火山活動でできた地形や温泉が人気の観光地・静岡県伊東市は噴火に備えた避難計画を見直した。噴火が影響するとみられる範囲を広げたことで市民の7割が避難対象になった。噴火警報から48時間で車や電車で市外へ避難する計画だが市民からは戸惑いの声も聞こえる。

火山活動で人気の観光地に

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静岡県伊東市は大室山や城ケ崎海岸など豊かな自然に恵まれている。

大室山は約4000年前に活動した標高580mの伊豆半島最大の単成火山で、山体はほぼ原形を留めている。山頂には直径250mの噴火口がある。麓から山頂までリフトで登れ、富士山や相模湾を望みながら噴火口の周囲を散策することができるのが特徴だ。

大室山の噴火で溶岩が海岸に流出して多くの岬を作り、波の浸食で数十mの絶壁ができた。これが城ケ崎海岸だ。眼下に海を臨むつり橋はスリル満点で、海岸沿いのハイキングが楽しめる。

火山活動の爪跡は両方とも今では人気の観光スポットとなっている。

ただ大室山を含む地域は「伊豆東部火山群」と呼ばれ、どこかで再び噴火するおそれがある。

噴火後に作成した避難計画を見直し

1989年7月、伊東市沖 約3kmの海底で約2700年ぶりに火山が噴火した。1978年以降、伊東市の沿岸から沖合にかけての領域で繰り返しマグマの上昇が起こり、これに伴う群発的な地震活動が発生していた。

1989年の海底噴火は直接的な被害はなかったが、噴火への備えが不十分だった伊東市は2015年、伊豆東部火山群に備えた避難計画を策定し避難訓練も行ってきた。

しかし、2024年3月、伊東市はこれまでの避難計画を大きく修正した。

伊東市の新たな避難計画
伊東市の新たな避難計画

噴火による影響範囲を見直して従来よりも広範囲にしたことにより、市内の避難対象者数が大幅に増加。

これまでの避難計画では、最大で約3万8000人の市民が市内の避難所に徒歩で避難する計画だったが、噴火による影響が広い範囲に及ぶことがわかり、最大で約4万6000人の避難が必要となった。市の人口の約7割だ。これは市民だけで観光客を除いた数だ。

渋滞が心配 48時間で避難できる?

伊東市
伊東市

このため市は、車や電車やバスで市外へ広域避難させる方針に変えた。ただ、車での避難に不安を感じる市民も少なくない。

伊東市民
伊東市民

市民は「車では渋滞する。うまく避難できないのでは」「車の運転が苦手で、車で逃げるのは無理な気がする」「(隣の)熱海まで向かう道路が1本なので渋滞する。(車での避難は)絶対に無理」と心配する。

無事に避難できるのか…伊東市は避難を始めるタイミングが重要になると考えている。

伊東市は「臨時の解説情報」が発表された段階で、観光客に避難指示を発令する。

さらに、低周波地震が観測されるようになる「噴火警戒レベル4」で、高齢者や要支援者に避難指示を出す。

火山性微動が観測される「噴火警戒レベル5」で、市民に避難指示を発令する考えだ。

一般に火山の噴火警報の場合、火口周辺への立ち入りを規制する「噴火警戒レベル2」や入山規制をする「噴火警戒レベル3」があるが、伊豆東部火山群の場合は山体や火口が見えない所から噴火するケースがあるため、レベル2や3はなく一気にレベル4となる。

どこから噴火するかわからない中で無事避難できるのだろうか。

1989年の噴火を参考に避難計画を修正
1989年の噴火を参考に避難計画を修正

火山学が専門の静岡大学・小山真人教授は「今回の避難計画はあくまで1989年の噴火の時の時間的余裕の中で避難できるかを確かめた計画。1989年と同じ状況なら(火山性微動が観測される)噴火警戒レベル5から噴火まで48時間の余裕がある。その48時間で逃げ切れるかどうかシミュレーションをして、おそらく逃げ切れるだろうと分かったのでこの計画を作っている」と、作成の経緯を明かす。

観光客5万人の避難は?

伊東市
伊東市

さらに観光客は最大で約5万1000人が避難すると想定されていて、宿泊施設も対応を迫られている。

伊東温泉ホテル旅館協同組合の北岡郁子 副理事長は「災害はいつ起こるかわからないのが一番不安。最近はインバウンドの方もたくさんいるので、日本人だけでなくて外国の方を案内するのに、どう表示するのか、どう案内すれば一番スムーズに安全に行動できるのか、悩んでいるところです」と打ち明ける。

伊東市の避難計画
伊東市の避難計画

今回修正された避難計画では、観光客は市外の自宅へ、市民は町内会ごとに富士市や下田市など11市町の指定避難所に避難することになっているが課題も残されている。

伊東市の小野達也 市長は「想定してはいるものの、その通りになるかどうかは確実なものではない」と課題が残ることを認めたうえで、「まずは避難の方向性をつけ、他の自治体にも避難先をお願いしたことは大きな前進」と新たな避難計画の意義を強調する。

「火山群の中で暮らすことを意識して」

避難計画作成に関わった小山真人 教授は「きれいな景色や温泉など普段は火山の恵を受け、火山の麓に暮らしている。溶岩流や火山灰の跡を見て、自分たちは火山郡の中に暮らしていることを意識して。いざとなったら こういうことをしないといけない、避難計画もその一つだ。噴火だけはなく地震も(火山活動に)伴うので、地震の揺れの警戒も怠らないようにしてほしい」と話す。

2000年の北海道・有珠山での噴火では事前に避難指示や避難勧告が発令され、人的な被害はなかった。

2014年 御嶽山が噴火
2014年 御嶽山が噴火

しかし、2014年 長野県と岐阜県にまたがる御嶽山では突然の噴火によって63人が犠牲となった。

伊豆東部火山群、そして富士山も観測体制が整い、事前に予測できる可能性はあるものの、いつどこから噴火するかわからない。

噴火に備え、避難経路や避難先などを確認しておくことが大切だ。

(テレビ静岡)

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