トランプ支持メディアがバイデン氏の演説を評価
「9回の裏に(逆転)ホームランを打ったようだった」
米民主党党大会でジョー・バイデン氏が行った大統領候補指名受諾演説について、フォックス・ニュースのキャスターであるデナ・ペリノさんはこう評価し、さらに続けた。
「彼(バイデン氏)の発言にはペースやリズム、エネルギー、感情が込められており、人の心を引きつけるものがあった。彼の生涯で最も優れた演説だと、後年彼自身も思うだろう」

フォックス・ニュースは、米国のマスコミの中でも最もトランプ大統領を支持するメディアとして知られる。またペリノさんは、かつてジョージ・ブッシュ(子)大統領の報道官をしていたバリバリの共和党支持者だ。
それだけに、この発言は異例の評価と民主党側から引用されているが、バイデン氏の演説はペリノさんに限らず、保守派の間でも総じて評判が良かった。
バーチャル大会の行方を見守った民主党支持派
一方、民主党支持のマスコミが称賛したのは当然としても、必ずしも両手を揚げての評価でもなかったようだ。
「正直に言うと、私は民主党党大会でのバイデンの演説を心配していた。彼にまだエネルギーが残っていて、車に例えるならばスピードを保ち、道に外れないようにハンドルを握れるかどうか疑問にも思えたからだ。しかし彼はやった。彼は完全にやり遂げたのだ」
ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、フランク・ブルーニ氏は、21日の同紙電子版でこのような書き出しの論評記事を掲載し、バイデン氏の演説を評価している。
つまり、民主党支持者もバイデン氏がよどみなく演説を行い、ただでさえ「熱気に欠ける」と批判されていたバーチャル大会を盛り上げることができるか不安に思っていたようだが、それだけに保守派にも評価される演説は嬉しかったということだろう。

「それでもバイデンが負ける場合」反トランプ共和党議員の懸念
ただ、それでもバイデン側には気を抜くことを戒める声がある。
「それでもバイデンが負ける場合」
バイデン氏の演説の翌8月22日、反トランプ急先鋒のワシントン・ポスト紙に、こんな見出しの論評記事が掲載された。筆者は、共和党員ながらトランプ大統領に反対するマイク・マーフィー氏。
「民主党党大会は、バイデン自身の人生最高の演説もあり成功した。寄付も急増し、世論調査も好調だ。しかし、選挙運動が好調な時は誇大妄想に陥りやすい。特に投票まで70日前というタイミングは微妙だ」
マーフィー氏はこう指摘し、次のような問題で選対の気の引き締めをはかる。
まず共和党側は、バイデン氏とカマラ・ハリス副大統領候補を「極左」と決め付けるだろう。そのイメージ作戦に反論するのは難しいし、ハリス候補は極めて左翼的な投票記録を残しているのが問題になるとマーフィー氏は懸念する。

また、マーフィー氏は「テレビ討論」も心配する。バイデン氏は党大会で演説のホームラン打者であることを証明したが、トランプ大統領を相手にする場合のハードルはもっと高いとする。
そして、新型コロナウイルスの行方だ。トランプ大統領は、何がなんでも投票日までにワクチンの開発を成功させようとしている。それが実現した場合は、ありえないことが起きる「ブラック・スワン」現象となるので注意して見守らなければならないと警告し、その上で次のように予言する。
「私は、今もバイデンがトランプに勝つと思っている。賭けならバイデンを買うが、多額の金は投じない」
24日からの共和党党大会が終わると、いよいよ米大統領選は本格化する。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】