鹿児島県内の農畜産物の産出額で4分の1を占める和牛。2022年、「和牛のオリンピック」と呼ばれる全国和牛能力共進会で鹿児島は連覇を果たした。元々のブランド力に全国連覇の実績が加わり、和牛農家をはじめ県内関係者は恩恵に期待したが、現在、彼らを取り巻く環境は厳しい。鹿児島和牛の現在地を取材した。

和牛日本一連覇から2年 恩恵は感じられず

2022年10月、鹿児島県霧島市。鹿児島の和牛に熱い視線が注がれた。
和牛改良の成果を競う全国和牛能力共進会、全共。5年に1度開催され「和牛のオリンピック」とも呼ばれる。

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鹿児島は前々回に引き続き2大会連続で和牛日本一に輝いた。「和牛王国・鹿児島」の名を全国にとどろかせ、“和牛農家の生活や経営を押し上げてくれる”関係者はそう期待した。

あれから2年、2024年9月に開かれた県内の和牛の審査会場で、全共連覇の効果が経営や売り上げに反映されているかを和牛農家に聞いたところ、「正直、実感できるところは少ない」「全然出てこない。影響はいい方向には出ていない」など、返ってきたのは予想外の答えだった。

県内で行われた競りにおける子牛の平均価格の推移を見ると、2014年度から顕著な上昇がみられるが、これは母牛に子牛を産ませて競りに出す「繁殖農家」の高齢化が進み、子牛の数が減ったことに伴うものだ。

このため、国のてこ入れ策として、母牛を大量に導入する企業や農家が増え、子牛の数も徐々に増えた。当然、子牛の価格も下がり始めるが、ここで子牛を買って育てる肥育農家にとって、追い打ちをかける新たな事態が起きた。

4年前から約1.4倍に 農家を苦しめる飼料価格の高騰

ロシアのウクライナ侵攻や円安に伴う飼料価格の高騰だ。2020年と比べると、約1.4倍にまで上昇した。

和牛農家も「これだけ飼料価格が高騰して、なかなか厳しいところがあると思う」と苦しい表情だ。

このコスト高に伴って「肥育農家」は、なかなか子牛を買えない状況に陥り、子牛の価格の下落に拍車をかけた。鹿児島が全共を連覇した2022年以降も、子牛の価格下落に歯止めはかかっていない。

消費者からみると、子牛の価格が安くなれば店頭に並ぶ和牛の価格も下がりそうなものだが、そこは据え置かれたまま。高い餌代をかけて育てた牛を安く卸すと農家が赤字になるためだ。

和牛について食品市場の買い物客に聞くと、「黒毛和牛は大好きだが値段は高い」「衝動的に買うことは基本的にないかな」と、おいしいのは分かっているが値段が高くなかなか手が出ない様子だ。

総務省のまとめでは、全国1世帯当たりの牛肉の消費量は、物価高に伴う高額商品への敬遠傾向もあり、3年連続で前年割れとなっている。子牛価格の下落に加え、冷え込む国内の消費。苦境にあえぐ県内の和牛業界の打開策として、期待を集めているのが輸出だ。

輸出実績額は10年前の4倍、約140億円に

大隅半島・曽於市の食肉メーカー・ナンチクの倉庫に積まれているのは、様々な行き先が書かれた段ボール。

ブロックに加工された和牛を、現在、アメリカや台湾、EUなど13カ国に輸出している。

ナンチク輸出促進部の坂元秀明部長は「(和牛は)口の中に入れると溶けてしまう。『ものすごくジューシー』『おいしい』と、どこの国に行ってもその評価」と、鹿児島和牛に対する海外からの高い評価について語る。

2023年、鹿児島から輸出された牛肉の実績額は10年前の4倍の約140億円。ナンチクの輸出実績も右肩上がりが続いている。

2024年にナンチクに入社した最上川ひまりさんは、4万人以上が来場する台湾の食品展示会にスタッフとして派遣され、鹿児島和牛の評判に直に触れた。「『おいしい』と、日本語で言ってくれる人がたくさんいて、期待されているんだなと感じた」と、海外で実感した鹿児島和牛への高い評価について語った。

好調が続く輸出だが、一方で「海外からのオーダーが年々煩雑さを増して、細かいオーダーが来ているのが現状。そうなると生産効率が落ちるので、そこをいかにクリアしていくか」と、坂元部長は新たな課題をあげた。

新たな打開策「おいしい脂」

販路拡大に加えて進むのが、和牛の味を高める研究だ。薩摩川内市で10頭の種牛を管理する萩原人工授精所・萩原廣宣社長が、期待の1頭「茂忠陽」を紹介してくれた。

萩原廣宣社長:
これが茂忠陽です。MUFAですね。これが県の最高ランク、Aランクという評価を受けた種雄牛です。

萩原さんの説明の中で出てきたMUFAという聞き慣れない言葉。和牛のサシに含まれる脂肪酸の一種で、加熱したときの香りや、口溶け、舌触りの良さにつながるといわれている。

県の畜産試験場でもこのMUFAを増やすための餌の開発や、理想的な割合の検証などが進められている。まさに日本一の鹿児島和牛をさらに磨き上げるための研究だ。萩原さんの種牛は子牛に最適な割合のMUFAを遺伝できる可能性が評価された。

MUFAについて萩原社長は「MUFAの高い脂は、オリーブオイルやひまわり油など体に良い脂と言われる。脂だけれどもいくらでも食べられる。甘みもあって味もしっかりある。胃もたれしない。それがMUFAの値が高い脂。見た目も優れている、味もおいしい、体にも良い、そういう和牛肉を生産する必要がある」と、MUFAと和牛の未来について語る。

子牛価格の下落、飼料価格の高騰、頭打ちの国内需要。和牛日本一という輝かしい実績の一方で、不安要素も数多くある鹿児島和牛を巡る現状。

どのようにして和牛とともに生き残っていくか。関係者の模索は続く。

(鹿児島テレビ)

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