ゲーム試合をする場面がとても多くなった。本当の試合と同じ形で練習出来るのでとてもいい。
ただ、良いことばかりではありません。「クラブ」としての活動には、”課題”も残ります。このクラブでは、中学校の体育館を借りることが出来ますが、地域クラブの中には、地域から離れた施設への移動が負担となっているケースもあります。また部活動ではなくなったことで、体育館など施設の維持管理の負担が発生するケースも。このクラブでも、コートの白線を自分たちで引き直しています。
益田クラブガールズ講師・村上貴志さん:
今はこの横田中学校は借りられる入環境にあるので、ほかに何かしたい時には、その場所の確保だったりとか。そういうところに対して何か援助があれば、今後の地域移行に関してもやりやすくなるような感じはしてます。
実際に地域への移行は、どのくらい進んでいるのでしょうか?
山陰中央新報・三浦純一記者:
山陰中央新報社が2025年2月から3月にかけて行った島根県内19市町村の教育委員会への調査では、15の市町村がエリア内のスポーツクラブなどの数が「少ない」または「とても少ない」と回答しています。
また指導者についても、競技経験があってもほかに本業があるなどの理由で確保できず、地域移行の受け皿づくりはなかなか進んでいないのが実情と言えます。
では今後、どのようにすれば地域移行が進んでいくのでしょうか?
田中祐一朗記者:
日本部活動学会の会長を務める関西大学の神谷拓教授は、『学校の部活動』か『地域のクラブ』かという二者択一ではなく、子どもの権利という視点から、活動の場をどう保証するかが重要で、学校では難しいとなれば、行政が資金や人材面での支援をした上で、地域への移行を図るべきだと指摘しました。
山陰中央新報・三浦純一記者:
受け皿として、クラブを増やすためには、指導者を確保しなければなりません。その対策として有効なのが、指導者を求めるクラブに競技経験者を紹介するマッチングシステムです。
例えば三重県では、2025年2月に「人材バンク」を開設し、現在は約170人が登録、すでに2人が、生徒の指導や引率などが出来る部活動の顧問を務めることが出来る「部活動指導員」になりました。地域移行を加速させるには、適切な予算を充てること、そして、指導者に適した人材を掘り起こすシステムづくりが求められます。
体育系、文化系を問わず、部活動は子どもたちにとって、勉強とはまた違った成長の機会になっています。そうした場を守るためには、学校任せにせず、地域の問題として考える必要があります。