企業ごとの特色ある入社式が増えてきた。人手不足の採用難のなか定着率向上への工夫が注目されている。専門家は「入社と退職の理由のギャップを埋めるには組織づくりの見直しが不可欠」と指摘する。

バブル期以来の「おもてなし」入社式復活

就活の日々を越えて辿り着いた入社式。人気の就職先ランキングで常連の伊藤忠商事では「ゆず」がサプライズ登場し名曲「栄光の架橋」を熱唱した。

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西武グループでは、西武ドーム(ベルーナドーム)を使って、新入社員と社長による始球式が行われた。

事務職と技術職を統一し、初任給も一律で1万2000円引き上げた全日空。羽田空港の格納庫には、ANAグループの新入社員3104人が一堂に会した。

各社が趣向を凝らした入社式を行う中、こんな変わった入社式も行われた。

自動車の機器などを開発・製造する「ボッシュ」。横浜市都筑区で行われた入社式をプロデュースするのは新入社員たちだ。

自動車関係の会社らしくミニ四駆がテーマで、新入社員が12チームに別れ、ミニ四駆のデコレーションとレースで競う。

「あっち向いてホイ!!いえーい!これどうぞ(カードを渡す) 」

あっち向いてホイ!の相手はなんと、クリスチャン・メッカ―社長だ。社内にいる役員や社長を探し、ミニゲームに勝つと、デコレーショーンで使えるアイテムと交換できるカードがもらえる。

チームで競うミニ四駆のレース
チームで競うミニ四駆のレース

レースでは、コース3周のタイムを競う。チームで意見を出し合い試行錯誤し、いざスタート!

企画を担当した新入社員は、次のように話す。

新入社員:
自分達のやりたいことやらせてくれるという点において、すごくボッシュらしいというか。自由度があって面白いなと思った。

新入社員:
この経験を生かして、自分たちの間でどのような情報共有ができるかや、どのようにしてたら、全員が同じ軸に沿った話し合いができるかというのは、実際にビジネスの場でも、今後生かしていけるかなと思いました。

ボッシュが、この新たな入社式の形を導入したのは7年前。 主役である新入社員の記憶に残るものにしたいと考えたのが、きっかけだという。

ボッシュ 人事部門 採用担当・市山千奈美さん:
「楽しかった」や「一生の思い出になった」という声をよく聞く。自分で考えて行動するとか、オーナーシップを持つということと、いろんな意見・人がいる中で働くことって素晴らしいなと気がついてほしい。自分の意見を言える、自分らしくいられるということなので、それをどんどん体現してほしい。普段の仕事に生かしてほしい。

憧れて入った会社も日常の違和感で離職

「Live News α」では、日本金融経済研究所代表理事で大阪公立大学客員准教授の馬渕磨理子さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
いま、ユニークな入社式を行う企業も多いようですね?

大阪公立大学客員准教授・馬渕磨理子さん:
近年の特徴は「おもてなし」ですよね。人手不足による採用難が続く中、せっかく採用した人材に長く働いて欲しい。それには入社式、最初の印象が肝心ということでしょうか。

企業取材を通じて経営者と話すことが多いですが、離職率に関する悩みは多いです。「大きなもの」に憧れて入社を決めて、「小さなこと」に幻滅して会社を辞める傾向が強いようです。

堤キャスター:
それは、どういうことでしょうか?

大阪公立大学客員准教授・馬渕磨理子さん:
就職では、会社の知名度や規模、あるいは給与など、これが「大きい」企業を選んで入社を決める方が多いようです。

それが会社を辞める時には、職場のデスクまわりの「小さな」人間関係や目の前の課題、不満、理不尽さで辞めていくことがほとんどです。

良い人材に、長く働いてもらうには、やはり、組織づくりに工夫が必要になります。

「TO DO思考」より「ゴール思考」で組織づくり

堤キャスター:
その組織づくり、具体的には?

大阪公立大学客員准教授・馬渕磨理子さん:
私が社外取締役を務めている会社での議論ですが、従業員の意識の萎縮が、事業の進捗状況の遅れにつながっていることが分かりました。

目の前のやるべき仕事を管理する「TO DO思考」では。小さな失敗も減点となり人間関係にも影響が及び、心が委縮してしまいます。

そこで、設定した目標に対して、何をいつまでにやるのか逆算して仕事を決めていく、未来に向けた「ゴール思考」に業務のプロセスを変えました。

すると、各チームに、仲良く、時には厳しく頑張る思考回路が浸透していきました。

堤キャスター:
社会人デビューを果たした方に、馬渕さんからエールを頂けますか?

大阪公立大学客員准教授・馬渕磨理子さん:
社会に出ると、自由はなく、窮屈に感じるかもしれませんが、実は、これまでのどんな場所よりも、ビジネスは、もっと広くさまざまなものにつながっています。 

広い世界にいる大人こそ自由である必要があります。ビジネスの現場で、ただひとつの正解はありません。バカな考えは、自由な発想であり、ダメな奴は、これまでにない人材かもしれません。失敗を怖がるよりもチャレンジを続けていって欲しいなと思います。

堤キャスター:
会社の当たり前を知らない新入社員の発想が、何かにつながるかもしれません。上司が否定ではなく、おおらかに受け止めると、新人は経験を積んでいっても、自由な発想を持ち続けることができるように思います。
(「Live News α」4月1日放送分より)