先週末から九州の広範囲を襲った大雨は、甚大な被害をもたらしました。
梅雨シーズンの線状降水帯による大雨。
2年前の西日本豪雨、3年前の九州北部豪雨も、同じ時期のことです。

街が濁流にえぐられ、飲み込まれ、車や家が流されていく映像が流れるたびに、胸がつぶれるような想いがします。被害に遭われた皆様に、お見舞い申し上げます。

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「10分くらいの間に、みるみる水が二階まで上がってしまった」などとインタビューを見聞きすると、本当に短時間に景色が一変してしまう水害の恐ろしさを感じます。

なぜ、「予想できないほどの」「想定以上の」ことが起きてしまうのだろう?
どうやったら自分自身を、そして大切な人を守ることができるのだろう?

5〜6日にかけて熊本県に取材に行った木村アナ、防災士ハッチ-と一緒に考えていきます。

佐々木アナ:
現地の様子はどうでした?

濁流に流されてきた木材が街のあちらこちらに・・・
濁流に流されてきた木材が街のあちらこちらに・・・

木村アナ:
熊本県人吉市、球磨村を取材しましたが、町ごと飲み込まれてしまったような状況でした。特に人吉市は、城下町や温泉街として栄えたところで、国宝の青井阿蘇神社もあり、そういった意味では、「歴史が飲み込まれてしまった」感もありました。

町ごと飲み込まれた
町ごと飲み込まれた

川沿いに商店街があって、そこでも取材で話を聞かせていただきましたが、球磨川が暴れ川と言われているとおり、みなさん警戒もしていたし、対策も取っていました。にもかかわらず、過去の事例からではとても予想がつかないことが起こってしまった、とおっしゃっていましたね。

自衛隊員によって救助される人々
自衛隊員によって救助される人々

佐々木アナ:
「Live News it !」の中でも1階は車庫などに使っているお宅が多いと伝えてましたね。

木村アナ:
はい。1階は車庫や物置、2階を事務所にして3階を居住スペースにしているというお宅も多かったように思います。月曜日(6日)の夜は、ライフラインも復旧しておらず、雨への警戒も続く中で、夜避難所に行って過ごすのか、自宅で過ごすのか、本当に判断が難しいと口にされていましたね。

寝ている間に襲った記録的大雨・・・未明の事態

佐々木アナ:
ハッチー、今回大雨特別警報が最初に出されたのは九州南部の16市町村に対して、4日の午前4時半頃。午前3時半には球磨村に「避難指示」、午前5時15分には人吉市に「避難指示」が出ましたが、未明に急激に状況が展開して、なかなか避難もしづらい状況だったと思います。

防災士ハッチー:
6日の気象庁の会見でも強調されていたように、「大雨特別警報」は「すでに災害が発生している可能性が極めて高い状況」なので、それを待って避難しようと思うと、手遅れになってしまいます。やはりその前に地元自治体から出される「避難勧告」「避難指示」の段階で、”動ける時に動く” ”早期の避難に勝るものはない”のです。

移動に時間がかかる高齢の方などは、「避難準備・高齢者など避難開始」(レベル3)が出たら早めに避難を考える。今回も、未明に想定以上の雨が一気に降るという悪条件が重なってしまったことで、被害が大きくなってしまいました。

木村アナ:
高齢者施設でも、日頃から避難訓練をしていたし、入所者を必死に避難させるべく力を尽くしたけれど、短時間で水位が上がって避難が難しくなってしまったケースもありました。なぜ、「想定以上」のことが起きてしまうんでしょう?

高齢者施設「千寿園」では14人が命を落とした
高齢者施設「千寿園」では14人が命を落とした

線状降水帯は予測するのが難しい

防災士ハッチー:
それは、線状降水帯の予測の難しさとも関係してきます。線状降水帯とは、積乱雲が次々と発生して帯状に連なっているものです。そもそも、線状降水帯は、気象現象として「規模が小さく、幅が狭い」んですね。気象の予測は、ちょうど将棋の碁盤をイメージしてもらうとわかるような格子点を立体的にみて行っています。

日本に大雨をもたらす数百キロに及ぶ規模の台風などの予測には現在は5キロ四方の格子を使っていて、その中がどのような状況になっているかで予測をしていきます。だからそれよリ規模が小さい線状降水帯は、現れてから初めて把握できるもので、事前予測が難しい。

また局所的な地形や風などによって急に発生するので、なぜその地点に暖かく湿った空気が流れこんでいるのかわかりにくく、「いつまで続くのか」終わりも予測しづらいのです。だから、局地的に、しかも短時間に、予想値を大きく超えるような雨になってしまうのです。

とにかく「早めの避難」を

佐々木アナ:
そうなると、繰り返しになりますが、「早めの避難」に尽きますよね。家や学校、職場など、自分の関わる場所のハザードマップで、どんな場所なのかを確認して、どの段階で避難をするのか、事前に決めておかないと、いざという時、動けないように思います。アナウンサーとしては、心から「命を守ってほしい、だから避難を」と呼びかけていても、いざ自分の身に降りかかると、いわゆる「正常性バイアス」で、ここの土地は過去に例がないから大丈夫、自分は大丈夫・・・と思ってしまいそうです。

上空からの見た福岡圏久留米市(8日朝)
上空からの見た福岡圏久留米市(8日朝)

防災士ハッチー:
水は速いし、一気に集まってくる。まだ大丈夫・・・?と考えていると、あっという間に動けなくなる。いざ避難するとなったときには、指定された避難所に行くことにこだわらず、危険な場所からとにかく離れることです。川や崖から少しでも離れた「近所の頑丈な建物」「崖とは反対側のできるだけ高い2階以上の部屋」安全なエリアにある「親戚・知人の家」も選択肢になってきます。

そして、「明るいうちに」避難すること。夜になると、道が見えずに危険が増します。また、浸水が始まっていれば、マンホールや側溝が危険な箇所になるので、「傘などの棒を使って地面を探りながら避難する」こと。

コロナ禍で感染予防のためにも、一箇所が密にならないよう分散避難が呼びかけられていて、自治体によっては避難所を増やしたり、一箇所の人数の上限を設けているところもあるので事前に確認を。

避難する際の備品としては、「マスク」「消毒液」「ビニール手袋」「体温計」を備品袋に入れておくのも、確認しておきましょう。ただ、本当に急を要する事態のときは、命だけ持って逃げる!

佐々木アナ:
「命を守るために最善な行動を」、とはいうものの、事前に具体的に考えて決めておかないと、いざ起きてから考えて判断するというのでは間に合わないことを痛感します。

木村アナ:
置かれた状況もそれぞれ違うので、自分にとって最適な行動はどういうものか、具体的に落とし込んでおきたいです。

防災士ハッチー:
そして、今週いっぱい雨が続く予報です。すでに大雨が降ったところは地盤が緩んでいるので、土砂災害にもくれぐれも警戒をお願いします。

「想定以上の」また「観測史上最大」を塗り替えるような豪雨が相次いでいます。
早め早めの行動で、命を守りましょう。
「起こってからでは遅い」と肝に命じつつ。

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【執筆:フジテレビアナウンサー 佐々木恭子】
【監修:報道局社会部 気象庁担当 防災士 長坂哲夫】
【表紙デザイン+図解イラスト:さいとうひさし】

佐々木恭子
佐々木恭子

言葉に愛と、責任を。私が言葉を生業にしたいと志したのは、阪神淡路大震災で実家が全壊するという経験から。「がんばれ神戸!」と繰り返されるニュースからは、言葉は時に希望を、時に虚しさを抱かせるものだと知りました。ニュースは人と共にある。だからこそ、いつも自分の言葉に愛と責任をもって伝えたいと思っています。
1972年兵庫県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、『とくダネ!』『報道PRIMEサンデー』を担当し、現在は『Live News It!(月~水:情報キャスター』『ワイドナショー』など。2005年~2008年、FNSチャリティキャンペーンではスマトラ津波被害、世界の貧困国における子どもたちのHIV/AIDS事情を取材。趣味はランニング。フルマラソンにチャレンジするのが目標。