東日本大震災から13年が経ち、宮城県内では防潮堤の建設などハード面の備えが進んできた。一方自治体は、最悪の条件を想定した新たな津波浸水想定を受け、避難場所などの見直しを進めている。答えのない津波防災に、終わりのない体制整備。県内各地で模索が続いている。

建設費の高騰...完成見通し立たない防潮堤

 東日本大震災から13年が経った今も、宮城県の沿岸部では津波に備えた防潮堤の建設が進められている。

防潮堤の建設が進む気仙沼市
防潮堤の建設が進む気仙沼市
この記事の画像(13枚)

 約240キロにわたって計画された防潮堤も、残すは気仙沼市内の5カ所のみ。このうち、鮪立地区では3月末に完成を迎える予定だが、残る4カ所は建設費の高騰や関係者との調整が遅れ、完成の見通しが立っていない。

村井知事
村井知事

 この状況に対し、村井知事は「今度は命を絶対守り切るという思いで、防潮堤を整備させていただいた。県が責任を持って必ず工事を完了させるということで、ご理解をいただきたいと思っている」と説明した。

最大クラスの津波 どう備える?

 次の津波に備えた防災対策が進められる中、沿岸部の自治体が今、対応に追われているのが、 県が2022年に公表した新たな津波浸水想定だ。

 「地盤沈下」「満潮時」「防潮堤が破壊された」など最悪の条件を前提に、最大クラスの津波が押し寄せた場合の浸水域を示している。その面積は、“想定外”とされた東日本大震災の1.2倍にも及ぶ。

 公表を受けて自治体はそれぞれ、住民説明会やハザードマップなどの改訂に着手した。

気仙沼市の住民説明会の様子(2022年)
気仙沼市の住民説明会の様子(2022年)

 最大で高さ約15メートルの津波が襲うと推定された気仙沼市は、市内15地区でそれぞれ3回ずつのワークショップを開催。住民とともに地域の課題や避難の在り方を検討し、それらを反映させたハザードマップなどを4月以降、全戸に配布する方針だ。

気仙沼市・高橋義宏危機管理官
気仙沼市・高橋義宏危機管理官

 気仙沼市の高橋義宏危機管理監は「常々どのような避難行動をするのか、どういう災害のリスクが自分の住んでいる場所にあるのかっていうことを理解することが大きいと思っている。より細かい防災マップを作ったり、その防災マップを使って避難訓練をしたりとか、そういった避難の取り組みにつなげていくのが(今後の)大きな取り組みになる」と話す。

気仙沼市のハザードマップ
気仙沼市のハザードマップ

 仙台放送の取材では、ハザードマップの改訂作業は沿岸部のすべての自治体で3月末までに終了する見通し。今後は、住民への周知などが行われ、自治体ごとに具体的な対策が実施されることになる。

避難施設確保へ 進む「民間との連携」

 岩沼市では浸水想定の公表以降、新たな取り組みが始まった。それは、民間企業と避難施設に関する協定を結ぶというものだ。

日本梱包運輸倉庫株式会社・岩沼営業所
日本梱包運輸倉庫株式会社・岩沼営業所

 市と協定を結んだ日本梱包運輸倉庫株式会社・岩沼営業所の事務所の2階は5.7メートルの高さがある。この地域で想定されている最大浸水深4.32メートルよりも高く、協定を結んだことにより、住民などは有事の際、この事務所に避難することが可能になった。

中藤雅充所長
中藤雅充所長

 中藤雅充所長は、「非常用電源を備えてあったり基本的な動力関係は、かさ上げして2階に設置してあったりということで、有事の際にも稼働ができる。また、避難所としても機能ができる態勢を整えている。地域の方や、(地域の)企業にも認知されるような存在でありたいと考えている」と話す。

正解がない津波防災 終わりなき体制整備

 こうした民間との連携が進む背景には、自治体だけでは対応しきれない事情がある。例えば、今回協定を結んだ岩沼市の沿岸部には、津波から避難する際の、高さのある公的な建物が無いのだ。

山元町
山元町

 こうした連携は一部の自治体では東日本大震災の前から行われていたが、新たな浸水想定の公表以降再び見直され、山元町などでも協定が結ばれている。

 仙台市も、宮城野区の民間のマンション5棟を新たに津波避難施設に指定するなど、民間の力を借りた対策は、広がりをみせていて、村井知事は「非常に重要な視点。行政の力だけでは難しい。民間の企業の力を借りながら、防災体制を組み上げていくというのが重要」と指摘する。

東松島市で建設予定の津波避難タワー(提供:東松島市)
東松島市で建設予定の津波避難タワー(提供:東松島市)

 一方、東松島市では沿岸部の一部に避難に適した施設が無く、市の予算で津波避難タワーを建設することを決定。市議会の2月定例会に、建設費3億6100万円を含む予算案を提出している。

 自治体で抱える事情が異なる津波防災。終わりのない体制整備に、各地で模索が続いている。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。