農林水産省主催の「値段のないスーパーマーケット」が東京・千代田区で開店した。消費者が生産コストを考慮し、自ら価格を設定する仕組みで適正価格への理解を促す。専門家は、低価格志向の影響で農家の経営が厳しく、自給率低下や後継者不足が深刻化しており、適正価格での取引が生産者の経営改善や安定供給に不可欠と指摘する。

「値段のないスーパー」で考える適正価格と消費者意識

お店で手に取った商品の適正な価格を考える、「値段のないスーパーマーケット」。

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スーパーのように野菜や牛乳などが並んでいるが、よく見ると値段が書いていない。20日から23日まで東京・千代田区のKITTE丸の内で開催されるのは、農林水産省が主催する「値段のないスーパーマーケット」。

砂川萌々菜 記者:
こちらの牛乳このように値段が書いていないのですが、“生産コストを考慮して自分で値付け”をするんです。

消費者に大きな影響をもたらしている物価高だが、エネルギー価格や流通コスト高騰など、生産者や食品事業者も悩みは同じ。

ということで、利用者は生産者が抱えている問題や、食品が手元に届くまでのコストなどを学び、“適正だと思う価格”で食品を購入する。

皆さんは牛乳とタマネギ2つの現在の小売価格、いくらだと思うだろうか。利用者はこのように話した。

利用者:
牛乳は300円かな。

利用者:
(豆腐は)168円くらいじゃない?
利用者:
いや〜安いだろ。

利用者が設定した値段は、適正価格と比較され、「高め」「低め」「ぴったり」の3段階で結果がレジに表示される。

さらにレシートには平均的な小売価格や実際の販売価格が記載され、いくらくらい差があるか、知ることができる。

利用者:
(結果は)「あなたの考えるみんなにとってフェアな値段は低めです」牛乳とか結構高めに入れたつもりだったんですけど、低めなんだという感じですね。こんなに差があるんですね。

利用者:
ぴったり!すごい。牛乳だけぴったりだったね。今はもう少し安い価格で買っているが、農家にはもう少しいってもいいかなと思っていた。そういう価格で今値付けをしたので、それが“高め”と出たので少し安心した。

農水省は安定的に食品を供給するためにも、消費者に生産コストなどについて理解してもらうことが重要だという。

農水省 大臣官房新事業 食品産業部・木村崇之 企画グループ長:
“売る人・買う人・育てる人にもフェアでいい値を考えよう”ということで、みんなが納得できる価格を考えていこうということで、お願いしたい。

ちなみに、先ほどの牛乳の現在の小売価格は239円、タマネギ2個は155円。
※総務省 小売物価統計調査 東京都区部小売価格の平均値(2022年〜24年)より

“全ての人にフェアな価格”にすることが、日本を元気にするきっかけの1つになるのかもしれません。

生産者の経営改善・適正価格が自給率向上の課題

「Live News α」では、消費経済アナリストの渡辺広明さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
今回の試み、どうご覧になりますか。

消費経済アナリスト・渡辺広明さん:
平成デフレによって「安さが正義」という考えが広がった結果、生産者と小売業者の利益が薄くなったんですね。

なかでも農家は儲かりづらい構造が定着して、後継者不足が加速してしまったんです。農業に主に従事する生産者の数は、平成から令和にかけてほぼ半減してしまったんですね。

今回の「値段のないスーパーマーケット」は、誰かを犠牲にして価格を低く抑えるということを考えるきっかけになったのではないかと思います。

堤キャスター:
食料自給率の向上という点も考えないといけないですよね。

消費経済アナリスト・渡辺広明さん:
そうですね。今、カロリーベースの食糧自給率は4割を切るという形になっているんです。これを引き上げるためには、何より生産者の経営を好転させる必要があるんですね。

例えば、牛乳などの生産を担う酪農家は、生産コストは上がっても価格転嫁が進まないため、その6割が赤字経営を強いられています。

農家・卸売・小売に加えて、その間を繋ぐ物流業者が適正な利益を得ることが、食料品の安定供給に繋がっていくと思います。

「消費者自身も考えないといけない時代になった」

堤キャスター:
私たち消費者も、変わっていく必要がありますよね。

消費経済アナリスト・渡辺広明さん:
はい。円安による輸入価格の上昇や加えて国内の物流費や人件費も高騰していて、価格を押し上げる圧力が強まっています。

賃上げが前提となるんですが、安さには限界があることを知り、ある程度の価格帯まで消費者が許容するようにならないといけないと思います。

これを放置したままだと、逆に数年後には、様々なものが予想を遥かに超える今まで以上の価格アップに繋がってしまう危険性も秘めていると思います。

堤キャスター:
今以上の価格の上昇とは、どういうことでしょうか。

消費経済アナリスト・渡辺広明さん:
一つには、農業は気候変動の影響を極めて受けやすいことがあります。令和のコメ騒動を思い出して欲しいのですが、2023年の記録的猛暑による天候不順などによって、店頭から米が無くなってしまいました。

「安さは正義」から適正価格へとチェンジを行って、中長期的に安定した価格で食糧を手に入れる環境を、消費者自身も考えないといけない時代になったのではないかと思います。

堤キャスター:
生産コストによって適正価格は変わるものです。生産者を守り、安定した食料供給に繋げていくには、物の値段がどうやって決まっていくのか。それを知ることも大切なように思います。
(「Live News α」2月20日放送分より)