「最後に全てのアメリカ人に言っておきたいことがあります。この選挙は我々の国にとって最も大事な選挙になるということです。これまで、二つの政党間で、または二人の候補者間で思想的に、哲学的に、あるいはものの見方でこれほど異なっていたことはありませんでした」

指名受諾演説を行うトランプ大統領

アメリカの建国の志

トランプ米大統領が共和党全国大会で27日行った指名受諾演説は、自らの4年間の実績を誇ると同時にバイデン候補が当選すれば米国は悲惨なことになるとこれまでにも訴えたことを述べたが、終盤になって基調が変わった。

「アメリカ人の祖先たちは、危険な大洋を渡り、新大陸で新しい生活を始めた。彼らは厳寒の冬に耐え、激流を渡り、けわしい岩山をよじ登り、危険な森林を旅し、夜明けから日没まで働き通しました。こうした先駆者たちはお金もなく、地位もありませんでしたが仲間が居ました。彼らは家族を愛し、国を愛し、神を愛したのです。彼らは機会があると見れば、聖書を忘れずに荷物をまとめて幌馬車に乗り込み、新たな冒険を求めて西部へ向かいました。牧場主や鉱夫、カウボーイやシェリフ、農夫や入植者たちはミシシッピを越えて新天地を目指したのです」

トランプ大統領は、米国の建国の志を説き始めたのだ。

「アメリカ人たちは、彼らの美しい居住地をOpen Rangeに築きました。じきに彼らは教会を持ち、地域社会が築かれやがて町となり時間を経て巨大な工業や商業の中心地にと発展して行きました。それが私たちなのです。アメリカ人は将来を築いたのです、我々はその過去を葬りなどしません」

ここでOpen Rangeという言葉を使ったことに意味がある。西部開拓時代に、政府にも誰にも属さない牛の放牧が許された土地のことを言うが、西部劇で開拓者たちが合図と共に幌馬車を走らせて目指す場所に杭を打ち土地を獲得したように、米国民は政府の力を借りずに国を築いたと言いたかったようだ。

メラニア夫人とともに登場 2000人の支持者の前で演説を行った

「機会平等」か「結果平等」か

ここに、トランプ大統領のバイデン候補に対する基本戦略を見たように思えた。

それは、バイデン民主党陣営の「結果平等」主義に対して「機会平等」主義を訴えることだ。米国では開拓者が競争で土地を獲得したように、誰にでも平等に機会が与えられ、努力したものが成功を収めることがよしとされてきた。

一方の民主党側は、基本的に格差を是正し恵まれないものに救いの手を差し伸べるという「結果平等」の考えに立ち、バイデン候補も当選すれば、富裕層を対象に総額4兆ドル(約420兆円)の増税を実施すると明言している。

「結果平等」の考えに立つバイデン候補

それで、オバマケアを発展させた国民皆健康保険制度の導入や高等教育の無料化を実施し、住宅の所有も「特権」ではなく「権利」とするなどの福祉政策がバイデン政権では実現するだろうと言われている。

米国が「機会平等」の国と信じている人たちにとって、これらの政策は米国がかつて打ち負かした社会主義に他ならないと考えることは容易に想像できる。

逆転した支持率

トランプ大統領は米国の開拓史をひもとくことで、バイデン民主党の主張は「米国の志」に反するものだと訴えたわけで、演説を次のように締めくくった。

「次の4年間、我々はこの素晴らしい伝統にふさわしいことを証明します。我々はさらに驚くような高みに達するでしょう。そして世界に対し、アメリカ人に叶わぬ夢はないことを示すのです」

民主党党大会以降ラスムッセン調査会社が行った世論調査で、トランプ大統領はバイデン候補に1ポイント差の45%とほぼ並び、英国のエクスプレス紙が行った世論調査では、トランプ大統領48%でバイデン候補45%と逆転している。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】