全国屈指の畜産県として知られる鹿児島ですが、鹿児島の畜産業界は実は課題が山積みです。鍵を握る新たな施設にスポットを当て、鹿児島の「畜産の未来」を考えます。

鹿児島市の鹿児島大学郡元キャンパスを訪ねました。

鹿児島大学 共同獣医学部・畠添孝准教授
「聴診器で心臓の音をまず聞くんだけど、君ら何をチェックする?」
学生「心拍数」
教授「心拍数だよね。それと?」
学生「雑音」
教授「雑音。それと?」
学生「心臓だったら…」
教授「まあいいや!考えても仕方ない不整脈だよな」

獣医師の卵たちが実習の授業を受けていました。

鹿児島大学共同獣医学部獣医学科 5年生・吉田夏音さん(茨城県出身)
「幼稚園の時から動物がすごく好きで、小学1年生の時から獣医師を目指してました」

鹿児島大学共同獣医学部獣医学科 5年生・谷口朝咲さん(鹿児島市出身)
「小学校の時に動物園に行って、動物園の飼育員さんと動物のやりとりを見て。せっかく動物と関わるなら治療できる人になりたいと思って」

学生たちがふれあう牛、鶏などの動物は食肉の売買などの経済活動を目的に飼育されることから「産業動物」と言われ、畜産県・鹿児島とっては大切な存在です。

農林水産省がまとめた農業産出額の品目別のデータでは、鹿児島は肉用牛、豚、ブロイラーで全国1位。

しかし、鹿児島の畜産業界は課題が山積みです。

曽於市にある農家を訪ねました。

牛の繁殖農家を営む、上岡大地さん・25歳。父の跡を継いで4年目になります。

上岡さんは現場で感じることがあります。

牛の繁殖農家・上岡大地さん(25)
「高齢化はかなり進んでいて、人手不足とかはあって、若い人たちは、今の畜産にいいイメージを持つ人が少ない」

畜産が盛んな曽於市では2004年には2289戸の農家がありましたが、2023年には3分の1以下の668戸に激減しました。

農家の平均年齢は67.5歳です。

牛の繁殖農家・上岡大地さん(25)
「盛り上げるために何をしていこうかと(若手の農家仲間と)話はしたりするんですけど、なかなか案は出てこないですね」

さらに鹿児島大学共同獣医学部・帆保誠二教授はこんな問題を指摘します。

鹿児島大学共同獣医学部・帆保誠二教授
「獣医師の数が全体的に足りないのは事実。その中でも産業動物に行く方がどんどん減ってきている。(産業動物獣医師は)診療から防疫から全てを把握しないといけないので、非常に大変」

畜産農家に加え、産業動物を診る獣医師の不足という二重苦に直面する鹿児島の基幹産業。そんな現状を変えるべく、ある構想が持ち上がります。

鹿児島大学共同獣医学部・帆保誠二教授
「SKLV(スクラブ)の構想は約5年前にスタートして今回開設した」

「南九州畜産獣医学拠点」その英語の頭文字を取って、通称SKLV(スクラブ)。曽於市と鹿児島大学が連携して旧財部高校跡地にある約4万2000平方メートルの土地に整備しました。将来の畜産業、獣医療を担う人材の育成などを目的にした施設です。

最新鋭の設備がそろうSKLVの内部を案内してもらいました。4月1日の運用開始以降、カメラ取材が許されたのは初めて。防疫対策のため取材班も防護服を着用します。

肉用牛を育てる牛舎に入ってみると…

井上彩香アナウンサー
「この牛舎に入ってちょっとビックリしたんですけど、においをそれほど感じない」

SKLVで勤務・今村祐介さん
「実際に壁面を見てもらえたら分かると思うんですけど、ファンが壁面についていて、端っこから風をこちら側に向けて流している。それによってにおいが滞留しないように対策をとっている」

「次世代閉鎖型牛舎」と呼ばれ、ファンがついている場所以外は壁に囲まれています。閉鎖型にすることで牛のストレスとなる虫などの付着を防げるほか、温度や湿度を最適な状態に保てるといいます。

井上彩香アナウンサー
「こういった環境を試すことで、どういうことにつながって行くんですか?」

SKLVで勤務・今村祐介さん
「今まで牛の病気が発生したことで、いろいろ食肉への影響がこれまで出てきた。最新の設備を備えることで、食肉の安全性など、そういったものを学生に学んでもらって、今後生かしてもらえれば」

牛が育ちやすい環境を研究し繁殖、肥育、出荷までの一貫した過程を学生は学ぶことができます。

肉用牛の閉鎖型牛舎が整備されたのは国内では初めてです。

次にやって来たのは、閉鎖型の研究用鶏舎。今後5000羽規模でブロイラーを飼育する予定です。

天井にずらりと並ぶ45台のカメラにより、鹿児島大学から遠隔で育成状況を確認でき、研究に役立てられます。

産業動物の実習の場が少ない学生に新たな学びの場を提供するSKLV。希望があれば学生以外の畜産農家にも開放されることになっています。

省力化や自動化を駆使した最新の畜産の形を見せることで、重労働というイメージを払拭し、若手農家に希望を届ける存在になることも期待されています。

鹿児島大学共同獣医学部・帆保誠二教授
「我々が狙っているところは、後継者を育てる。獣医師も含めて、畜産農家の後継者、SKLV全体としては畜産農家の方たちが魅力を感じるようなシステムを提供しているので、そこである程度学んでもらって、自分たちの牛舎に応用してもらう。それがおそらく次のステップにつながる」

10年先も、20年先も、「畜産」が鹿児島の基幹産業であり続けるために

鹿児島大学共同獣医学部5年・田村優依さん(獣医師志望)
「日本の畜産業をもっとよくできる人になりたい。農家の人の気持ちに立って一緒になって考えられるような獣医師になりたい」

牛の繁殖農家・上岡大地さん
「僕たち若い世代が畜産を盛り上げていけるような存在になって行ければ」

これからSKLVで学ぶ学生や若手農家がその未来を担うことを期待したいものです。

鹿児島テレビ
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