お笑いコンビ・オズワルドの畠中さんが、腎臓がんの手術を受けたことを明らかにした。

昨年11月に芸人仲間と「PET検査」を受けたところ、腎臓に腫瘍が見付かり、その後の検査で初期の腎臓がんと診断されたという。

自覚症状がない中、早期発見につながったPET検査とはどういった検査なのか。

30年の検査実績を持つ、四谷メディカルキューブの安田聖栄理事長に聞いた。

体の広い範囲を1度に検査

ーー「PET検査」はどういった検査?

「PET検査」は、全身の細胞の代謝を画像化する検査です。

四谷メディカルキューブ・安田聖栄理事長
四谷メディカルキューブ・安田聖栄理事長
この記事の画像(11枚)

がん細胞は、正常な細胞の何倍もの多くのブドウ糖を消費します。

この性質を利用して、ブドウ糖に似た構造の検査薬(FDG)を体内に注射し、この薬が多く集まる場所を突き止めて、体内に潜むがんを見付け出します。

ブドウ糖を多く消費するがん細胞(提供:四谷メディカルキューブ)
ブドウ糖を多く消費するがん細胞(提供:四谷メディカルキューブ)

目安として、がん細胞が1センチ程度のかたまりになれば発見できます。
約1センチの腫瘍というのは、どの臓器でも「初期」に当たります。

ただし、がんの種類によっては、ブドウ糖が強く集まるタイプと、薄く集まるタイプなどさまざまなレベルがあるので、内容を見極めるには経験が必要です。

がん細胞が1センチ程度になれば発見(提供:四谷メディカルキューブ)
がん細胞が1センチ程度になれば発見(提供:四谷メディカルキューブ)

ーーがんの特性を利用した検査法?

そうです。

X線やCT画像は、「形の変化」で良性か悪性かを診ますが、PET検査は、形ではなくて「ブドウ糖の代謝」(ブドウ糖の取り込み)で良性か悪性かを見極めます。

通常は、肺がん検診、乳がん検診、子宮がん検診と、それぞれの臓器を別々に検査しますが、PETでは1回の検査で、上顎部から骨盤にかけて、体全体を調べることが出来ます。
これを「標的臓器が多い」と言います。

また、比較的早期に、治る段階で発見できるのが特徴です。

発見が「不得意」ながんも

1回の検査で広い範囲を撮影できる「PET検査」。

しかし、臓器の性質などにより、見つけにくいがんもあるという。

PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)
PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)

ーー全身のがんが発見できる?

PET検査が「得意」とするがんは見付けられます。

肺がん、甲状腺がん、悪性リンパ腫、上顎がん、耳下腺がん、胸腺腫瘍、縦隔腫瘍、後腹膜腫瘍、子宮体がん、悪性黒色腫、骨髄腫、消化管間質腫瘍(GIST)、がんの転移・再発の発見は得意とするため見付けられます。

また、「比較的得意」とするがんは、大腸がん、乳がん、すい臓がんなどです。

PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)
PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)

一方、「不得意」とするがんは、脳腫瘍、膀胱がんなど尿路系の腫瘍、食道・胃がんの早期発見です。

脳腫瘍は、脳自体がブドウ糖をたくさん取り込むので、真っ黒に映ってしまいます。

膀胱も、尿の中に注射薬が集まるので、そこにがんがあっても見えません。

初期の食道がんや胃がんは、色の変化で見付けるため内視鏡カメラで検査する必要があります。

内視鏡検査(イメージ)
内視鏡検査(イメージ)

ーーPET検査のメリットは?

3つのメリットがあります。

1つは、痛みがないので、苦痛にならない。
検査前に注射したら、その後は寝ていれば良いです。

2つ目は、1回の検査で体の広範囲を調べることができます。
多数の臓器を同時に検査できるため、身体的な負担が少ないことが特徴です。

3つ目は、がんだけでなく、他の病気も見つかります。
がんの発見率は約1%、それ以外に「腎臓結石」や甲状腺の「橋本病」、「蓄膿症」などの病気が約19%見つかります。腰痛の原因がわかる場合もあります。

50歳、60歳でPET検査を受けたら、約20%、5人に1人が何らかの指摘を受けることになります。

基本は5つの「がん検診」

メリットが多いPET検査だが、まずは厚生労働省が推奨する「5つのがん検診」を受けることが重要だと安田理事長は話す。

(イメージ)
(イメージ)

ーーPET検査は積極的に受けるべき?

まず大事なのは、厚生労働省が推奨する「5つのがん検診」を定期的に受けることです。

「胃がん」「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「子宮頸がん」の5つの検査が優先です。

「胃がん」検診は50歳を過ぎたら受けましょう。「大腸がん」は便の検査を受けましょう。

これらの検査は、科学的に有効性が確認されています。

(イメージ)
(イメージ)

一方、PET検査は科学的な有効性は証明されていません。
そのため、「5つのがん検診」を受けた上で、PET検査を受けるのが良いです。

体調が良くない、どこかに大きな病気が潜んでいるのかもしれないという場合は、1つ1つ検査するよりも、まずPET検査を受けることで、次のステップに進むことができます。

ですから、国が推奨する5つのがん検診をベースにして、経済的に余裕があればPET検査を受けることをお勧めします。

PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)
PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)

ーーPET検査を受ける人は増えている?

四谷メディカルキューブの「PETコース」には、月120人ほど来ます。

日本でPET検査を受けられる施設は、200~300ほどあります。
検査で大事なのは、画像を「どう評価するか」です。

医療技術というのは長年培ってきたものの蓄積なので、同じ画像を見ても、価値ある情報を引き出せるかどうかは医師の経験で違ってきます。

PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)
PET/CT検査(提供:四谷メディカルキューブ)

ーー費用は「保険適用外」だが、適用対象にするべき?

私は無理だと思います。

PET検査の欠点は、コストが高いことです。
これを公費で賄うのは難しいです。

50歳を目安に一度PET検査を受けてみるのも良いと思いますが、自費診療になるため、検査を受ける人は自分で負担する必要があります。

検査費用は約13万円になりますが、日本はまだ良い方で、アメリカでは20万円~100万円かかります。