大阪地検特捜部が、大手不動産会社の社長を21億円の横領事件で逮捕・起訴し、その後の裁判で無罪になった事件。

関西テレビは、特捜部の「取り調べ映像」を独自に入手。その中では、検事が大きな声で暴言を浴びせる様子が見られた。
■【動画で見る】独自入手『取り調べ映像』大声で怒鳴り続ける検事に傍聴者も“恐怖” 冤罪の裏側に検察トップ『最高検』指示
この事件の取材を続けている関西テレビ・赤穂雄大記者に話を聞いた。
■特捜部の取り調べ映像見て「ビクッと反応、衝撃を受けた」

この映像を入手して、最初に見た時は、どう思ったのだろうか?
赤穂雄大記者:弁護団からずっと、このような取り調べが行われていると聞いていて、文字で資料として見ていました。弁護団からは『見てみないと分からないこれは』とずっと言われてました。今回、取材の過程で入手して見ましたが、想像していたよりも、もっともっとひどくて。まさかあそこまで大声で長時間やってると思わなかったです。
赤穂雄大記者:実際、きょうの法廷でも流れましたが、バーンと手を大きく振り上げて机をたたく場面では、法廷で傍聴されてる方もビクッと反応してしまうぐらい。それぐらい僕も同じような衝撃を受けました。
■特捜部とは“最強の捜査機関” 強引な取り調べがある?とうわさも…

今回、取り調べを行った特捜部とは、一体どんな組織なのか。「最強の捜査機関」とも言われるが、詳しくみていく。
赤穂雄大記者:特捜部というのは、大阪・名古屋・東京という大きな都市3つだけにあります。
赤穂雄大記者:有名な事件で言うと、田中角栄元総理を逮捕したロッキード事件であるとか、記憶に新しいのですと、安倍派の裏金問題であるとか、政治家のお金が絡んだ事件、汚職事件を担当したり、今回の事件のようにプレサンスコーポレーションは東証一部上場企業だったんですけれども、そういう大きな企業の財政事件を主に扱うような場所です。
赤穂雄大記者:通常は、警察が捜査したものを、検察が起訴するというプロセスを踏みますが、特捜部は独自で捜査をして、独自で起訴します。全て自分たちの中でやってしまう機関です。以前から、“最強の捜査機関”という言葉の反対側に、強引な取り調べがあるのではないかと、ずっと言われていました。それが今回初めて、国民の目に触れることになった形になっています。

特捜部というのは大変“力のある組織”だという。
関西テレビ 神崎博報道デスク:普通の事件ですと、警察が捜査をして、その捜査段階で検察と相談しながら、例えば検察がチェックをして『証拠充分か』とか、『捜査が足りてないんじゃないか』と、ちゃんと取り調べした上で、起訴して有罪が勝ち取れるかどうかを、警察の捜査を検察がチェックする仕組みがあります。
関西テレビ 神崎博報道デスク:特捜部ですと特捜部が自ら逮捕して、取り調べをして、起訴までするので、要は自己完結してしまいます。どこにもチェックされるところがないと。今回のように、取り調べで暴走してしまっても、止めようがないというのは、1つ組織の問題だと思います。
■“強引な手法”録画・録音初めての公開「検察組織自身もかなり驚いているのでは?」

今回の取り調べ映像公開について、大きく2点。
1つ目は、特捜部が行う全ての事件の取り調べは、録画・録音される中、なぜ強引な手法をとったのか?
赤穂雄大記者:今回の事件は、大阪地検特捜部の上の最高検察庁から、『山岸忍さんを行くべきだ』という話がありました。そうなってくると、この事件はもともと客観証拠が非常に少なかったので、どうやって山岸さんの関与を立証して逮捕するかと考えた時に、(山岸さんの)部下から証言を引き出さないと、山岸さん逮捕まではたどり着けない。
赤穂雄大記者:彼らの中でストーリーを作って、そのストーリーをなんとか供述を引き出そうとする。『それがないと立件できない』と彼らは追い込まれてたというのが、あると思います。
赤穂雄大記者:『なぜ録音録画されてるのに?』というところですが、これまで特捜部の取り調べはずっと問題視されていましたが、特捜部の取り調べが公開されることは、今まで一度もありませんでした。裁判所が認めてこなかった。今回、公開されたのは、検察組織自身もかなり驚いているのではないかと思います。
■「山岸さんだからこそたどり着けた」 事件から5年たって映像公開

2つ目は、事件から5年経過した今、なぜ映像公開されたのか。
赤穂雄大記者:山岸さんは国家賠償請求訴訟を起こした後、『この映像を公開してほしい』とずっと言っていました。『これが冤罪を生んだ根本にあるから、国民の目に触れさせたい』と。でも検察・国はずっとこれを拒んできました。
赤穂雄大記者:何度も何度も拒んで、やっと今回、最高裁判所が『出しなさい』と言ったおかげで、私たちの目に触れることになりました。山岸さんみたいに金銭的にも余裕があって、体力的にもまだ元気で、そういう方だからこそ、今回ここまでたどり着けたんだろうなと思います。
■「検事の一般常識とかけ離れた感覚、まさにブラックボックス」とジャーナリスト浜田さんは特捜部の在り方に疑問

ジャーナリストの浜田敬子さんは、特捜部の在り方について次のように話す。
ジャーナリスト 浜田敬子さん:もともと日本の捜査手法の問題で、“自白偏重”ということが言われているわけです。今回も客観証拠が少ない中で、上から下りてきた指令は、『山岸さんまでやるべきだ』と。でも“証拠がない”という時に、かなり自白に頼ってしまう。その自白を引き出すために、かなり強引な手法は特捜部に限らず問題になっていて、今回この特捜部も同じことをしてしまったというのは1つあると思います。
ジャーナリスト 浜田敬子さん:特に大阪地検特捜部は、以前、証拠の改ざんという、ものすごい事件を起こしてるわけです。村木厚子さんという元厚生労働省の事務次官だった方の冤罪事件も、やってるわけです。でも全くそれが反省されてない。
ジャーナリスト 浜田敬子さん:それはやはり何が何でも、自分たちのストーリーに沿って、有罪にしなければいけないという、組織的なプレッシャーがあったり、先ほどは『最高検からの指令だった』ということもありましたけど、それはやっぱり全うしなきゃいけない。
ジャーナリスト 浜田敬子さん:もう1つ。私は10月に『なぜ検察組織が暴走するのか』というテーマで、村木さんに取材をしているんです。村木さんが言っていて驚いたことが、村木さんは取り調べの中で『今話せば、執行猶予がつくから話した方がいい』って言われたんです。その感覚にびっくりしたと。
ジャーナリスト 浜田敬子さん:つまり一般人の感覚からしたら、『有罪か無罪か』が大事なことで、執行猶予がつくからいいわけではないですよね。検事の一般常識とかけ離れた感覚。これは検察という組織が、非常に同質性の強い組織で、結局、誰から評価されるか、上からの評価だけを見て、社会の感覚がすごくずれているということを指摘されていました。特捜部というのは、まさにブラックボックス。その象徴的な組織なんじゃないかなと感じました。
■検察は“取り調べをした検事個人の問題”とトカゲの尻尾切りの様相か

赤穂記者は取材を通して、「検察組織としての組織の問題」が本質だと感じていると話す。
赤穂雄大記者:私が一番感じているのは、『トカゲの尻尾切りで終わらせるな』です。この取り調べをした検事は、付審判請求という手続きで、裁判所から起訴され、刑事裁判にかけられるという流れになっています。

赤穂雄大記者:検察組織としては、“彼個人の問題”というふうにしたいのではないかと思うんですけど、決してこれは“彼個人の問題”ではなくて、絶対に組織の問題。組織からのプレッシャーであったりとか、組織が受け継いできた捜査手法が問題になっていると思うので、この事件はまだ検察として、公に検証するということにはなっていませんが、ちゃんと再検証して、再発防止を確実にしていただきたいなと思います。
(関西テレビ「newsランナー」2024年12月20日放送)