大阪・堺市で大学生の女性をマンションから飛び降りさせ、包丁で刺して殺害した罪に問われた山本巧次郎被告(24)に、大阪地方裁判所堺支部は懲役20年の判決を言い渡した。

山本被告は2022年、堺市のマンションで、元交際相手で大学生の大田夏瑚さん(当時20歳)を包丁で刺し、4階のベランダから飛び降りさせてけがをさせ、さらに胸を複数回刺して殺害した罪に問われている。

大田夏瑚さん(大学HPより)
大田夏瑚さん(大学HPより)
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裁判で山本被告は起訴内容を認めたものの、弁護側は「精神疾患で、殺意も責任能力もなかった」と無罪を主張していた。 一方、検察側は責任能力は完全だと主張。懲役20年を求刑。

13日の判決で、大阪地裁堺支部は山本被告に対し、検察の求刑通りとなる「懲役20年」を言い渡した。

■「山本被告は『非定型精神病』を発症」

山本巧次郎被告
山本巧次郎被告

裁判所が依頼した医師による精神鑑定では、山本被告は「急に発症し、意識障害などをもたらすものの、比較的短期間に回復する」という「非定型精神病」を発症していたという結果が出ていた。

弁護側は「大田さんとの交際関係のもつれや教員採用試験の準備でストレスを抱え、非定型精神病を発症した」と主張した。裁判の中で証人として出廷した友人たちの証言をもとに「誰の口からも、山本被告が過去に暴力をふるったことはなかった」と指摘した上で、「そんな山本被告が犯行時は異常な行動をとった」などと主張。「精神疾患のために、悪いかどうか判断することも、犯行を思いとどまることもできなかった」として、事件当時は刑事責任能力がなく無罪だと主張していた。

■検察側は「犯行直後に殺害方法を説明できている」

事件現場(視聴者撮影)
事件現場(視聴者撮影)

一方、検察側は事件直後に山本被告が自ら110番通報した音声や、パトカーのドライブレコーダーに残っていた音声を再生し、「どのような方法で殺害したのか説明できていて、責任能力はあった」と主張した。

110番通報
山本被告:殺しましたので捕まえてください
通報を受けた職員:名前は?
山本被告:山本巧次郎です
通報を受けた職員:誰を殺した?
山本被告:大田夏瑚です。彼女です。包丁で殺しました。手に持ってます

パトカーのカメラ映像の音声
山本被告:刺してから通報しました。(被害者の部屋は)4階です。(被害者が飛び降りてから)階段で走って降りました。心臓を刺しました
警察官:飛び降りた後まだ息はあった?
山本被告:ありました。刺して殺しました

■犯行直後に殺害方法などを説明 その後「覚えていない」

事件直後のマンション
事件直後のマンション

さらに検察側は別の医師による精神鑑定の内容をもとに、仮に山本被告が精神疾患であった場合、「犯行時に意識障害が出ていたならば、その直後が最も記憶を思い出せないはずだが、犯行直後に殺害方法などを説明し、その後『覚えていない』と供述するようになった」などと指摘し、山本被告に完全責任能力があったと主張。

そのうえで「瀕死の状態で、周囲に助けを求める被害者に対し、馬乗りになって胸部付近を少なくとも4回突き刺した、被害者への憐憫の情すら感じさせない、容赦のない残酪な行為であり、傷の一部は背中に達するなど、強固な殺意に基づくもので殺意もあった」と指摘していた。

■遺族に謝罪 反省はするけど「覚えていない」

被告人質問では、犯行について記憶がないと主張している山本被告が大田さんや遺族に、以下のように謝罪の言葉を口にした。

弁護側:償いはどうしますか?
山本被告:毎日大田さんに謝罪したい。命日には黙とうを捧げたい
検察側:大田さんにはなんと伝えたい?
山本被告:ごめんなさいと伝えたいです。本当に取り返しのつかないことで、なんでこんなことをしたのか反省しかないです
検察側:被害者の両親には?
山本被告:大田さんはすごく家族思いで、仲が良かったので、想像しがたい気持ちになっていると思います

検察側:記憶がないということだったが、裁判の中であなたがしたことをどう思った?
山本被告:本当にめちゃくちゃ怖い思いを…大田さん、部屋の中でも…逃げても追われると、本当に怖い思いをさせてしまった
裁判員:反省はするけど覚えていない?
山本被告:…そうです

■遺族は涙ながらに「極刑」求める 

被害者参加制度を利用した大田さんの母親は、法廷で以下のように述べ、極刑を求めた。

大田さんの母親:娘は幼いころから優しい子で、抱いた夢は放射線技師でした。人に役立つ仕事を、と中学生のころから目指していました。成人式の日、会場へ向かう前に撮った写真が、(母親と大田さんの)2人の最後の写真になりました。本当に本当にきれいでした。娘の死を本当に受け入れることはできません。受け入れたら、私は死を選んでしまう。娘を返してください

また、大田さんの妹は涙ながらに「帰ってきたお姉ちゃんは小さくなって、骨壺に入った姿でした。今現在も亡くなったことを受け止められません。体に最後に触れた時の冷たさを忘れません。強く死刑を望みます」と訴えた。

そして事件の影響で体調を崩しているという父親の意見を、被害者参加を支援する弁護士が代読し、「自分が死んで娘が生き返るなら、喜んで死ぬ。願うのは娘を返してほしい。山本被告には厳正な処罰、具体的には極刑を望みます」と述べた。

■「不都合なことのみ記憶をなくしている」と指摘 責任能力が完全だったと認定

大阪地裁堺支部
大阪地裁堺支部

13日の判決で、大阪地裁堺支部(荒木未佳裁判長)は、「犯行を終えるとただちに110番通報し、駆けつけた警察官に取り乱しながらも動機や犯行の経緯を適切かつ丁寧に説明し、意味不明ことやつじつまが合わないことはなかった。また捜査の段階から犯行の記憶がないと話していたが、不都合なことのみ記憶をなくしている」と指摘し、精神疾患があったと鑑定した医師の意見については「被告の説明を前提にしているが、犯行後の音声などと整合しないことが多く、信用できない」として、責任能力が完全だったと認定した。

その上で、「4階から転落して重傷を負った被害者を見て、躊躇なく強い力で6回も刺して殺害していて、強固な殺意があった」と殺意も認定し、「被害者の絶望は想像を絶するもので、無念は計り知れない。有期刑の上限が相当」などとして、求刑通り懲役20年を言い渡した。

山本被告は、時折うなずくように首を前に傾けながら、取り乱した様子もなく判決の言い渡しを聞いていた。

関西テレビ
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