能登半島地震では最大で4万人以上が避難所などに身を寄せ今も約270人が学校や公民館などの一次避難所で暮らしている。プライバシーが確保されにくい避難生活の中で大きな困難を強いられてきたのが性的少数者いわゆるLGBTQ+の人たちだ。当事者の声などから、災害時LGBTQ+の人たちにどんな配慮が必要なのかを考える。
トランスジェンダー女性が直面した避難所生活の困難
「やっぱりお風呂とトイレが一番難しいですね。性別で分けられているのは自分はどうしても入りにくくて…」2024年8月まで石川県能登町に住んでいたマロリー・シンプソンさん(27)。割り当てられた性別は男性、認識する性別は女性のトランスジェンダー女性だ。
この記事の画像(6枚)マロリーさんはアメリカのノースカロライナ州出身。自分が女性の身体になれたら、と思い始めたのは13歳くらいの時だが、家族が厳しかったためその気持ちはずっと抑えてきたという。自分を認めてくれる場所に行きたいとの思いから2019年、日本で働くことを決めて英語を教えるALTの先生として能登町に赴任した。そこで出会ったのは、”ありのまま”の自分を受け入れてくれる人々。カミングアウトして女性としての生活が始まった。
しかし…元日、能登半島地震が発生。能登町は震度6強の揺れに襲われた。自宅は電気と水が使えなくなり近くの避難所に避難したが、そこで待ち受けていたのは性別の壁だった。
マロリーさんは当時の心境をこう振り返る。「避難生活の時はいっぱい知らない人が周りにいるということで、女性のお風呂を使ったりしたら周りに違和感を与えるというのがすごく心配だった。男性の風呂場も気づかれて見られるのが怖いというか」周りは知らない人ばかり。マロリーさんはなかなか自分の性について伝えることができず、自衛隊の入浴支援は一度も利用することができなかった。
LGBTQ+の人たちに必要な配慮とは
LGBTQ+の当事者が困難に直面した事例は東日本大震災や熊本地震など過去の災害でも報告されている。災害とジェンダーについて研究している東北大学の北村美和子特任研究員は「偏見によって性的マイノリティの当事者の方々が避難所に入れないことや避難所でハラスメントを受けるような具体例が確かにあった」と話す。
北村特任研究員はこうした状況を防ぐために行政ができる配慮として、以下の点を挙げる。①誰でも使えるトイレを設置すること。②段ボールなどの仕切りでプライバシーを確保すること。③支援物資の下着は袋に入れて配布すること。④更衣室や入浴施設については時間帯を分けて対応すること。⑤シャワーを設置すること。さらにこうした点を行政の地域防災計画や避難所マニュアルなどに記載をすることも必要だと強調する。世代間の認識や社会的な性別、役割の捉え方の違いが大きな課題となっているからだ。
内閣府が2022年に全国130の市町村を対象に行った調査結果では、避難所の運営マニュアルに性的少数者への配慮について記載があった自治体はわずか1割あまりにとどまった。今回の能登半島地震で大きな被害を受けた能登の6つの自治体でも現状のマニュアルにはそうした記載はなかった。
大切なのは普段から当事者への理解を深めること
LGBTQ+の当事者などでつくる団体、金沢レインボープライドではこうした状況を踏まえ2月、石川県に対して被災した当事者への支援に関する要望書を提出。松中権(まつなかごん)共同代表は災害時に対応できるように普段から当事者への理解を深めることが大切だとして、「普段から身近に性的マイノリティの人が暮らしていることを全ての人が理解していくことだ大事」と指摘する。その上で「自治体とか様々な公の機関が意識的に、活動の中に必ず追いやられている方がいらっしゃるんじゃないかという視点を持って取り組んでいただくことが大事」と訴える。
8月まで能登町で暮らしていたマロリーさん。自分が生まれ育ったアメリカではなく、能登町で受けれられた経験から、こう呼びかける。「私は外から来た人ということで周りの人が受け入れやすかったという部分もありましたが、他の当事者の話を聞くとちょっと能登は住みづらいなどと言っています。それを理由に能登を出て行ってしまう人もいるので、せっかく能登で生まれ育った人たちのことも理解をしてもらえたらなと」