時間外労働の新たな規制で運転手不足が生じるいわゆる「2024年問題」。影響はバス業界にも及び、長野県内でも「減便」などが続いている。バス運転手の一日に密着し、大きな課題に直面している業界の今を取材した。
入社8年目のバス運転手の一日
長野市のアルピコ交通長野営業所。
朝6時40分、出勤してきたのは、入社8年目の豊田千裕さん(30)。

運行管理者:
「本日は雨ですので周囲の状況に注意して運行をお願いします」
点呼を終えるとバスへ。
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「まず車両の点検から始めて、その後は灯火類のチェック、車内に遺失物がないかをチェックをする」

バスに異常がないか確認することから一日の仕事が始まる。
営業所から始発地へ。回送運転もチェックの時間だ。
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「クラッチのつながりとかブレーキのかかり具合とか、バスによってクセが違うので、まずは車両のクセの把握から始めます。エンジン音が後ろのほうからドコドコと聞こえてくるわけですが、自分の好きな音のバスに乗れた日には一日、ルンルンで仕事、明日も乗りたいなとか」

この日、まず担当したのは、「松岡」と「宇木」の間を長野赤十字病院などを経由して走る「日赤線」。 朝は通勤・通学の客で混み合う。
「運転手は魅力的な仕事」
豊田さんは千曲市出身。幼いころから乗り物が好きで、大人になってからは運転も好きになり、運行管理の仕事を経て運転手になった。

アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「『運転マニア』といいますか。いかにして車をなめらかに運転することができるかというところで試行錯誤して。お客さまにいい乗り心地を提供できるかというところに人生かけてるかもしれない。『運転がうまいね』とか『いい接客でしたよ』と言われることもありますし、その声を直接聞けるという面で運転手はすごく魅力的な仕事だと思います」

上司は―。
アルピコ交通 長野営業所・植松誠所長:
「非常にやる気をもって取り組んでいてくれて、お客さまからお褒めのメールとか電話をもらうことも。これからの成長も期待できる若者だなと思っています」
拘束時間は13時間 休憩は5時間
午前10時、約2時間の運行を終え、営業所に戻った豊田さん。 洗車と給油をして午前の仕事はこれで終わりだ。

アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「午前は終わりになります。次はお昼ごろに出発になります」
2時間半ほどの休憩時間。仮眠や昼食に当てる。 路線バスは朝と夕方、便数が多く運転手の拘束時間は長くなりがち。休憩はしっかりとらなければならない。

午後の1本目は、営業所から浅川や若槻の団地を通る「若槻団地線」。 日中、乗客は多くはない。 約1時間運転し、車庫で休憩。

近くに休憩室があるが、豊田さんは普段、バスの中で休息。1歳4カ月の長男の動画を見る。
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「愛しいですね」
携帯で動画を見たり趣味の読書をしたり。この日の拘束時間は約13時間。そのうち休憩時間は約5時間だった。
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「ゆっくり携帯をいじったり、本を読んだり、自分と向き合う時間になります。個人的には拘束時間が長い中でも充実した時間がつくれる部分なので、これについては一概に悪いとは言えません」

休憩が終わり、発車時刻に―。
通院で利用(80代):
「バスなくちゃ困るよ。もう自動車やめちゃったからね。バスがあるから、おかげさまで」
善光寺に近づくと多くの客が乗車―。

「市民の足」として欠かせない路線バス。
しかし、業界は深刻な運転手不足となっている。
便数維持には30人ほど足りず
運転手の長時間労働を防ぐため、2024年4月、時間外労働を年960時間までなどとする規制がスタート。この影響で以前から続く人手不足に拍車がかかる、いわゆる「2024年問題」が起きている。

29路線を運行する長野営業所の運転手は約150人。1人当たりの労働時間がこれまでよりも減るため、便数を維持するには30人ほど足りないという。
このため、アルピコ交通は高速バスの「長野・松本線」を3月で運行終了させた他、長野市の循環バス「ぐるりん号」の運行から撤退した。 「ぐるりん号」は長電バスのみの運行となり大幅な減便を余儀なくされた。

アルピコ交通 長野営業所・植松誠所長:
「これまでのダイヤを運行していくには、十分な乗務員が確保されていないという状況。年齢的なこともあったり、退職される方もいて、全体としては『微減』傾向。路線バスを動かすことが使命と思っているから、減便は残念なことではあるが、やむを得ないという部分でお客さまにお願いしているところ」
アルピコ交通では、採用や待遇で事態を改善すべく長野市の補助金を活用して採用イベントへの出展や休憩室の充実を行う方針だ。
他に「大型二種免許」取得費用を貸与する独自の取り組みを行っている。
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「バスを運転することが地元の皆さまに喜んでもらえる、必要とされる、そうしたことをわれわれとしてもバス運転手のやりがいをもう少し訴えていかないといけない。そうすることでバス運転を志望する方も増えてくるのではと思っています」

午後6時半ー。
この日、最後に豊田さんが担当したのは「大豆島保科温泉線」。家路につく客を乗せて最後の折り返し運転だ。

営業所に到着―。
午後8時半、終業の点呼を受ける。
「若いドライバーが入ってくれれば」
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「まず何事もなく一日を終えられたということで、今もいつも通り安どの気持ち。今の時間、家に帰れば子どもはスヤスヤと寝息を立てていると思いますけど、そーっと寝室をのぞいて、寝顔を見て癒やされようと思います」

安全運転を心掛け日々、ハンドルを握るバス運転手。豊田さんも自身と同じような若手の入社を願っている。
アルピコ交通 バス運転手・豊田千裕さん:
「この会社は40代より上のドライバーさんたちがメインなので、そういう方たちが抜けたら、長野市内の路線バスはどういうふうに維持していくのかとか、今すごく現実的な問題に直面していますが、一緒に乗り越えてくれる若いドライバーさんが入ってくれれば、一緒にいい会社をつくって、地域に貢献して、地域の方たちがアルピコ交通を誇りに思ってくれればありがたい」

(長野放送)