東名高速であおり運転をした末に静岡市清水区に住む一家4人を死傷させた男の控訴審で、東京高裁は懲役18年の実刑判決を言い渡した。かつて法廷で「一生かけて償う」と口にしていた男だったが、閉廷後は裁判官に…。

PAでのトラブルきっかけにあおり運転

事件が起きたのは2017年6月。

神奈川県大井町の東名高速・下りの追い越し車線で停車していた車に大型トラックが追突し、車内にいた静岡市清水区在住の夫婦が死亡したほか、娘2人がケガをした。

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なぜ、危険な高速道路の本線上にも関わらず車が停まっていたのか?それには理由がある。

一家が乗る車は事件前、パーキングエリアで別の車とトラブルになり、その後、この車による度重なる車線変更や急ブレーキなど執拗なあおり運転を受け、進路を妨害されたからだ。

事件から4カ月後。

警察は、あおり運転を繰り返した過失運転致死傷などの疑いで福岡県の男(当時25)を逮捕。検察は後に、より刑罰が重い危険運転致死傷などの罪で男を起訴している。

一審では反省の弁読み上げる場面も

2018年12月に開かれた一審で、弁護側は「停車中に起きた事故」との理由から危険運転致死傷罪などは成立しないと主張した一方、男は被告人質問で「こういう事件を起こして申し訳ないことをした。本当にすみませんでした」と述べ、結審の際も「夫婦を死なせてしまい、親族に深い傷を負わせてしまった。一生背負っていく。一生かけて償っていく。本当に申し訳なかった」と用意した文章を読み上げた。

また、父親が情状証人として出廷した際には何度も涙を拭いながら証言を聞いていたが、横浜地裁は争点となった危険運転致死傷罪について「成立する」と判断した上で、男に対して「反省の弁を述べているが真摯に反省しているとまでは評価できない」と断罪。懲役18年の実刑判決を言い渡した。

高裁が違法性を指摘…差し戻し審へ

ところが、1年後の控訴審判決で問題が生じる。

東京高裁は「危険運転致死傷罪の適用に誤りはない」としつつ、横浜地裁による争点の整理手続きの進め方には問題があると指摘。手続きの中で「『危険運転致死傷罪は成立しない』との見解を示したのは違法」と言及し、裁判のやり直しを命じたのだ。

裁判のやり直しを命じた東京高裁
裁判のやり直しを命じた東京高裁

すると、男は差し戻し審で改めて「事故になるような危険な運転はしていない」と無罪を主張。

横浜地裁が「死傷した結果は妨害運転の危険性が現実化したものと言える」との見解を示した上で「危険運転致死傷罪は成立する」と判断し、再び懲役18年の実刑判決を言い渡すと、男は「非常におかしい。理解されていないのはとても残念」などと話し控訴した。

判決後に悪態 当事者意識は皆無

迎えた2024年2月26日の差し戻し審の控訴審判決。

東京高裁は「トラックが車間距離を守らず、前の車に気付かなかったことが事故の原因」という弁護側の訴えを退け、横浜地裁が下した懲役18年の判決を支持した。

検察側の「妨害運転と事件の間には因果関係がある」との主張を認めた形だ。

すると男は閉廷後、裁判官に対して「俺が出るまで待っとけよ」と悪態をついた。

判決を言い渡す前の法廷内(2月26日)
判決を言い渡す前の法廷内(2月26日)

事件によって命を奪われた男性の母親は、かつて「これからあおり運転などの危険な運転が無くなってくれることを切に願います」と話していて、国会では、この事件がきっかけとなり2020年に道路交通法が改正され、妨害運転(あおり運転)に対する罰則が創設された。

具体的には、他の車両の通行を妨害する目的で急ブレーキ禁止違反や車間距離不保持等の違反をすることは厳正な取り締まりの対象となり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになったほか、高速道路などで他の車両を停止させるなど、著しい交通の危険を生じさせた場合には5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることになっている。

加えて、自動車運転死傷行為処罰法も改正され、いわゆる“危険運転”に走行中の車を停止させるなどの行為が追加された。

しかし、男にはその“当事者”であるという意識はまったくないようだ。

(テレビ静岡)

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