先週、鹿児島県産の牛肉を「神戸ビーフ」に偽装して販売したとして、業者が行政指導を受けた。背景を取材すると「神戸ビーフ」をめぐる、“ある異変”が見えてきた。
【動画】鹿児島県産を神戸ビーフに偽装「技能実習生も多く管理が適当」異なる原産地や牛種を表示して牛肉を販売
■「神戸ビーフ」の産地偽造 「管理が適当だった」と関係者

和牛の王様ともいわれる「神戸ビーフ」。ブランド和牛の中で最も厳しいといわれる認定基準をくぐり抜けた、ほんの一部の肉だけが「神戸ビーフ」を名乗ることが許されている。
そんな神戸ビーフをめぐり先週、業界に衝撃が走った。 神戸ビーフの“産地偽造”だ。

神戸市によると食肉卸業者「神戸畜産」が、鹿児島県産黒毛和種の牛肉、合わせて1.36キロを「神戸牛」などとして販売。
市は「消費者に対して正しい表示を行うという意識が著しく欠如している」と指摘し、是正と再発防止策の報告を指示したということだ。
またこれ以外にも、通販業者などに肉を販売する際に、牛の個体識別に使用する番号を、使い回していたことも明らかに。 なぜこのような事態に至ったのか…

関西テレビが会社を取材すると、ある関係者が取材に応じた。
神戸畜産の関係者:去年のそのころは、急に受注量が増加して、夜遅くまで仕事していることが多くなった。また、技能実習生も多く、管理が適当だったと思う。
肉の管理に問題があったことを認めたものの、故意に偽装を行ったことは否定。
■「神戸ビーフを取り巻く状況はいびつ」と専門家

一方で「今、神戸ビーフを取り巻く状況に異変が起きている」と指摘するのは、食肉業界の流通などに詳しい専門家だ。
新渡戸文化短期大学 食物栄養学科 山本謙治教授:神戸ビーフはワールドワイドというか、グローバルで通用する日本の和牛ブランド。日本全国、数ある銘柄和牛の中で、神戸ビーフがひとり勝ちというか、とにかく高値で売れる状態。ちょっといびつだと思います。今、日本に来たらとにかく円安で、割安で食べられることもあるので、以前より人気が高まっている。
コロナ禍で一旦落ち込んだ神戸ビーフの価格だが、インバウンドの回復と共に需要が急増し、取引相場も過去20年で最高値を記録している。
■高級ステーキ店で「旅の目的の一つ」過去15年で今が最も外国人客が多い

神戸や京都で6店舗を展開する高級ステーキ店。 平日の午前11時だが、店内はほぼ満席で、20人以上の客のうち日本人は2人だけだった。
インドネシアから来た客:神戸ビーフを食べることがこの旅の目的の一つだったので、うれしい。(Q.高いと思わない?)私は払う価値があると思う。こんな肉、食べたことない。

アメリカから来たこの男性が食べたのは200グラム、3万5000円の超高級ステーキ。
アメリカから来た客:神戸ビーフは和牛のトップ。良いものとして、アメリカでもよく知られている。もしアメリカで食べようとすると300ドル、もしくはそれ以上は余裕で超える。でもここは、このフルコースで220ドルしかかかっていない。
店の担当者によると、過去15年で今が最も外国人客が多いということだ。
■食肉卸業者が立たされる厳しい立場「価格転嫁したくてもできない」

需要が急増する中で、厳しい状況にあるのが食肉卸業者。レストランやホテルなどを取引先に持ち、自社で神戸ビーフを使った食品も製造する山晃食品株式会社を取材した。
肉の保管庫には…
仕入れ担当者:こちらは全部、神戸ビーフになります。インバウンドの影響で、急にご注文いただく機会も増えてきて、競りでの仕入れ価格が、去年の6月ぐらいから、ぐんと上がった。せめぎあいですね。

仕入れ価格が高騰しても、飲食店などで提供する価格にはすぐに反映させることができないため、結果として卸業者の得る利益が少なくなっているという。
山晃食品 上野治郎社長:価格転嫁したくても、できない会社さんはたくさんあると思いますので。日々、私も悩んでいます。高値で落ち着いてくれれば、もうちょっと商品としては、扱いやすくなるんですけど、また上がったり下がったりすると、その都度、お客さまの対応、各レストランも対応は大変です。

専門家はこういった仕入れ値と販売価格のズレをなくすことが、今後の産地偽装などを生まないことにつながるのではないかと指摘する。
新渡戸文化短期大学 食物栄養学科 山本謙治教授:今回(偽装を)やってしまった企業というのは、中間にいる。(消費者への)販売業者は他にいる。本来高くなるはずのものは、付加価値を乗せて、高い値段で末端までもっていって。消費者も『高いものだから、ごちそうやね』という形で、買ってもらうのが本来のあるべき姿。
需要の急増と価格高騰の間で起きた神戸ビーフをめぐる歪み。 大切に守ってきたブランド食材を損ねる事態だけは、避けなければならない。
■「他の日本のブランド牛を売り込み人気の平準化を」
偽装が起こらないため、どのような対策が考えられるのだろうか。
関西テレビ 神崎報道デスク:専門家も指摘していますが、神戸ビーフの人気はインバウンド客、海外の人に支えられていて、でも神戸ビーフだけがひとり勝ち。しかし日本国内をみると、あまたいろんなところにブランド牛肉がいっぱいあります。バランスよく海外に売り込んでいく努力も必要なのかなと。神戸ビーフよりも、他の牛肉を売り込んでいき、そうすることで人気が平準化していくと、こういうことが起きにくくなると思います。
いま、和牛は本当に貴重な輸出品になっている。ブランドを守っていくことは、大変大切なことだ。
(関西テレビ「newsランナー」2024年7月2日放送)