生まれつき耳の形が不完全で小さい病気「小耳症」。症状は個人によって様々だが、日本では片耳だけが難聴でも、もう片耳が健全に聞こえていれば身体障害者にはあたらないことになっている。補助制度の課題と現状を探った。

5000人に1人の「小耳症」

北九州市内の小学4年生の田中桃加さん。約5000人に1人の確率で生まれる先天性疾患、小耳症を患っている。級友と楽しそうに授業を受ける桃加さんだが、「後ろから話しかけられると気付かないことがあるからトントンと合図したり、前に来て話してくれたりするとありがたい」と日々の学校生活では片耳が聴こえないゆえの悩みや不便さを感じている。

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小耳症の患者は、多くが合併症として難聴も患っているが、桃加さんの場合、右耳には穴がなく、ほとんど聞こえない。補聴器を付けているが雑音も拾ってしまう。そのため友だちが桃加さんに話しかける時は「左側」から。

担任教師も普段の授業では、桃加さんに教室の右側の席に座ってもらい、桃加さんが聞こえやすい左耳が教師の方に向くよう配慮している。

「どうして?」苦悩が続く日々

「寒かったやろ?」と校門に迎えに来た母親の絵梨果さん。上着を手渡しながら、いつものように手をつないで親子は家路につく。「車が多いんですよ。信号がない所から車が出てきたりするので…。ほかの子は音で反応できるんだけど、桃加はそれが難しいので…」と安全面を考えて絵梨果さんがずっと通学の送り迎えをしているのだ。

妊娠中は、小耳症に全く気付かなかったという絵梨果さん。出産後に小耳症と分り、日々、不安な気持ちでいっぱいだったという。当時の日記もなるべく見ないようにしている。「何でこんなことになってしまったんだろう。そんなふうに思っちゃいけないなって思ったり…。娘の寝顔の耳を見るたびに悲しい気持ちになったりして…」と母親として苦悩した日々。辛い思いだった。

「小耳症ってなんですか?」

絵梨果さんは、娘の成長と共に次々と問題に直面する。最も大きな問題は、片耳しか難聴がないので、障害者手帳が交付されないことだった。障害者手帳があれば補聴器の購入は原則1割負担で済むが、片耳が聞こえる桃加さんは対象外となり、自己負担額は約20万円と高額になってしまう。制度の不可解な現状だ。

北九州市に対応を求めに行った際には、市の担当者から「小耳症ってなんですか?」とこころない質問も受けた絵梨果さん。口頭では伝わりにくいので、小耳症の内容を説明する資料を自分で作成。その後も粘り強く市に掛け合った結果、4年ほど前に片耳だけの小耳症患者として初めて補助金を認められた。

障害者手帳交付 制度の改善へ向け

一般的に小耳症は、桃加さんのように片耳だけ難聴を患っている人が多いため、障害者手帳を受け取ることが困難で、保護者は補助金を求め個人でそれぞれの自治体に掛け合っているのが現状だ。福岡県内の自治体の場合、補助金が出たケースでは3~8万円と金額に開きがある。

しかし桃加さんのケースは、あくまで「特例」措置という扱い。補聴器は5年おきの買い換えが必要だが、今後も認められるかどうかは不透明な状況だ。絵梨果さんは「こういうことをしないといけないのは時間もかかるし体力も使う。片耳だけ難聴の人にも制度としてあるといい」と制度の改善を強く望んでいる。

一方、親子にとって明るい希望もある。この日、訪れたのは北海道の病院。桃加さんは新たに耳を作る手術を受けることにしたのだ。

「耳の形さえあればそれで充分」

札幌医科大学付属病院の四ッ柳高敏医師によると、肋骨にある肋軟骨から耳の形を作り、皮膚の下に移植後、半年以上経過して耳の形を整える手術だという。

「片方しっかり聞こえている場合は聴力も欲しいけど、それより耳が欲しいという気持ちが大きい方が多い気がします」と患者の偽らざる気持ちを四ッ柳医師は代弁した。

「なんかコソコソ話で、『あいつの耳変だぞ』と言われたりする。耳の形さえあったらそれで充分」と手術で聴力を治すことは難しいが、桃加さんは手術に期待を寄せている。今後、身長と体重が基準に届けば、待ちに待った手術を受けられる。自宅の桃加さんの机の上には、執刀する医師の写真が飾ってある。理由は「お医者さんになりたいから」と桃加さんは笑顔で答えた。

病気をきっかけに医師を志すようになった桃加さん。障害者と健常者の間で悩みながらも夢を抱いて前に進んでいる。

(テレビ西日本)

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